〜幕間〜
kyo
「リナさーん」
いきなり背後から声をかけられたリナは飛び上がった。
「おどかさないでよ、アメリア。何かあったの?」
アメリアはにこにこ笑って答えない。
代わりにリナの目の前に、ずずいっと、瓶を一本突き出した。
「いいもの手に入れたんです」
リナがいぶかしげに瓶のラベルを読む。
「木イチゴのお酒? こんなものどこから見つけてきたの?」
「さっき、町で困ってるおばあさんを助けたらいただきました。ここの町の名産なんだそうです。味見してみませんか?リナさん」
「へえ。アメリアの正義もたまには役に立つわね」
リナがウインクした。
「男性陣に見せたら、あっという間になくなっちゃうからね。あたしたちだけでいただいちゃましょ」
「はいっ」
ハートマーク付きでアメリアが答えた。
「リナさん」
アメリアは、彼女にしては珍しく、何かを言いかけてはやめるという動作を繰り返した。
「あの、その………」
「どうかした? アメリア」
「あのですね、リナさん。好きな人ができたらどうすればいいんでしょう?」
ぐわたがたがたどがらんっ。
すごい音がして、リナが椅子からずり落ちた。
「………とっっ、とーとつに、どうしたのよアメリア。なんか悪いもんでも食べた? それともゼルになんかされたの?」
「違いますっ。あたしの事じゃありませんっっ」
「………その割には顔、赤いけど?」
「人ごとだってやっぱりこういうこと聞くのは恥ずかしいじゃないですか」
「そう? ま、まあいいわよ。そーゆーことにしてあげるわ。だからあとでちゃんと聞かせなさいよ。………それで?」
「………ですから、違いますって………あの、ですね。ある女性が男性に思いを寄せているんだけど、なかなか想いが伝わらないみたいで………」
「………アメリア………それ、ほんっとーにあんたとゼルの事じゃないでしょうね………」
「ちがいますっ!!!」
「そう? ンじゃ、やっぱしそーゆーことにしといてあげるけど………想いを伝える方法ね………」
リナがぽんっ、と手を打った。
「やっぱ、そーゆーときは実力行使あるのみよ。押し倒しちゃえばいいんじゃない?」
にこやかに答えるリナを、アメリアがじっと見据える。
「リナさん………それ、本気で言ってます………?」
「人間、前向きが一番よ。そのくらいの覚悟があれば、相手に想いぐらい伝わるって」
「………それって、なんか順番違いませんか?」
「そーお?」
「それにですね、相手がこっちを受け入れるかどうかなんて、わかんないじゃないですか」
リナが、自分のグラスを力一杯握りしめる。
「そんときは、相手に魅了の呪文でもかけて押し倒すっっ」
はあ、とアメリアがため息をついた。
「………リナさんそれって犯罪………」
「まあ、状況によっちゃ、そうよね」
ゆるゆるとアメリアが首を振る。
「………リナさんに聞いたあたしが馬鹿でした。
例えリナさんでも、あたしより長く生きてるんだし、ちょっとはガウリイさんとなんかあったりしたかなーと思って、一応、聞くだけは聞いてみたんですけど」
そう言って部屋の天井を仰ぐアメリアに、
「………聞き捨てならないこと言ってるわね。アメリア。あたしが何だって?」
リナが詰め寄る。
「ひーん。ごめんはふぁい………」
思いきりほっぺたを引っ張られて、アメリアがあわてて謝った。
「でも、ほんと、一体どうしたのよ、アメリア」
リナが不思議そうに首を傾げる。
「唐突にこんなこと聞くなんて………やっぱゼルと何か………」
アメリアは、どんっとグラスを机に叩きつけた。
「違います」
リナを見る目が据わっている。
「………はい………」
リナが少し引きつった表情で頷いた。
アメリアがぽつりとつぶやく。
「ひどいですよね、必要な時は『仲間』として扱ってくれるのに、それ以外の時は、何かというと子ども扱いして………。
冷たくされる訳じゃないけど、受け入れてもらってる訳でもない。
でも、そんなちょっとしたことで、舞い上がったり落ち込んだり………。
どうしてそんな思いしなきゃなんないんでしょう。」
ため息をつくアメリアを、リナが横目で見てふっと笑う。
「………あんたも女の子だったのねえ。アメリア」
「ちょっと、リナさん。いまの台詞………あたし、リナさんにだけは言われたくないです。リナさんにだけは」
「───だから、どういう意味なのよ。アメリア」
リナがアメリアを睨む。
ただ、その顔には微笑が浮かんでいる。
「でもね、そーゆーのはそーゆーので、いいんじゃないの? それこそ、恋の醍醐味ってやつで」
「………リナさんは、そーゆー思いってしたことあります?」
「………さあ、どうかしらね………?」
リナが苦笑する。
続いたつぶやきは、アメリアには聞こえなかった。
「ふと気がついたら、選択肢なんて、なかったのよ………あたしにはね」
物音を感じたアメリアはふと目を覚ました。
「あれ? ガウリイさん?」
「おう、起きちまったのか、アメリア」
のんびりとした口調でガウリイが答えた。
テーブルにうつぶせてるリナの方にかがみ込んでいる。
ふっとため息をついて、
「また、こいつは強くもないのに、こんなに飲んで………お子様のくせに」
アメリアが、ふと真顔になる。
「………まだ、リナさんをお子様扱いするんですか?」
「ん?」
ガウリイが、そっと壊れ物ででもあるかのようにリナを抱き上げる。
「もう、子どもじゃありませんよ。私も………リナさんも」
アメリアがガウリイをにらみつけた。
「………こいつの場合、普段の言動が言動だからなあ。」
ガウリイが腕の中の少女を見て苦笑する。
「ガウリイさん!!」
アメリアの声に、ふっとリナの肩が揺れる。
ガウリイがアメリアの方を向きそっと指を口元に当てた。
リナの睫が揺れ、まだ眠りの世界をさまよう視線が、自分を抱き上げるガウリイを捉えた。
穏やかな笑みがその口元に浮かぶ。
唇が何かの言葉を刻んだようだったが、アメリアにはわからなかった。
リナが、ゆったりと青年の肩に頭をもたせかけ、その瞳を再び閉ざす。
その口元には、笑みの名残が淡く残っていた。
「オレは、あれこれ考えるのは苦手だからなあ」
ガウリイが、腕の中、静かに眠る少女を見つめながら言う。
「でも、今のままっていうのが、嫌いじゃないんだ。
いつかは、変わらなきゃならないんだろうけど。
………それまでは」
ガウリイが口元に笑みを浮かべ、そっと少女を抱え直した。
戸口の方へと歩き始める。
アメリアは、黙ってそれを見送った。
ガウリイが、戸口のところで振り向いた。
「あ、あとでゼルに迎えに来るように言っといたからな、アメリア」
開かれた扉からランプの明かりが細長く部屋に伸び、再び暗闇に帰る。
外で交わされるガウリイとゼルガディスの声を聞きながら、アメリアはゆっくりと瞳を閉ざした………。