前夜
 
 

MAY


 

  
 
 夢を、見た。
 愛する人が目の前で引き裂かれ、血の海に伏す姿――。
 冷たい汗に全身を濡らして飛び起きた。
 未だふるえている肩をかかえこむ。荒い息を、なんとか落ちつかせる。
 無性に‥‥会いたくなった。
 地上に降りると、あの人の気配を探る。
 もう妖精の助けを借りなくとも、あの人の気配だけは感じることが出来るようになっていた。
 地上はもう日が落ちて、真っ暗な空に淡い月が浮かんでいた。
 山裾の小さな洞窟。
 小さなたき火の光が照らし出す中、あの人は大剣を抱いて壁に寄りかかっていた。
 その姿を見ただけで帰るつもりだった、でも彼はすぐこちらに気付いて顔を上げる。
 私は、泣きそうな顔をしていたのかもしれない。
 彼は優しく笑って、私に手をさしのべてくれた‥‥。
 甘えだ、とわかっていたけれど、私はその手にすがりついていた。
 抱き寄せられるまま、広い胸に身を預ける。
 そっと、肩に回された腕のぬくもりに涙が出そうになった。
 明日は、堕天使との最後の戦いになる。
 もう戦わないで、と喉元まで出かかった言葉を必死でこらえる。
 あなたを、誰よりも愛しい人を、危険に遭わせたくない‥‥。
 出来ることなら、堕天使の手の届かないずっと遠い所に逃げてほしかった。
 でも‥‥それは天使が口にしてはならない言葉。
 なにより、あなた自身の心がそんな甘えを許さない。
 ならば、せめて今だけ。
 今だけ、穏やかな時を過ごさせてほしい。
 あなたのぬくもりと確かな鼓動‥‥『生きている』証を感じながら、私は目を閉じた。
 

 夢を、見た。
 自分が戦いに敗れて地上が破壊され、愛する人が跡形もなく消し去られる光景――。
 はっ、と目を覚まし、焚き火の光に我に返る。
 最後の戦いの直前だと言うに、何と不吉な夢を見てしまったのだろう。
 これも、自分の弱い心が招いたのだろうか?
 と‥‥そんな俺の気持ちを感じたかのように、彼女が姿を現した。とても、悲しそうな顔をして。
 苦笑して、俺は手を伸ばした。
 分かっている、俺は必ず務めを果たす。
 絶対に、君を悲しませたりしない。
 君は、おずおずと、しかし素直に俺の手に縋り、側に来てくれた。
 小さく震える華奢な肩に、そっと腕を回す。
 本当なら、君を戦いに巻き込みたくはなかった。
 なのに‥‥。
 知らないうち、自嘲の笑みが浮かぶ。
 堕天使との戦いには、天使の助けは絶対に必要だった。
 強大な力を持つ堕天使の前には、人間など天使の助けがなければ近付く事すらも出来ない。
 勇者などと言っても、何の力もない。天使がいなければ何も出来ないのだ。
 そう、愛する人を、危険から遠ざける事すら出来ない‥‥。
 無防備に、俺に身を預けて目を閉じている横顔に愛しさが込み上げる。
 強く抱き締めれば折れてしまいそうな華奢な身体、そして光そのものから出来ているような純白の翼――天使の証。
 俺が戦いに勝った時、『天使』である君は俺の元から去ってしまうのだろうか。
 ならば‥‥。
 肩を抱く手に、ほんの少し力を込める。
 せめて今だけ、君を感じる事を許して欲しい。
 君が確かにここにいると言う証を。
 

 この夜が、いつまでも明けなければいいのに。

                                                            END
 
 
 
 

 何となく思いつきで書いたので私にしては珍しく短く仕上がりました。本当はラストバトル直前は船の上のはずなんですが、それだと二人っきりにはなれないんで強引に野宿にしてます。しかし‥‥すれ違ってるんだか何だか良くわかんない話だ‥‥。
 
 



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