目蒲線物語 (目黒〜目黒 目蒲線乗り換え  目黒〜目黒 目蒲線乗り換え) 「僕の名前は東急目蒲線  父さんは東急東横線  母さんは東急田園都市線  そして僕に弟ができた 東急新玉川線  父さん母さんにそっくりのシルバーメタリックの綺麗な電車だ  それに比べてこの僕は 草色の醜い3両編成」 僕の名前は目蒲線 寂しい電車だ目蒲線 あってもなくてもどうでいい目蒲線 だけど〜プライドはあるんだよ 田園調布を走ってる けど 田園調布の人はみんな東横線を使う 東急から見放され いまどきクーラーもついてない 夏は暑くてサウナ風呂 そのくせ冬は冷蔵庫 「僕だって赤坂走ってみたいよう  自由が丘だって祐天寺だって走ってみたいよう」 「なに祐天寺」 「誰なのくだらないことを言うのは」 「お前の兄貴東急池上線だ  お前はまだ良いぞ 目黒から出ている  俺なんかお前、五反田だ五反田」 「兄さん、どうして新玉川線ばっかり可愛がるの?  綺麗な服を着させてもらって、どうして僕達こんなにボロボロの電車なの?  そうか、僕達はきっと捨て子なんだ〜い」 「バカなことを言うな!  実はそうなんだよ  俺達の父さんはな 東横線なんかじゃない  俺達の本当の父さんは 聞いて驚くなよ  あの池袋から出ている 東武東上線なんだ!!」 「え?  あの東京都内で一番陰気と言われている東武東上線?  駅が5つか6つ過ぎるとぜんっぶ埼玉になってしまう東武東上線?  忘れ物に鍬とスコップが一番多いという東武東上線?  兄さん嘘だろ?嘘なんだろ?」 「俺達と父さんよ〜く似てんじゃないか  俺達だけだぞ、電車の中にゴキブリホイホイが置いてあるっていうのはな  ゴキブリ、ホイホイミュージックスクールな〜んてこと言っちゃって大変だ〜なんて広川太一朗」 「何兄さんバカなこと言ってんの?」 「また蒲田で会おう」 「どこか明るさに無理のある兄さんだ」 僕の名前は目蒲線 寂しい電車だ目蒲線 あってもなくてもどうでもいい目蒲線 「蒲男?そこにいるのは蒲ちゃんね?」 「おばさん誰?」 「あなたの本当の母さんよ  こんな格好でゴメンなさいね  母さん余った電車で繋ぎあわされているから赤だの黄色だの緑だのってバランバラン」 「僕の本当の母さんって、誰なの?」 「赤羽線よ」 「え?  あの池袋の駅を出ると板橋十条赤羽のたった四つしか走っていないというあの赤羽線?  でも母さんひどいよ、どうして僕達を捨てたんだよ!?」 「そうね、あれはだいぶ昔のこと、池袋を巡って西武と東武の勢力争いの真っ最中  ある日父さんが『もうイヤだ、もう埼玉なんか走りたくない』  って屋根から涙流しながら私に抱き着いてきたの  そんな父さん見てると母さんあんまり可哀相だったの  思わず、体を許してしまったのよ  ふと気が付くともう、お腹の中には妊娠3両編成しかも双子  出産した時は西武は大会社、東武は年金暮し  そんな時にあなた達を育てられると思う?  そこで、お金持ちの東急さんだったら立派にあなた方を育ててくれると思って  母さん涙を飲んで 蒲田に捨ててきてしまったのよ  ごめんなさい、辛かったでしょう  でも蒲ちゃん、どんな電車でもなければ困るのよ  見てごらんなさい、あの2両編成で頑張っている世田谷線でさえ生きているじゃないの  わかった?」 「うん!  わかったよ母さん、僕力強く生きる  そして出世して新幹線のレールの上を走ってみせるよ  だからお願いがあるんだ、今度休みの日僕達のところにに遊びにおいでよ  田園調布を案内してあげる!」 僕の名前は目蒲線 寂しい電車だ目蒲線 あってもなくてもどうでもいい目蒲線…… そしてつぎはぎだらけの母さんは休みの日 目黒のほうに遊びにいったのですが道に迷って川崎のほうまで行ってしまい 後に母さんはつぎはぎだらけの電車、南武線になってしまったそうです