月陽炎
2001年10月発売 発売元:すたじおみりす
全体的な感想
こういった偶然の掘り出し物に価値を見出せるのはとてもいことだと思います。確率は低いんですけどね……
購入動機
ドラマCDが出ているから、というのが一番大きな要素かと。しかも発売はムービックでして、えろげなのにドラマ化されるということはシナリオはそこそこのものを持っているのではないかと感じたからです(このあたり、コンシューマギャルゲのドラマCD化とは全く違います)。そのドラマCDの存在を知ったのはジーズマガジンでして、たまにはジーズもいいことします。
そのドラマCDは買っていないのですが(待て)、広告を見る限りはキャスティングがなかなか活かしてます。ゲームにも出てくるキャラクターはオリジナルの声優さんが声を充てているようなのですが、ドラマCDオリジナルキャラクターが数名居りまして、このあたりを堀江田村子安といった有名どころが演じております。どんな内容かは全然知らないのですが、ぜひとも収録現場を見学したかったです。きっとピリピリしてたんだろうなあ
お話の始まり
時代は大正らしい。嘉神悠志郎は神主の息子なのですが、父親に頼まれて知り合いの神社を手伝うことになります。そこの神主さんは体調が思わしくなく、秋祭りを男手なしで乗り切るのは無理そうだとのこと。そう、子供は3人いるのですが全て女の子なのです。そんなわけで悠志郎はその「有馬神社」へ出向くことになります。
というのが始まりですが、こんなどうでもいいことよりもっと大きなバックボーンが物語を進めると見えてきます。
ちなみに「有馬神社」というのは北海道に実際にあるらしいです。
キャラクター
キャラクターデザインは仁村有志さんという方で、ちょいロリっとした可愛い絵を書く方です。
なお声優さんはドラマCD版のものを掲載しています。ゲーム版はいわゆる「裏の名前」で出ているようです。ドラマCDのキャスティングを見、ゲーム版の声を聞いて、少なくとも私は4人まで同一人物という確信を得ました。
嘉神悠志郎(かがみ ゆうしろう)
本編の主人公である神主見習い。かなりの皮肉屋で、美月をいじめて楽しむのが趣味。あ、もう1つの趣味はハーモニカ。
あと、神主のくせに魑魅魍魎は大の苦手。
有馬柚鈴(ありま ゆず) CV藤咲かおり
本編ヒロインの1人。その白銀の髪のせいかとんでもない人見知りというか対人恐怖症で、家族以外には怯えまくっている。家族以外の唯一の友達である双葉でさえ友達になるのに半年かかった。
好物は芋かりんとう。主な着衣は巫女服。
有馬美月(ありま みづき) CV友永朱音
表向きは柚鈴の異母姉妹。本編ダブルヒロインのもう1人。柚鈴とは全く違う性格で、剛毅なおてんば娘。気に入らないと足蹴りが飛んでくる。とりあえず桜塚恋と言っておけ
好物はねこまんま。主な着衣は袴。最近体に変調をきたしている。
有馬鈴香(ありま すずか) CV静木亜美
上2人の姉。表向きは柚鈴の実姉で美月の異母姉。おてんばな美月を叱るのが趣味。姉たま現象の張本人。普段は強気に振舞っており実際芯の強い女性だが、時折見せる女性らしさがまた魅力的。
好物は焼き芋で、主な着衣は巫女服。
有馬葉桐(ありま はぎり) CV小倉文江
美月の実母で柚鈴と鈴香の義母。と書いて分かるように後妻さんであります。後妻さんということで世間の目は厳しい。また、羊羹を自作できるほどの料理の腕の持ち主。
主な着衣は着物。
幸野双葉(ゆきの ふたば) CV倖月美和
町の長者の御令嬢で、登場人物の中で唯一洋服を着ている。上にも書いたように、柚鈴が家族以外で唯一信頼を置ける存在。なにかと好奇の対象である柚鈴と付き合ってもいじめに遭わないのは家柄のせいであるのは言うまでもない。
都会と探偵に憧れていて、いつか都会の探偵さんが自分をさらいに来てくれると信じている(やや間違い)。
あと男キャラとしては、有馬の神主さんである一哉さんと謎の男名前は「真」がおります。親父さんはどうでもいいですが、真は結構重要かも
