〜幕間〜

kyo


〜女の子ばーじょん〜




「アメリア、ぼーっとした顔して、何読んでるの?」
テーブルで本を読んでいたアメリアは、リナの台詞に、ひょいっと顔を上げた。
「え? ああ、リナさん。
竜に襲われた少女と、それを助けた某国の王子のお話です。
幾多の試練を乗り越えた二人がやがて愛し合い結ばれるっていう、
とってもすてきな話なんですよ。知らないんですか?」
「聞いたことあるような気もするけど………すっごいありがちなパターンじゃない? それ」
リナが空いた椅子に腰掛けながら言う。
「………リナさんが、それ言います?」
アメリアがジト目でリナを見る。
リナは、テーブルの上に置かれたティーセットで、香茶を入れているところだった。
香茶を満たしたカップ手にとり、不思議そうに首を傾げる。
「なんでよ」
「これって、そのまんまリナさんとガウリイさんじゃないですか」
ぶっと思わず香茶を吹きそうになって、リナがむせる。
せき込むリナに気づいているのかいないのか、
「あたし、前に聞いたんですけど、確かリナさんって、
盗賊に囲まれたところを、ガウリイさんに助けられてるんですよね。
危難に陥った女性を助ける男性………こういうお話の「お約束」、そのまんまじゃないですか。
しかも助けてくれた男性は見た目も剣の腕も文句なし。
性格だっていいですし………文句なしの王子様役ですよねえ」
どこか遠くの方を見ながらアメリアがつぶやく。
ようやく立ち直ったリナがため息をついた。
ちゃりんと言う軽い音と共に、カップを受け皿に戻す。
「それ、ちょっと訂正しとくわ。
あのときあたしは困ってなんかなかったし、
助けてもらう必要なんて、ガウリイの脳味噌ほどもなかったのよ」
身も蓋もないリナの台詞に、アメリアががっくり首を落とす。
「ガウリイさんの脳味噌ほどって………リナさんむごい………ほんとのことですけど………」
「………あんたも結構ひどいこと言うわね、アメリア。
でもさ、そんなヤツ相手に、ンなお伽話みたいなこと、あるわけないでしょう?」
今度は、アメリアがため息をついた。
「………せっかくこんな少女漫画な設定なのに………。
せっかく二人とも性格はどうあれ、見た目だけはいいのに………なんて夢のない………」
「あたしの見た目がいいってのに異存はないけど、なによその「性格はどうあれ」ってのは」
ふにふにとリナに頬を引っ張られ、アメリアが、あわてて謝る。
「ひーんごめんふぁふぁいー」
「ふんっ」
アメリアから手を離したリナは、香茶に手を伸ばした。
一口飲み込んでから、言葉を継ぐ。
「大体ね、魔物にとらわれたお姫様を助けてるのは、あたしの方よ、あ・た・し・の・ほ・う。
冥王にとっつかまったあいつを助け出したのはどこの誰だと思うかな?」
アメリアも、自分の香茶に手を伸ばした。
「そうですねえ………、あれじゃあ、ガウリイさんの方が「囚われの姫君」でしたよねえ………
でも、それを助けにいったリナさんって、そしたら何なんでしょうね?」
「もちろん、天才美少女魔道士よ♪」
言い切るリナに、アメリアがさらに脱力した。
「………いえ、そーゆー意味じゃなく………
じゃあ、言い方変えますけど………
リナさんは、そうすると、たままたま旅の道連れになった脳味噌クラゲな相手を助け出したわけですね。
あんな苦労して」
ティーカップを口もとまで運んだ姿勢のまま、小首をかしげたリナがアメリアを見た。
「ま、あたしの持ちもの、持ってかれたから………仕方ないんじゃない?」
「念のため聞きますけど………リナさん。その持ち物って、光の剣、ですか?」
「ま、ね。それとまあ………そのオマケ」
リナはこくりと香茶を飲み込んだ。
なにやら天井のほうを向いている。
アメリアと視線を合わせようとはしない。
アメリアがくすっと笑った。
「どっちがオマケでどっちが本命だったんでしょうね」
「何か言った? アメリア」
カップの向こうから、軽くリナが睨む。
「いいえ、何も」
アメリアは笑いながら首を振った。
窓の外を仰いだリナが、独り言のよう言う。
「まったくね………なにもあんなにあっさりとっつかまること、ないじゃない?」
「それは、相手が悪すぎたんですよ………それに」
「それに?」
「例えさらわれたのがリナさんでも、ガウリイさんなら、きっと助けに行ってくれますよ」
アメリアの台詞に、リナがふわりと、笑みを浮かべる。
普段は決して見ることのないその表情をみて、アメリアはふと息を飲んだ。
それは、いつも見せる力強い笑みとは違う、穏やかで誇らしげな笑み。
もう少女とは呼べない表情を浮かべて、リナがつぶやく
「………ま、そうかもね」
瞳を閉ざし、下を向いたリナの表情を、こぼれ落ちる栗色の髪が隠す。
「リナさん………?」
アメリアはためらうように声をかけた。
と、リナがいきなり顔を上げる。
「でもね。か弱い女子どもに助けに来させたって事実は、変わらないわ。
………やっぱこの落とし前は、どっかでつけてもらわなくちゃね。
とりあえずは、夕飯でもおごらせちゃろうかしら?」
「………リナさん………リナさんって………やっぱりリナさんなんですね………
一瞬期待したあたしが馬鹿でした………」
「あのねえ、アメリア」
リナが、カップをソーサーに戻し、かたんと立ち上がった。
いつものいたずらっぽい笑みでアメリアを見つめる。
「あたしにお節介やくまえに、自分の方、何とかしなさいよね。
それとも、あたしがなんとかしたげようか?」
一瞬、アメリアの頭の中を、かつて聞いたリナの異名がよぎっていく。
確か、赤い糸切りのリナちゃんとかなんとか………。
「………それだけは、絶対に遠慮します………」
リナはくすくす笑い、ドアの方へと向かった。
 
 


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