賢者の贈り物

MAY




見習い天使、ラビエルがインフォス守護の命を受けてから、地上界では早、八年の月日が過ぎていた。
 ラビエルの依頼に応じ、地上界の『勇者』達が大陸全土で『時の淀み』につながる事件を解決に導き、世界は危ういバランスを保ち続けている。
 そして徐々に敵の、『堕天使』達の存在が掴め始めていた。
 そんなある日。
 いつもの通りラビエルは、天界に来てガブリエルにあいさつし、ラツィエルの管理しているフロー宝物宮に足を運んでいた。
「ラビエル‥‥ここの所、回復アイテムばかり持って行くようになったわね」
 フロー宝物宮には勇者のためのアイテムや武器防具の類いが常に保管されていた。
「えぇ‥‥みんな、頑張ってくれているのだけれど、それ以上に敵が強くなっているらしくて‥‥」
 ラビエルの表情が陰る。
 天使は直接地上界に干渉する事は出来ず、人間の勇者に頼るしかない。
 そして勇者達が強くなって行くのを見守るしかないのだ。
 うなだれるラビエルを見詰めたラツィエルは、真面目な表情になった。
「あのね、ラビエル」
 真剣なラツィエルの表情に、ラビエルは何事だろう、と身構える。
「あなた、私の所から武器を持って行った事はないわよね?」
 真顔で訊かれ、気圧されながらもラビエルはうなずいた。
「だって‥‥武器は前にガブリエル様から頂いていたから‥‥」
 案の定、の答えに、ラツィエルはめまいを覚えながら言葉を継ぐ。
「ガブリエル様から頂いたのはいつの事?」
 ラビエルは、頬に手を当てて考え込む。
「えぇと‥‥確か、地上界に降りてすぐの事だったような‥‥」
「‥‥やっぱり‥‥」
 ラツィエルが、深いため息をついて肩を落とした。
「え‥‥どうしてです?私、何か悪い事してました?」
 おろおろと困った顔をするラビエルに、ラツィエルは更に深いため息をついた。
「あのね、ラビエル。確かにガブリエル様の下さる武器や防具は、かなりの能力を持った逸品だわ。でもね、地上界でも天界でも、一年も経ったら新しい、強力な武器が造られるものなの。そんな七年も八年も経った武器は、芸術的価値しかないような代物なのよ?」「え?!そ、そうなんですか?」
 思いも寄らなかった言葉に、ラビエルは固まってしまった。
「で、でも、皆何も言わないから‥‥」
「それは天界の、しかもレアアイテムですもの、地上界の人間から見ればかなりの貴重品でしょう。たとえ武器としての能力に難があっても手放せないと思うわよ」
「そんな‥‥」
 口元に両手を当てて絶句しているラビエルに、ラツィエルはため息をついた。
「とりあえず、調べてあげるわよ。‥‥えぇと‥‥何、レイヴ、リュドラル、グリフィンはエレメントソード?しかもシーヴァスにフィアナはゼピュロス?‥‥これって、今ここにある武器の1/3以下の威力しかないわよ?‥‥あなた、良くこんな武器で戦わせてたわね」
 更に追い打ちをかけられ、ラビエルは真っ白になってしまう。
「だって‥‥エレメントソードなんてとっても強そうな名前でしょう?てっきり、このまま最後まで使えると思ったの。大体、グランメタリカはともかく、クリスタルソードなんて使うのに何か制約がありそうに思えたし、それに比べたらゼピュロスの方がもう、最高の武器みたいに聞こえるし‥‥」
 確かに、名前だけ聞いたらラビエルが最終武器と勘違いしても無理はないような気はする。
「それにしたって弱すぎるわよ。近頃勇者達の怪我が多いのはそれね。多少防具が良くても、魔物を一撃で仕留められない武器ではこっちのダメージばかりが大きくなるもの」
「ど‥‥どうしよう‥‥‥」
 真っ青になって、ラビエルはラツィエルに取りすがった。
「どうしようって言われても‥‥アイテムはAPと引き換え、って言う規則は曲げられないから、地道にAPをためてもらうしかないわよ」
 ラツィエルとしては、そう答えるしかない。
「‥‥はい‥‥‥」
 あまりにもショックだったのか、小さくうなずいたラビエルはフラフラとよろめくように出て行く。
 案の定、あちこちの柱にぶつかりながら歩いて行く後ろ姿を、ラツィエルは心配そうに見送った。