システム
セーブは30ヶ所くらいあって困ることはありません。メッセージ読み返しもかなり長く読み返せます。メッセージスキップは既読のものが可能。「次の選択肢へ進む」により、一気に飛ばしてくれます。もちろん左クリックでそれを止めるのも可能。インストール後はCDなしでも起動します。
またピュアメールでもやっていましたが、喋るキャラにより文字色が違うのは結構分かりやすいと思いました。
すこしBGMの項とも被りますが、「なかなかいいな」と思ったのが効果音です。とは言っても普通の効果音ではなく、キャラクターのセリフがそのまま効果音として使われているのです。
例えば一家で朝食を食べるシーンがありますが、美月が「ガツガツガツガツ………」とかやってる最中に、「いやはや、凄まじい食べっぷりですねえ」といったト書きの文が入ることがあります。こうした時も美月の「ガツガツガツガツ………」というのが後ろで効果音として使われているわけです。これに限らず美月のいびきシーンや両ヒロインのHシーンの喘ぎ声などなど、かなり多用されております。雰囲気の継続性があって、こういった試みは大好きです。
画面構成にも凝っていて、かならずしもウインドウがあるわけではありません。もちろんト書きや悠志郎の会話は画面下部に表示されますが、例えば画面左に美月及び画面右に柚鈴と会話しているシーンでは、美月のセリフは画面左に、柚鈴のセリフは画面右に表示されます。先ほどの文字色と含めて誰が喋っているか一目瞭然なので、分かりやすかったです。
最初はメインの美月柚鈴編しか遊べないのですが、各シナリオにはバッドエンドが用意されていて最低1回バッドエンドを通らないことにはメインシナリオへ進めません。この辺りは痕っぽいです。
メイン画面にも特徴があって、エンディングまで見てメイン画面に戻ってくるとキャラクターが徐々に出来上がってきます。シナリオを解くごとにラフ→線画→カラーというように。このあたりは面白いと思いました。
また、ゲームをはじめてOP曲が流れる前に少しイントロ部分があるのですが、これがシナリオを解く度に違ってきます。面白い試みだったんですが、「前はなんて言ってたっけな」と集中力を削いでしまったのが残念
BGMとかオープニングとか
何からどう書けば良いのか迷っているのですが、とりあえず名曲揃いと書いておきます。いや本当に良い曲ばかりです。
メインメニューで流れる「予感」がメインテーマっぽくなっていまして、これがまた良い曲です。ちなみにHD月陽炎内のMusicフォルダを覗いてみるとゲーム中のサウンドが全て入っていますが、この「予感」という曲はオルゴールバージョンからストリングスバージョンまで実に5曲ものアレンジバージョンが入っています。思わず主旋律だけですが着メロを自作してしまいました。
Musicフォルダの話が出たのでついでに書きますと、このフォルダ実に686MBも容量があります。このゲームはCD3枚組ですが、早い話3枚中1枚は全てサウンドデータということになります。1つ1つのwavファイルもほとんどが10MB以上のものばかりで、音楽担当の気合の入れようが分かります。
歌付きは3曲。OP「月陽炎」、柚鈴編ED「銀恋歌」、美月編ED「蒼月花」。この中で特筆しなければならないのはやはりゲームタイトルにもなっているOP曲でしょう。曲が良いというのではなく、いろんな意味で素晴らしいオープニングになっています。軽く紹介すると
チャリンチャリンと賽銭の音 → シャランシャランと鳴らす音 → 2拍 → やや間 → 柚鈴「ねえ、美月は何をお願いしたの?」 → 美月「柚鈴こそ、何をお願いしたの?」 → 「「えへへっ、内緒だよ」」 → 歌始まる
といった感じです。さらに曲中にも間奏があって、そこではもちろん両ヒロインの独白が聞けます。スピーカーをステレオにしていれば、左から柚鈴、右から美月の声が聞こえてくるという徹底ぶり。もちろん曲もやかましい短調で、自分の趣向にピッタリです。
