ぷろぽーず

kyo



 
 
 

 
ある時、唐突にゼロスが言った。
「リナさんって、そんなに、あのくらげさんがいいんですか?」
………唐突に、一体何を言い出すかな、このすーだら魔族は………。
あたしはちらりとゼロスを見、乾いた口調で返事をした。
「余計なお世話よ」
ほんとにね。
あたしの耳に、ゼロスが、ふむ、とつぶやいたのが聞こえた。
やがて、ぽんっと手を打つと、、
「ねえ、リナさん。くらげさんなんかより、僕を選んでみませんか?」
なにやらあたしの方にかがみ込み、さわやかな笑みをその顔に浮かべる。
ホントに、何を言い出すんだろう、こいつは。
………なんかヘンなものでも食べたんだろうか。
そんなことを考えているあたしにかまわず、勝手にゼロスが話を進める。
「魔族ってのもいいもんですよぉ。
人間は、相手の「若さ」にこだわる事が多いみたいですけど、
僕たち魔族には、年齢なんて関係ありませんからね。
僕とリナさんが一緒になれば、
リナさんがいくら年老いたとしても、つれあいのぼくは若いまま」
………をひ………。
「誰がほしいか、んなつれあいっっ!!」
思わずあたしが突っ込むと、きょとんとゼロスは首を傾げた。
「つめたいですねえ、リナさん。僕、料理だってうまいのに」
「うっ………」
ゼロスの台詞に、あたしの喉からついつい低いうめきがもれる。
「───あんたの言う『料理』って───ひょっとして、あれ………?」
顔が青ざめていくのが自分でも判る。
そう、あたしはかつてゼロスの『料理』を目にしたことが確かにあった。
もっとも、アレを料理と呼ぶことができるのなら、だが………。
あれは、今思い出しても身震いのくる、恐ろしいシロモノだった。
そのときのゼロスのセリフを思い出す。
「………確か、黄金竜王も一口で倒すとか言ってた………」
「覚えていていただいたんですか? リナさん。あれは、ほんの一例なんですけどね」
天使のような笑みで、ゼロスが答える。
………一例もなにも、二度と見たいとは………よもや食べてみたいなどどは………
いくら好奇心のつよいあたしでも、決して思わない。
それにしても、アレを、『料理』と言い切るとは………。
あたしの額を、一筋、二筋、汗が伝う。
「流石、魔族………」
青ざめた表情のままつぶやいたあたしに、
へらへらとゼロスが笑い顔を向けた。
「いやあ、リナさんに感心されちゃいました♪♪」
「───誰が、感心しているかっっ!!」
な、なんだかなあ………。
そこはかとない疲労を感じ始めたあたしを、
それでもゼロスは解放してくれなかった。
それどころか、ずいっとあたしに詰め寄ってくる、その視線がなにやら怖い。
不本意この上ないことだが、近寄ってくるゼロスを避けるために、あたしはついつい、後ろに引いてしまった。
ゼロスは、いつものにこ目であたしを見る。
でも、その目がなにやら据わっているように思えたのは、はたしてあたしの気のせいなのだろうか。
「───実は、料理の他にもちゃんと特技がありまして」
「………そ、そう………?」
「掃除洗濯なんかも得意です」
は?
そーじせんたく?
なにやら世界が回ったような気がして、あたしは自分の頭を押さえた。
そりゃ、あたしも掃除洗濯は得意だし、誰であれ、それができて困るってことはないだろうけど。
「………何で魔族が掃除洗濯………」
「いやあ、僕ってかわいそうな中間管理職ですから、一応、何でもできないと………。
カタートにはちゃんとゴミ当番なんかもありますし」
「………………………………………」
………カタートでゴミ出ししてる魔王の腹心達って、一体………。
曜日ごとに、燃えるゴミだの燃えないゴミだの、分けて出してみたり、
これはリサイクルできる、なんて分別してたりするんだろうか………。
………もはや突っ込む気力もない………。
あたしはこめかみに手を当てて、深くふかーくため息をついた。
ゼロスに向かって、力無い手をひらひらと振って見せる。
「───あのねえ、ゼロス。あたしは旦那にもらうなら、人間がいいの。
