絶望の果てに

kyo






ゼロスが言った。

「いやあ、ちょっとダメージくらっちゃいまして……
で、ものは相談なんですが、
ちょっとばかりお食事させてはいただけませんか?」

あたしは、ジト目でゼロスを見た。
「食事って……ゼロス、
あんたさっき食べてたあれは食事じゃなかったとでも言うつもり?
しかも、どさまぎに勘定書きあたしに押し付けて……」
ゼロスは、ぱたぱたと手など振りながら、
「いやあ、
僕ってほら、いちおー魔族ですから、
あれじゃちょっとばかり足りないんですよ」
……いちおー魔族って……言うか?普通、自分で……
「……ランチ全メニュー制覇してたみたいだけど?」
「あれはあれ。これはこれです。
まあ、リナさんたちならご存知でしょうけど、
僕たちの主食って、あなた方人間の
恐怖や怒り、絶望、悲しみなんかなんですよね」
にっこり笑って言うゼロス。
さわやかに笑いながら言う台詞かい。
「愛の献血運動のつもりで、
ちょっとばかり僕に負の感情のおすそ分け、してくれませんか?」
「やだ」
即答するあたし。
「大丈夫です。リナさんの感情って、強そうですし……。
思い出していただくだけでいいんですよ。
初めてだって大丈夫です。
別に、痛くしたりしませんから……」
……何の話やら……。
あたしはため息をついた。
「……そんなの、どっかその辺で調達してきたらいいじゃない」
にっこりとゼロスが笑った。
「いいんですか?
じゃ、手始めにその辺の村を一つ二つ壊滅して……」
「ちょっとまてぃ!!」
あわててゼロスの襟首をつかむ。
今、こいつ本気で空間を渡りかけてたな。
ゼロスに本当にンなことやられたら、
いくらあたしでも寝覚めが悪くなる。
こいつ……、最初からあたしにたかるつもりだったな……
「……仕方ないわね……」
……あんまり……もとい、全然……気乗りしないけど……
やるっきゃないんだろうか、献血運動。
………と、待てよ。
「ねえ、ゼロス……
ガウリイじゃダメなの?
こいつなら気力……はわかんないけど、
体力ならありあまってるし、
ちょっとぐらい痛くしちゃっても平気よ
どんどんやっちゃって」
「……おい……リナ……」
ガウリイの苦情はとりあえず、無視。
ところがゼロスはため息をついて、
「リナさん……『恐怖』を感じるには、知性と想像力が必要なんですよ?」
あたしはゼロスを見た。
ついでに、ガウリイを見た。
「……ごめん。やっぱガウリイじゃムリだわ……」

「で、あたしはどーすりゃいいわけ?」
半ばやけくそで開き直るあたし。
うら若き乙女が、文字どおり魔族に喰い物にされるなんて……
ううう。
これというのも、あんたが使い物にならないせいよ。
あとで覚えてなさいよ、ガウリイ。
とりあえず、あたしたちは街道の脇、人目につかないあたりに座り込んでいた。
昨日までの雨が上がった空は、余計な汚れがないせいか、
どこまでも澄んでいる。
周囲には、鳥の声があふれ、お弁当をもって散歩するのに、これほどいいシチュエーションはないだろう。
あたしたちの前に座り込んでいるゼロスも、のどかに言う。
「そうですね……恐怖や絶望なんて、結構おいしいんですが……
恐怖……は、リナさんの場合、ちょっとムリですか?」
訂正。台詞は全然のどかじゃない。
やれやれ。
あたしはしぶしぶ考え始めた。
「うーん……絶望でよければね……感じたことあるわよ……」
答えるあたしに、
「ええっっ? リナが?」
なぜ、そこで驚く? ガウリイ。ついでにゼロス……あんたまで……。
どう反応しようか迷うあたしの前で、
ガウリイがいきなりポンと手を打った。
「そうか……リナの絶望って、その小さなムネ……」
『バーストフレア!!』
そしてガウリイは、お星様になった。
ゼロスがガウリイが飛んだとおぼしき方に合掌する。
「……いや、本能的な恐怖というのもなかなか……。ごちそうさまです」
……ガウリイの恐怖食べたな……こいつ……。
知らんぞ、クラゲがうつっても……。
「さて」
ゼロスがこちらに向き直る。
「じゃ、今度はメインディッシュですね……」
ちっ。やっぱあれじゃ足んなかったか……
「ま、そう緊張せずにいきましょう」
「そうは言われてもねえ」
「胸のことはさておいて」
をひ。
「リナさんが絶望を感じるときって、どんなときなんですか?」
あたしが答えるまでにはちょっと間があった。
「……そうね……ガウリイのこと、考えるときかな……」
あたしはつぶやいた。
「……リナさん……?」
「出会って、すぐにわかったんだけどね……
ガウリイって、なんかすごいよね」
あたしは、考え込むようにいったん言葉を切る。
「何と言っても、言ったことを3秒と覚えてられないあの記憶力!!
傭兵のくせに、お金を稼ごうともしないあの甲斐性のなさ!!
極めつけは、なんといってもあのヨーグルトな脳みそ!!
ガウリイじゃ『お使い』に出しても何もできないし……
せめて簡単な計算くらい覚えてもらわないとと思ったんだけど
あれじゃ5歳の幼児のほうがまだマシよね。
ほんと、クラゲに人間の言葉を教えるようなもんよ。
手の施しようもないわ。
これを絶望せずに、他の何を絶望しろって……
あれ? どうかした? ゼロス」
なにやら、ゼロスが胸を押さえている。
「……いえ……ちょっと……
あのですね、リナさん。
僕たちが欲しいのは、そーゆーぜつぼーじゃないんですけど……」
「魔族のくせに、ぜーたくねー」
ゼロスは、気を取り直すように首を振った。
「……じ、じゃあ、質問を変えます……
なにか悲しかったことがあったら思い出していただけますか?」
「悲しかったことねえ……」
再び考え込むあたし。
お、あったあった。
「昨日の盗賊!!」
「は? 盗賊? ………天地がひっくり返ってもありそうにないですが、
そいつらになんかされたんですか? リナさん」
「花も恥らう乙女になんてこと言うのよ、ゼロス。
昨日、せっかく人がガウリイの目を盗んでいぢめに行ってやったってーのに、
あいつら全然、お宝もってなくてねー。
もう、悲しいのなんのって……
今朝は、ちょっぴしヤケ食いしようと、宿屋のモーニングセット、
もう5人前むつもりだったのに、
ぎりぎりで間に合わなかったし……
これってすっごい悲劇よね。
おまけに食後に食べようととっといたデザート、
ガウリイに食べられちゃったし……
すかさずスリッパでぶったたいておいたけど
もう、涙なくしては語れないわ。
そういや、あのクラゲってば、昨日荷物の番してるときに、
あたしのお気に入りのシャンプーの瓶、おとして割っちゃうし……
セイルーンで買ったシトラスの香りのヤツ。
高かったのよっっ!!
きちんと弁償してくんないと泣くぞ。あたしは。
今日なんか、髪をとかそうとしたら湿気のせいではねるばっかりでまとまらないし……
それからそれから……」

ふと気がつくと、なんとなく焦げてるガウリイがちょんちょんとあたしの肩をつついていた。
「……おい……リナ……ゼロス真っ白になってるぞ……」
「へ? なんで?」

かくしてあたし、薄幸の美少女魔道士リナ=インバースは、
すーだら魔族の毒牙から逃れたのであった……
めでたしめでたし。
 
 

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