さらに特筆すると、先ほど上に「フォルダ内にはゲーム中のサウンドデータ全てが入っている」と書きました。そうです。OP曲も賽銭から曲が終わるまで1つのファイルとして入っています。つまりゲームを起動させなくともこのファイルを開くだけでOPの雰囲気を味わえるわけで、これを書いている今現在自分はそうしています。
ちなみにこのOP曲の歌詞もなかなか良くて、いきなりサビが
生まれ来る事が罪ならば 愛し合う想いも罪でしょうか
繋がれた古(いにしえ)の赤い鎖 断ち切れないままで
とかとんでもなくダークなフレーズで始まるのですが、このフレーズもゲームを遊んでいくに従いあるキャラのことを暗示しているのだなと気付いてきます。
とにかくゲームの雰囲気にピッタリであるにも関わらず、曲単体としても素晴らしい出来になっているOP曲は最高です。歌付きOP曲の私的最高峰はゲームを遊んでないくせに「鳥の詩」だったりしますが、それと同格じゃないかと思っています。歌詞の出来映えの差でこっちが上ではないかと思ったりも。
サウンドトラックが出ているので是非とも買ってみて下さいって誰に宣伝しているのでしょうか俺は
シナリオ(後半ネタバレ)
どうもネタバレしつつ進めないとシナリオの感想を書けないような気がするので、後半はネタバレで書く事にします。
全体のお話として、前半はコメディチック→中盤はラブラブ→終盤で猟奇系に、という感じです。前半と中盤の境目は祭りであることが多いようです。メイン2人のHシーンは中盤に集中していて、終盤はシリアスでしかありません。柚鈴のエンドを全て見れば鈴香シナリオへ、美月のエンドを全て見れば葉桐シナリオへ、鈴香と葉桐の両シナリオをクリアして双葉シナリオに入れる仕組みです。
美月編の前半は足蹴りを食らいながらも仲を深めていくといった感じで面白かったのですが、柚鈴編は「柚鈴を神社の外へ出してみよう大作戦」がメインになってそれほどコメディチックではなかったのが残念です。笑いを追求するものとしては
ではシナリオ後半のネタバレ部分に掛かってくるわけですが、まずは大きなバックボーンである「墜ち神伝説」からです。
天界にはかつて、子供を守る役目を負った神様がいた。女神は別の神の子を預かっていたが、誤ってその子に大怪我をさせてしまった。それが原因で女神は主神の怒りを買い、呪いをかけられて地上に墜とされてしまった。
墜とされた神は力のほとんどを奪われ、呪いにより子を宿せない体にされてしまった。ただ1つの子を宿す方法――それは、何人もの子を殺めてその血をもって1人だけ子を宿せるというもの。子供を守る役目を持っていた女神は子を殺める痛みと引き換えに自分の子を産む。
んでは次に複雑怪奇極まる「有馬さん家の家庭の事情」です。
今から数十年前、有馬神社神主一家の突然の失踪。残された一族の者は朝まで大激論の末、一哉さんともう一人の女性(沙久耶さんというそうですが、本編では名前出てきたっけな)を新たな神主に選ぶ。
やがて一哉さんと沙久耶さんの間に鈴香さんが誕生。一見幸せな家族のようですが、一哉さんはこの頃から葉桐さんと恋仲でした。やがて鈴香さんが小さい頃、沙久耶さんが誰かに襲われているのを見てしまいます。そして産まれた子が柚鈴。我が子の髪の毛が白銀に光るのを見た沙久耶さんは発狂して死んでしまいます。そのほぼ同時期に一哉さんと葉桐さんの間に美月が誕生。やがて一哉さんと葉桐さんは結婚するのですが…。
分かりにくいので図式化するのですが、
- 鈴香 父:一哉さん 母:沙久耶さん
- 柚鈴 父:謎の男 母:沙久耶さん
- 美月 父:一哉さん 母:葉桐さん
となってしまって実は柚鈴と美月の間に血縁関係など何にもないのですな。表向きはあくまで異母姉妹ですが
これくらいのことは堕ち神を含めてシナリオを一回解けば必ず出てくる事項なのでネタバレ度は低いのですが、血の繋がりのない2人がまるで双子のように仲良く遊んでいる様を2回目以降に読んでいると、ちょっと複雑なものがあります。