 それから、しばらく後。
《レイヴの場合》
「レイヴ!」
 真夜中、宿の部屋にいきなり現れたラビエルにレイヴは慌てた。
 唐突に現れるのはいつもの事と承知してはいたが、寝ている最中に訪ねられてはたまったものではない。
 一発怒ってやる、と息を吸い込んだ時。
「レイヴ、ごめんなさいっっ!」
 ぐしぐしとべそをかきながら、ラビエルが頭を下げる。
「私が全部悪いんです!レイヴが捕まったりしたのも、中々レベルが上がらないのも、いつまで経っても魔物より行動が遅いのも、全部私のせいだったんです!」
「いや‥‥それは違うと思うんだが‥‥」
 出端をくじかれ、気圧されながらも口を開くレイヴの言葉などラビエルは全く聞いていない。
「今更遅いんですけど、受け取ってくださいっっ!」
 布で包んだ長い物を押し付けると、ラビエルは一方的にしゃべって消えてしまう。
「‥‥何だったんだ‥‥‥?」
 呆然とつぶやいたレイヴの手には、大振りの両手剣だけが残されていた。
《フィアナの場合》
 夜、心安らかに寝ようとベッドにもぐりこんだ時、覚えのある気配と共にラビエルが現れた。
 賞金稼ぎと言う仕事上、穏やかに寝られる夜は貴重である。それを邪魔されるのは何より腹が立つ。
「あんたねぇ!何も人が寝ようって言う時来る事はないでしょう!」
 眉を吊り上げて怒鳴りかけたフィアナは、顔を涙でぐしゃぐしゃにしたラビエルに思わずたじろいだ。
「すみません、私が悪いんです!お金も払えないのに無理ばかりさせてしまって、どんな文句を言われても仕方なかったんです!」
「あ‥‥あのね‥‥‥」
 こうまでボロ泣きされると、まるでフィアナの方が悪いことをしているように思えて来る。
「これ、受け取って下さい!せめてものお詫びですっっ!」
 布に包んだ片手剣を押し付けて、ラビエルは消えてしまった。
「‥‥どーしろってのよ、私に」
《グリフィンの場合》
 珍しくも気が向いて修行などしていた時、いきなりラビエルが姿を現した。
「お前なぁ!折角人が‥‥」
 グリフィンの場合、修行する気になるのはめったにない。非常に貴重なこの時を邪魔されれば腹も立とうと言うものだ。
 が、グリフィンはボロボロと涙を溢れさせているラビエルの泣き顔にギョッとした。
「おい、何だよ?また腹でも減ってんのか?」
 わずかに身を引いたグリフィンに、ラビエルはずずいっ、と迫った。無論、ボロボロ泣きながら。
「ごめんなさい!私、本当に世間知らずで物を知らなくて‥‥だから村が襲われても間に合わなかったりしたんです。全部私が悪かったんです!」
「な‥‥何言ってんだお前?」
「これ、使って下さい!私に出来る事はこれしかないんです!」
 グリフィンにも両手剣を押し付け、ラビエルは泣きながら去ってしまった。

 ‥‥そして。
「おい、フロリンダ」
 シーヴァスが、風変わりな妖精を呼んだ。
「はぁい、なんでしょぉ勇者さまぁ」
 間延びした返事と共に現れたフロリンダに、シーヴァスが多少、身を引く。
 ペンギンの着ぐるみをすっぽり着込んだフロリンダの姿は、何度見ても慣れない。
「最近、ラビエルを見ないんだが‥‥どうかしたのか?」
 シーヴァスの問いに、フロリンダは困った顔になる。
「天使様はぁ、今APを節約して武器の調達してるんですぅ」
「‥‥何だそれは」
 人間には、APの概念もなければそれと引き換えに武器を手にする習慣もない。
 首をひねるシーヴァスに、それ以上説明しようがないフロリンダは頭を抱えた。
「まぁ、いい。それより何か最近、インフォス全体に不穏な空気のようなものが感じられるんだが、放って置いていいのか?」
「‥‥天使様に、お伝えしておきますぅ」
 ラビエルが武器の調達に追われているうち、時は流れてもう九年の月日が過ぎていた。 世界のあちこちに姿を現した堕天使達を倒すには、移動時間も含めてかなりの時間がかかると予想される。
 インフォス崩壊まであと一年、果たして勇者は間に合うのか?!

                                                  ‥‥落ちてません、でも終わる
 
 

 実話です。ゲーム開始直後、ガブリエル様からただで装備品がもらえたため、「こりゃラッキー☆」と装備一式をレイヴに貢ぎ、それっきり放って置いたんですね。だってエレメントソード、なんて他のゲームなら最後の方で出て来るような武器じゃないですか?
 おかげで私は、リーガルとの再戦直前まで初期装備のままにして置いて、他の勇者にやろうと思っていた武器と偶然比べて、あまりの違いに引っ繰り返ってしまいましたよ。
 ステータス画面を見れば分かったろうって?そう言われると一言もないです‥‥。
 
 

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