魔族なんて論外なのよ。ろ・ん・が・い!!」
なんでこんな当然のことをわざわざ言わなきゃならないんだか。
ところが、このあたしの当然の台詞にゼロスはきょとんと首をかしげた。
「旦那さん?」
なにやら妙な顔をしてあたしを見る。
「………僕がしてるのは、リナさんの奥さんの話ですが」
「へ?」
あたしはきょとんとゼロスを見た。
ゼロスが邪気のない笑顔をあたしに向ける。
「だって、ほら、リナさんってその辺の男の人より、よっぽど男らし………」
最後まで言わせず、あたしのストレートが、ゼロスの腹部をざっと襲う。
手加減などなしのその一撃は、だが、さり気ないゼロスの動きで宙を切った。
ちっ。避けられた。
ゼロスはあたしの手の届かない位置に避難している。
その顔には、苦悩する聖職者のような表情をが浮かんでいた。
「リナさんってば、なんて無謀な………。まさか、旦那さんもらう気でいたなんて………」
あたしは、ゼロスを睨みつけた。
頬に血が上っているのが自分でも判る。
「あのねえ、ゼロス………あたしだってねえ………」
「旦那さんにできる人の一人や二人はいますって?」
にやりと笑ったゼロスがあたしを見る。
「う゛」
不覚にも、あたしは、一瞬、言葉に詰まってしまった。
即答しなきゃいけなかったのに。
「そ、そうよっっ!」
続けた声は、自分でもちょっと情けない。
ゼロスにもそれは判ったのか、
「ま、いいとこガウリイさんくらいでしょうけどねえ」
にやにやと人の悪い笑みを浮かべる。
あたしは黙ってゼロスをにらみつけた、
やがて、ゼロスが肩をすくめて両手を上にあげた。
妙に人間くさい仕草で、ため息をつく。
「───あのですねえ、リナさん。
ガウリイさんを旦那さんにしてみたい気持ちは分かりますが、
よーっく現実を認識してくださいね。
この間の事件でも、冥王様にさらわれたのは、ガウリイさん。
助けに行ったのはリナさんでしたよねえ。
この場合、誰が「王子様」役で、誰が「お姫様」役になってます?」
………そういうこと言うか、こいつは………。
答えを返すことができないあたしに、勝ち誇ったようにゼロスが笑いかけてくる。
「ほーらね。きっと誰に聞いたってリナさんが「王子様」。
だったらこの場合、「王子様」のリナさんが「旦那さん」で、ガウリイさんが「奥さん」。
どうです? 僕、何か間違ってますか?」
あの、ぼけクラゲっっ。
あたしは小さく毒づいた。
全く、あいつのせいでっっ。
「………ゼロスにまでこんな事言われなきゃなんないなんて………あのクラゲ………」
覚えてなさいよ、ガウリイ。
あたしにこんな情けない思いをさせた埋め合わせは、絶対させてみせるんだから。
ゼロスが、再びあたしの側に寄ってきた。
含み笑いをしながら、あたしの耳元にそっとささやきかけてくる。
「………ですから、そんなクラゲさんなんか放っておいて、僕を選んでみませんか?」
艶のある低い声は、正体を知っているあたしにさえ、背筋をしびれさせるような甘さを持って響く。
あたしはふいっとゼロスから視線をそらした。
あたしの反応をどうとったのか、
ゼロスはなおもあたしにささやき続けた。
「ガウリイさんなんて、放っておけばいいんです。
ガウリイさんには無理ですが、魔族の僕なら、ちゃんと、リナさんのお好みに合わせることだってできますよ。
女性の体型だってとれますし………顔も体も自由自在。胸の大きさだって相手の方のお好みのまま───」
ん?
あたしは、ふと。眉を寄せた。
「───ゼロス───?」
「はい」
無邪気そのものといった表情でゼロスが答える。
「───ひょっとして、あんたそれを言いたかった訳───?」
「はい」
満面の笑みで、ゼロスが答えた。

「───ラグナブレードっっ!!」

呪文を唱えるあたしの声が、森の中に響きわたった。
 
 

───その日、あたしが作った山のような手料理を前に、喜びつつも首をひねっていたガウリイの姿かあったという───。
 
 


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