そしてもう1つ、これは有馬門外不出だと思いますが、神威の一族という一族がいます。これはいわゆる堕ち神を始末する一族のようなものと思って下さい。どうもこれが有馬の血には流れているようです。
書き忘れていましたが、主人公にも何故か神威の力が備わっています。なんでかは自分もわかりません。
とここまで書けば大体の方は察しがつくと思いますが、美月と柚鈴は血の繋がりがないだけでなく堕ち神の末裔と神威の末裔という、敵対する一族の血を受け継いでしまいます。具体的に言えば美月が堕ち神、柚鈴が神威です。つまり葉桐さんも堕ち神の末裔です。こう書けば一哉さんの衰弱の理由がわかってきます。堕ち神の末裔は男の精(必ずしも精液ではなく、生命力だと思われる)を生きる糧にしているのです。
有馬の一族である一哉と沙久耶、その子である鈴香に神威の力がなかったのは、おそらく有馬でも傍流に位置していたからと思われます。ではなぜ柚鈴に神威の力が備わったかというと、答えは言うまでもなく謎の男。この男が実は先代の神主である真なので(あくまで推測)有馬直系の血を受け継いでいるのです。
もちろん美月と柚鈴は両人ともそんな事は知らないし戦うつもりもないのですが、周りがけしかけてしまう。そして主人公がどちらの側に立つのかが重要になってくるのです。もちろんこんな話が出てくるのはお話も後半になってからなので選択権などないのですが。
美月シナリオに入れば、堕ち神抹殺を図る真と戦うことになります。さらに、自分の中に眠る神威の力(美月への殺意)とも戦うことになります。極めつけは、美月が真によって操られた柚鈴と戦う羽目になります。
柚鈴シナリオに入れば、まず堕ち神に目覚めつつある美月と一戦構えます。さらに我が子可愛さに堕ち神覚醒を図り、そのために柚鈴の命を差し出そうとする葉桐さんと戦います。こっちのシナリオでの真は結構良い奴だったりします。
というわけでどっちに行っても誰かが死んでしまう(ちなみに一哉さんはどっちに行っても殺されます。この人が一番可哀相)結構残酷なお話ですが、後味の悪さもまた天下一品です。こうしたネタバレまで進んで迎えるエンディングは美月が3つ、柚鈴が2つありますが、
1.柚鈴、堕ち神一族の呪いを解放するためにその身を捧げる
2.悠志郎、真と相討ち
3.美月が子を産めないと知りつつ祝言
4.封印されたはずの美月、妖精として復活
5.美月の遺志を継いで全国の堕ち神伝説退治の旅へ
ハッピーエンドが全くない(敢えて言うなら4番目)これらに耐えられる人にはお勧めです。自分はたとえ後味が悪くてもシナリオの流れとして整合性が取れていれば構わない人なので、特に気になりませんでしたが。むしろ1番目3番目辺りでは涙していました。
ネタバレシナリオ全体を通して見ると、どうしても柚鈴の存在が薄く感じてしまいます。確かに柚鈴は神威の力を持っているのですが、それは悠志郎も持っている力。力が被る上に悠志郎の方が力としては強いのです。だからどうしても柚鈴は悠志郎のサポート的存在、あるいは触媒にしかなり得なかったのが残念なところでした。
こうして上の段落から得られる結論は、「ダブルヒロインと言っているが、ダブルのどちらがメインかと言うと絶対美月」になります。もちろん美月シナリオでも良かったのですが、柚鈴シナリオでの美月も良かったというのが勝因かと。なにしろ助かったにも関わらず自己犠牲してくれるんですから
そんなわけで自己犠牲で泣ける人にはお勧めの逸品です。あと袴&巫女スキーにも。
シナリオの流れ上家庭用への移植は難しいでしょうが、欠点が少ないという点でバランスの良く取れたゲームでありました。
最後に
ファンディスク、いくら限定生産だからって定価2800円が新品未開封7600円というのはどうよ?
個人的且つ主観的評価
キャラクター:88点
シナリオ:90点
サウンド:91点
システム:88点
総合:89点
(最終更新 2003,1,4)