選手宣誓の日


私の職場では毎年ソフトボール大会というものをやります。6チームぐらいに分かれてリーグ戦と順位決定戦を行います。

当日は一部のお留守番職員を除いてほぼ全員が参加し、親睦を深め合うという事になっています。

開会式のプログラムの中には当然選手宣誓も入っていて、毎年新規採用職員の中から男女1名ずつが勤め上げるということになっています。

ところで前にも随分沢山書いていますが、私の男の同期は私1人しか居ません。すなわち、4月の時点で私が選手宣誓するということは既に決まっていたのです。



これは、選手宣誓すら痛いネタにしてしまおうと企む1人の男の1週間の物語である。

 

 

月曜日

管理課の係長から、正式に選手宣誓の依頼が来る。相手を聞いて、思わずニヤリとする。彼女とは、6月末頃に「選手宣誓することになったら何か一発かまそう」と永遠の愛を誓い合った仲である。

この「一発かます」の内容は既に決まっている。実は彼女の本名は某俺の大嫌いなプロ野球球団の24番の選手と苗字及び名前の最初のアルファベットまで同じであり、彼女がそのユニフォームを着ても名前的になんの違和感もない。というわけで、彼女は某俺の大嫌いなプロ野球球団の24番のユニフォームを着る、で、決定。ソフトボール大会だから、何か視覚的に一発かますためにはユニフォームが一番である。

問題は私の方である。彼女に合わせて私も何らかのユニフォームを着たいところ。どうせなら背中に私の名前が入っている方が、彼女に合わせられて良い。ところが残念ながら私と苗字が同じプロ野球選手は確認していない。こうなったら、オリジナルを作るしかない。

どうせ作るのなら、阪神タイガースが良い。ちょうど伝統の両チームということで、ソフトボール大会にふさわしい(本当か?)。早速関西の知り合いに「オリジナルユニフォームを作ってくれる店」を探してもらい、申し込んだのが先々週。ところが昨日の時点でまだ届いていない。やばいかもしれない。

肝心の宣誓文は、私のパソコンを前に使っていた人がやはり宣誓をやったようで、その時の文がファイルとして残されていた。それに尾ひれをつけて流用すれば良いだろう。


そんなことを定時後に彼女と打ち合わせ。ユニフォーム云々に関しては保留となった。この日は野球部の試合があったので12時の帰宅。帰ってみると宅急便の不在票が入っていた。ユニフォーム、遂に到着(もちろん引き取るのは明日以降だが)。どろっぷ、俄然やる気が出る。

 

火曜日

チーム分け発表。名簿を見て愕然。同じチームに俺の課の課長がいるじゃねえか! 大のG党である課長の前で阪神のユニフォームを着てどろっぷに未来はあるのか?

定時後またも彼女と打ち合わせる。ユニフォームが到着し、こちらは準備万端であると伝える。ところが今度は彼女の方が尻ごみ。急に迷い始めてきたようだ。やばい、このままではただの宣誓になってしまいHPのネタに使えないではないか。ここはこちらからプッシュした方がいいかもしれない。

などとやりあっていると、彼女の課の課長から「宣誓文に、『21世紀』を入れろ」とのお達しが。これまた難問がやってきた。

帰りがけにヤマト運輸の営業所に寄りユニフォームをゲット。家に帰って開けてみると、素晴らしい出来。なんとしてもこれを着たくなった。そのためには、彼女に決断してもらわねばならない。さてどうやって追い込もうか。


ちなみにチーム名は「うさぎさんチーム」。


しょーがねーだろ他の名前だって「うまさんチーム」「ねずみさんチーム」などしょーもない名前ばかりなんだから!



…………ん? ウサギ? うさ耳? 野原でうさ耳?

 

 

ま、舞〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

水曜日

ひとまず午前中で宣誓文私案を幾つか考える。「21世紀」を無理矢理差し込みつつ。

定時後またも打ち合わせ。なんと彼女、「私がユニフォームを着たら面白いと思うか?」と回りの人間に聞いているらしい。俺としては当日に全員をビックリさせようと思っていただけに、情報が漏れるのはなんとも残念。しかしこれは彼女にとって墓穴を掘ったことにならないか。聞いて回る事によって「ユニフォーム着るかもしれない→ユニフォーム着てやるらしいよ」というふうに既成事実ができ上がっていくのではなかろうか。回りの意見は半々だそうで、まだ迷っているようだ。

