THE CHASER
 
 

kyo


 
 
 
 
 

退路を断たれただろうか。
あたしは、木の幹に身を持たせかけ、深くため息をついた。
あたりは暗い。
ライティングをかけるべきかどうか、あたしは迷う。
あたりを照らさなければ、足下を確認する事すらできない。
だが、明かりをつけてしまえば………見たくないものを見てしまう結果になるかもしれない。
そんなことになったら、あたしは耐えられないだろう。
かさりっと小さな音がする。
体にふるえが走るのを止められない。
足音など立ててくる相手ではないと知っているのに………。
神経質になっているのだろうか。
どうしよう。
呪文でかたをつけてしまおうか。
あたしはこの場で使えそうな呪文を頭の中にざっと並べ立てる。
例えば、ディルブランド………。
駄目だ。
あたしは首を振る。
あの呪文は土砂を巻き上げる。
周りを巻きぞいにするのはどーということもないが、この呪文では、相手も空中に吹き上がり───あまり考えたくないがここまでとばされてくる可能性もある。
では、ファイアーボールはどうだろう。
これも駄目だ。
周囲がこの状態では、あたしまで術に巻き込まれる。
───いっそのこと、ドラグスレイブをかければいいのだろうか?
ドラグスレイブを避けられる相手はほとんどいない。
───たとえ、魔族が相手でも───。
そうだ。
そうしよう。
あたしは覚悟を決め、
呪文を唱えるための精神集中に入る。
「リナ」
と、その時、控えめな声があたしの名を呼んだ。
「………ガウリイ………」
信じられない気持ちであたしは声の方向を振り返る。
見慣れたはずの長い金の髪が、本物の光ででもあるかのように、あたしの目に映った。
いままで張りつめていたものが、一気に消え失せるのが判る。
「………ガウリイ………」
あたしは、ただ、名前を呼び、飛びつくようにガウリイに身を寄せる。
ガウリイがびっくりした顔であたしを受け止めた。
力強い腕が、躊躇いながらも、しっかりとあたしの体をささえてくれる。
「どうした?」
ガウリイの問いかけに、あたしはただ無言で、それがいるとおぼしき方向を指し示す。
ガウリイが一瞬体を堅くしたのがわかった。
そして、すぐに力を抜いたのも。
「………………おい、リナ………それはナメクジじゃない。ただのカタツムリだぞ」
「へ? カタツムリ?」
あたしはガウリイから上半身だけ身を放す。
恐る恐るガウリイの指さす先をたどって行くと………
そこには、ちんまい殻をちょこんと載せたカタツムリの姿があった。
「なんだ。カタツムリなの?」
あたしは体に回されていたガウリイの手を振り払う。
カタツムリの方に近寄り、覗き込んだ。
「ちょっと………おどかさないでよね。
怖がって損しちゃったわ。
まったく………いい度胸よね。
よりにもよってこのリナ=インバースを騙そうとするなんて」
更に言い募ろうとしたあたしは、だが、視線を感じて顔を上げた。
「何? どうかしたの、ガウリイ?」
ガウリイは、何やらわきわきと所在なげに自分の手を動かしている。
あたしの問いに、ガウリイが力無く首を振った。
「いや、………正直者って、損するな、と思ってさ………」
 
 
 
 

〜めずらしくあとがき(もしくは言い訳)〜

はい。ここまで読まれた方、ご苦労様でした。
これは4000カウンタをゲットされたみきゅさんのリクエストによって書いたものです。
いただいたお題は「でんでんむし」でした。
私が思いついたネタは短かったんですが、ついつい二つの話を組み立ててしまい、片方は『でんでんむしむし』という文章になってます。
本当でしたら、この文章も『でんでん………』の後につなげて書くべき話なんですが、それをやるとタイトルですでにネタがばれてしまうので、ちょっと別ページにしてみました。でもやっぱりちょっと短い………。
 
 
 

        

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