MAY
時折、唐突に眠りを破られる時がある。
風に、思いを残して行った者達の恨み声を感じる。
雨に、忘れ去られた者達の泣き声が混じっている‥‥ 。
激しい雨の中だった。
鎧のまま、レイヴは大木を前に剣を構えていた。
何故自分のような者が『勇者』なのだろう、いつもそう思っていた。
初めて目の前に現れた天使は、レイヴに勇者の資質があると告げた。
だが、親友を見殺しにし、その犠牲の上で安穏と地位を得ている自分にそんな物があろうはずはない。
そう思って断ったのに、彼女はあきらめなかった。
何度も何度も折に触れて姿を現し、勇者になれと言って来る。
レイヴはそれに根負けする形で勇者を引き受けたのだ。
戦う事に否やはない。しかし、勇者として名を得る事はレイヴにとって苦痛だった。
そして彼をとがめるように、風の強い日、激しい雨の降る夜‥‥死者達の声は、益々大きく聞こえて来るのだ。
純粋で、汚れを知らない天使の瞳‥‥黒曜石のように輝き、夜の帳のように優しく人を包み込むその色に、レイヴは安堵を覚えていた。
しかし同時に、その瞳を向けられる事に苦痛を覚えてもいた。
自分にそんな資格はない。
天使に頼られていい存在ではない。
だから、振り払おうとした。
英霊祭の後、おずおずと話しかけて来るラビエルの言葉を断ち切った。
いっそ嫌われた方がいいと、そう思っていた。
しかし、ラビエルの存在を、彼女が訪ねて来てくれる事を心待ちにしている自分もいた。
だからこそ‥‥完全に、冷たく拒絶が出来なかった。
全ては、自分の弱い心が悪いのだ‥‥。
たっぷりと水を吸った衣服が、鎧と共に体に重く感じられる。
しかしレイヴは尚も、剣を振り続けた。
この、不甲斐ない自分を斬り捨ててしまえればいいのにと、そう思いながら剣を振る。
と‥‥背後に、覚えのある気配が近付いて来る。
「こんな雨の中、何をやっているんですか!」
心の中から振り払わなければならない、しかしそれがどうしても出来ない面影。
「レイヴ!」
優しい天使は、自らも雨に濡れながら近付いて来ようとする。
「何をしに来た」
振り返らずに言う。
ラビエルの動きが止まった。
「用がないなら、帰れ」
この言葉が彼女を傷つけ、苦しめるであろう事はわかっていた。
しかし、こうでもしなければ自分はきっとラビエルに頼ってしまう。
許されないはずの『救い』を求めてしまう。
レイヴは強いて、ラビエルの存在を忘れたかのように無視し続けた。
言葉を飲んで立ち尽くしているらしいラビエルの気配に、胸がズキリと痛む。
しかしそんな気持ちすらも冷たい雨で洗い流してしまいたいと、レイヴは剣を振り続けた。
しばらく立ち尽くしていたラビエルの気配が消える。
振り返らずとも、彼女の悲しげな顔ははっきりと想像出来た。
「‥‥‥」
振り上げていた剣を、ゆっくりと下ろす。
全身に疲労と‥‥それ以上に重く、暗いわだかまりがのしかかっているのが分かる。
一向にやむ気配のない大粒の雨が、レイヴの全身を激しく叩く。
「あぁ‥‥わかっている‥‥」
レイヴは、低くつぶやいた。
雨に濡れた前髪が、その表情を覆い隠す。
「忘れてはいない‥‥お前の‥‥お前達の事は。忘れてはならない‥‥」
激しい雨が、低いつぶやきをかき消して行く。
死者達の恨みが、嘆きが、哀しく聞こえて来る‥‥。
END
レイヴが女々しいです、はい。たまたま再プレイしていたら(またレイヴをスカウトしてしまって)雨の中の修行のイベントがあったねー、と思いつきまして。でも何か、中途半端になってしまった。