ここでもう一押しが必要。鞄の中に入れておいたユニフォーム実物を彼女に見せる。かなり興味深々で見ている。おそらく昨日の時点では2:8だったろうが、今日の時点で5:5まで盛り返したのではあるまいか。こうなればこっちのものだ。クックックック…………

宣誓文はほぼ決定。

 

木曜日

午前中、私のパソコンに付箋紙が貼られる。「なんだか噂が先行しているみたいだから、もう後へは引けないような気がする。」よっしゃ、彼女遂に陥落。その噂ってのはアンタが自分で流したものだよ。やはり自分で墓穴を掘ったか。その証拠に2人から「どろっぷ君も、ユニフォーム着るの?」とか聞かれたし。定時後一緒に買いに行く約束を取り付ける。

ほぼ決定した宣誓文だが、急に彼女がいろいろ挿し込みたがっている。いきなり「何かと物騒な世の中ですが」ってのはいらないんじゃないか。


定時。私のほうが早く終わるので、近くのホテルのロビーで待ち合わせする。「ゴメン、ちょっと遅くなった」「お疲れ様。じゃあ行きますか」

 

こ、このシチュエーションはもしや、デートというやつでは?

 

 

どろっぷ齢24歳と4日にして初の女の子と2人きりのショッピングゥゥゥ!!!

 

「そろそろ俺もクリ死ね団とお別れかな」としみじみ思いつつ、南北線で後楽園駅に着き、東京ドームへ。情報が漏れまくっている理由がようやくわかる。どうも職場に一人は必ずいる長岡志保的存在の人に情報が入ってしまったらしい。そりゃ確かに広まるわ。

東京ドームのショップでユニフォームが売っているので、入って見物。背番号付きのユニフォームは売っていなくて、背番号付きのTシャツを買うか、無地ユニフォームに背番号を買ってアイロンプリントするかの二者択一。彼女はTシャツを買う事にした。私が強くこのネタをせがんだこともあるので、Tシャツ代2500円全額を払ってあげる。とか言っても、自分で買った服を他人に着せて楽しもうなどというこの人みたいな趣味では無いので間違えないで下さい。

宣誓の最終確認をしつつ彼女を三田線水道橋駅まで送ってあげる。

 

金曜日

いよいよソフトボール大会当日である。宣誓を言い渡されてから僅か4日は短すぎるが、なんとかネタ揃えもまとまった。会場のグラウンドに着いてお偉方が何人もいる(もちろん私が知らない人ばかりである)のを見ると、緊張してくる。ていうかネタの選定を間違った気がしてならない。至って普通にやっておけばよかったのではないか。ここに至ってどろっぷ、急に怖くなってきた。

着替えてきた彼女を見ると、既にTシャツを着こんでいるのか上からパーカーを羽織ってる。もう後へは引けない。どろっぷ、ようやく覚悟を決める。雨の振りが心配されて中止も予想されたが、やんできたので開会式を突如開催。ひとまずTシャツだけ着て、ユニフォームはグラブの中に隠しておく。

司会の「それでは選手宣誓です。どろっぷ君、○○○○さん、お願いします」と声がかかると同時に私はユニフォームを着、彼女はパーカーを脱ぐ。現れたのは某球団阪神タイガースの24番(お揃いの番号)。回りから喚声が漏れる。よっしゃツカミばっちり!

 

宣誓! 我々選手一同は………………


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


選手代表! ○○○課! どろっぷ!

 

 

お、終わった・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

開放感とともに列に戻り、ユニフォームを脱ぐ。「なんで脱いじゃうの」と非難の声がかかるが、さっきから課長が俺のこと睨んでるんだよ俺明日から路頭に迷いたくないよ


その後大会は雨の影響もあって午前中で打ち止め。順位決定戦はジャンケンとなり我がチームは2位となりました。やる気の無い人間にとっては最良の結果です(雨天中止だとその日は仕事なので、午後中止が望ましい)。しかし帰りかける頃には既にやんでしまっているこの楽しさよ。平日の午後のフリータイムなんて滅多に無いので当然

 

アキバに行きましたとも。

 

宣誓の日 完

 

 

 

 

おまけ


これを書いていてふと思ったのですが、もしもまかり間違って私と彼女がゴールインしてしまった場合、私が最初に上げたプレゼントがコレということになるのか?


するってーと十数年後に彼女がTシャツを押入から引っ張り出してきて、娘に「これはね……パパがママに最初に買ってくれたプレゼントなのよ……。だからママはね、大事に取ってあるのよ……」とかなんとか思い出語ったりして(妄想)

 

 

 

先方にその気なんざさらさらないだろうけどな

 

 

本当に完


コラムページへ

トップページへ