「俺は………俺はなんて事をしてしまったんだっっ」
がつっと鈍い音がする。
レイヴは木に自分の拳を打ち込んでいた。
「止めてください、レイヴ」
あわててラビエルが駆け寄った。
レイヴの力のこもる拳に、両手でそっと包み込むように触れる。
「貴方のせいではありません。レイヴ」
瞳を閉じ、祈るように告げる。
「あれは、不可抗力でした」
レイヴが力無く首を振る。
「いや、あれは俺の油断が招いた事態。
それは避けうる出来事だったはずだ。
それを、むざむざと………っっ」
再び木の幹に拳を打ち付けようとするレイヴをラビエルが懸命に止める。
「止めてくださいレイヴっっ。それを言うなら、私のせいです。
貴方を捜すのに手間取ってしまった私の………。貴方のせいなんかじゃありません」
レイヴがふっと顔を上げ、まともにラビエルを見た。
「………君も………すまない………迷惑をかけて………」
口元に淡く、苦い笑みを浮かべる。
「こんな………ふがいない俺などを勇者に選んだばっかりに………」
「そんな………そんなことありません」
ラビエルがぶんぶんと首を振る。
「私が貴方を選んだのは………」
だが、言い募るラビエルの台詞をレイヴは首を振って遮った。
「君が何を言ってくれたとしても、俺が英霊祭に出られなかったという事実は変わらない」
「でも、それは」
「祖国を守る礎となった英霊の方々に礼を欠くとは、騎士団長として………いや、それ以前に一人の騎士として許されざる過ちだ。立派な騎士であったご先祖さまにも申し訳が立たない。一体、この失態をどうやってわびればいい?
英霊祭の日には、団子を作り、酒を添えて仏前に供えておくのが代々伝わる家訓だったのにっっ。それが俺の代で途切れてしまうなんてっっ」
「………は………?」
ラビエルの動きがちょっと止まった。
レイヴはそれに気付かない。
「それだけではない。1年間捕らわれている間に、俺はすっかりみんなとの約束をさぼってしまった。可愛い部下達と剣の稽古をする約束も、門番のじーさんの犬を散歩させる約束も、食堂のおばさんに頼まれていた雨漏りの修理も、なんだかわからんが二次会で行く飲み屋のお姉さんから今度は一人で来てねと言われた約束も………。それも、全て果たせなかった………」
「………なんかさりげに変な約束入っていませんでした………?」
つっこむラビエルの台詞を、やはりレイヴは聞いていなかった。
「俺がこんなだから………だからリーガルがあんなことに………。
いや、リーガルだけではない。俺が気付いていないだけで、もしかしたら他にももっと………」
レイヴのつぶやきは止まることがない。
ラビエルが小さくため息をついた。
「もう………いい加減悩むのはやめてください、レイヴ。
ほら、お天気だってこんなにいいのに………」
「………天気………そうか、天気か………。天気が良ければ、水が不足して農民が苦しむな………」
「は?」
「………それもみんな俺のせいで………」
「ち、ちょっと、レイヴ?」
「───そうだ、考えてみれば、みんな俺が悪いんだ。
王宮の壁にペンキでいたずら書きをされるのも、
パーティーの後、国王の銅像にシェービングクリームでひげが書いてあったのも、
牧場の牛の乳の出が悪いといっていたのも、隣の犬が吠えるのもっっ」
「ち、ちょっとっっ? 大丈夫ですかっっ」
レイヴは、しばらくぶつぶつと何事かを呟いていたが、
「そうか、判ったっっ」
やおら大きな声を上た。
「何をですか?」
半ば以上義務感に支えられたラビエルが尋ねる。
レイヴは苦悩の表情を張り付かせたままラビエルを見た。
「インフォスの時が止まってしまった原因、それも全て俺がふがいないせいだったんだっっ」
「もう、勝手にしてくださいっっ」
ラビエルが怒鳴った。
勝手にしてしまったレイヴの苦悩は、その後日が暮れても続いたという。
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