でんでんむしむし
kyo
「なあ、リナ」
ガウリイがしげしげと自分の手のひらに載せたものを見つめた。
「何よ」
リナが気のない返事を返す。
「───このナメクジ、からがあるぞ」
ぽかっ。
景気のいい音がして、ガウリイは頭を押さえた。
リナが胸を張ってガウリイをにらみつける。
「何馬鹿なこと言ってんのよ、ガウリイ。殴るわよ」
「だから、殴る前に言ってくれよ………頼むから………」
リナはガウリイの苦情を無視し、ひょいっとガウリイの手の中にあるものを覗き込んだ。
あきれたようなため息をひとつ漏らす。
「………あのねえ………。
あんたには言うだけ無駄なのかもしれないけど………。
それはね、でんでん虫よ。マイマイとかカタツムリっていうアレよ、アレ。
それを、よりにもよって、あたしの嫌いなナメクジと一緒にするとは………
許し難い過ちだわ。ガウリイ」
ガウリイがひょいっと自分の手を引っ込める。
「───何だよ、些細な違いだろ? 殻があるかどうかなんてさ」
ぱかん。
リナのスリッパがガウリイを襲った。
「ぜんっっぜんっ、違うっっ!!」
リナがわしっと握り拳をつくる。
「殻があるなしの違いが些細?
とんでもないわ。
乙女にとって、相手の見た目は大切なのよっ。
あんたがのーみそくらげだろーがすらいむだろーが、
不動の人気を誇っていられるのも、その見た目があってこそっっ。
もし、あんたの髪が短髪だったり、もっと筋肉りゅーりゅーだったりしたら、
まず、今の人気はなかったわね」
「………何の話だよ、そりゃ………」
コホンとリナが咳払いをした。
「………ま、それはさておき。
ナメクジとカタツムリってちょっと種類が違うのよ」
リナは唐突に眼鏡をかけ、目の前に分厚い本を広げた。
「………どっから出した………?」
リナはガウリイの台詞をあっさり聞き流した。
「まあ、確かにナメクジとカタツムリは親戚と言えば親戚よ。
確かにどちらも陸生貝類………早い話が海に住んでいる貝の仲間ね。
もっと正確に言うなら「軟体動物門」「腹足網」「柄眼目」。
でも、ナメクジはナメクジ科、カタツムリはマイマイ科に分類されてるわ。
元々は水棲の貝だったのが、進化の過程で陸に上がり、
そのまま殻の名残を残したものがマイマイ。殻を退化させてしまったものがナメクジなの。
そのおかげで、カタツムリは昼間活動できるのに、ナメクジの活動時間帯は主に夜。
人様の寝静まった頃に、暗く湿ったところを這いずり回る………。
闇のさだめを背負うものになってしまったのよ」
ガウリイが胡散臭そうにリナを見る。
「………だから、どこの世界の話だよ、それ………」
リナは涼しい顔で、再びガウリイの台詞を聞き流した。
「………まあ、それもおいといて。
要はね、あたしが言いたいのは、ナメクジとカタツムリは、違う種類だってこと。
殻があるかないかだって、大きな違いなのよ。
大体ね、ナメクジとカタツムリが親戚だっていうなら、流氷の天使と言われているクリオネだって、アメフラシだってサザエだって親戚よ」
ガウリイが手のひらの上のカタツムリをじーっと見つめる。
「………でもなあ、オレには同じに見えるんだがなあ………」
ふっとリナが口元に笑みを浮かべた。
「そう………なら、試してみる?
こんど食事に行ったら、ガウリイにはエスカルゴのかわりにナメクジ出してもらうってことにして」
「おいっっ、なんて事言うんだよっっ。このオニっっ。ドラまたっっ」
リナは無邪気そうな表情でガウリイを覗き込む。
「あら、ナメクジもカタツムリも同じなんでしょ? ガウリイ」
しばらくガウリイは抵抗するようにリナを見ていた。
が、やがてがっくりと肩を落とす。
「…………すいません、オレが悪かったです……………」
ふんっとリナが鼻を鳴らした。
「わかればよろしい」
ガウリイが深くため息をついた。
オマケ
ふと気がつくと、ガウリイは宿の片隅で、アジサイの脇にしゃがみ込んでいた。
「どうしたの、ガウリイ? 何、カタツムリとにらめっこなんかしてるのよ」
あたしの問いに、どこがほーっとした表情のガウリイが答える。
「………いやー、なんだかこのゆったりとした動きを見てると、
心が洗われるような気がして………」
「そ、そう?」
引きつった顔をして答えるあたし。
カタツムリなんか眺めながら、何考えてるかな………こいつ。
ガウリイがにこにことあたしの方を振り返る。
「………なあ、リナ。今度の着ぐるみ、こいつじゃだめか?」
をひ。
「………………………好きにすれば?」
あたしはため息をついた。
〜珍しくあとがき(もしくは言い訳)〜
4000番目のカウンタをゲットされたみきゅさんがくださったお題は、「でんでんむし」
でした。小さい頃庭でカタツムリと戯れていた私は、ネタの一つや二つ簡単に思いつくだろうと思ったのですが、いざ書こうとすると、カタツムリって、意外と特徴がない……。
そのせいか、なんだか本当に短い文章になってしまいました。
それでも、最初に思いついたのが
>「リナ、リナ、すごいぞっっ」
>「何が?」
>「見ろよ、このカタツムリ、殻がとれてる!!」
>「ンなわけあるかいっ。なんてモン持ってくるのよディルブランドっっ!!!」
だっだのに比べれば、ちょっとは伸びたんですけど………。
ちなみに、上の文章では殻のあるなしで、カタツムリとナメクジを区別してますが、世の中には殻のあるナメクジも、殻のないカタツムリもいるそうです。
………でも、そしたら、殻のあるナメクジとカタツムリの違いって、何………?