金沢二水高校新聞部の質問と辰巳の会の回答

(1999年6月15日掲載)


 金沢二水高校新聞部は、辰巳ダム問題について特集を組むことになり、県河川開発課や中登史紀さん(建設コンサルタント)などへの取材を行ってきました。その一環として、辰巳の会事務局へ、5月25日、文書で質問が寄せられました。

 二水高校新聞部の質問とそれにたいする辰巳の会事務局の回答(6月2日)を紹介します。


Q1)辰巳の会が設立されたのはいつですか。また誰が中心となって作ったのですか。

A1)辰巳の会(兼六園と辰巳用水を守り、ダム建設を阻止する会)は、1994年7月に結成されました。現在の会長代行である中井安治さんをはじめ、中川武夫さん(当時・金沢工業大学教授)、木村久吉さん(当時・石川県自然保護協会会長)、本間勝美さん(森の都愛鳥会会長)など、石川県内で環境保護や文化財保護のために活動してこられた方々が、会結成準備の中心的役割を担われました。


Q2)辰巳の会のメンバーはどういう人々ですか。(どのような人々が集まったのですか。)

A2)現在、辰巳の会は、全国に2百名を超える会員を擁しています。その中には、環境保護団体などさまざまな市民団体の会員の方も少なくありません。辰巳の会のメンバーは、兼六園と辰巳用水、犀川渓谷の自然を守りたい、ムダで有害な公共事業をストップさせたい、そのために自分も何かをしたいという思いをもつ人びとです。


Q3)辰巳の会の目的は何ですか。

A3)辰巳の会は、兼六園と辰巳用水、犀川渓谷の豊かな自然を守ること、そのために辰巳ダム建設を阻止することを目的としています。


Q4)辰巳の会の普段の会合では、どのようなことが行われているのですか。

A4)月に1回程度のペースで、常任理事会という役員会議を開き、辰巳ダム建設計画をめぐる情報交換や情勢分析、運動方針づくりをしています。それ以外に、適宜、情勢に応じた学習会などを開いています。


Q5)勉強会ではどういうことを学んだのですか。
   また、中登史紀さんと辰巳の会の関係を教えてください。(中さんは会の一員なのですか。)

A5)中登史紀さんが講師をされた昨年10月7日の学習会についての御質問と理解して、お答えします。

 この学習会では、『犀川水系辰巳ダム治水計画説明書』(1995年2月、石川県)にしめされている辰巳ダムの治水計画の問題点について学びました。辰巳ダムの治水計画には多くの問題点がありますが、この学習会ではとくに、@実在しないデータを捏造して百年確率の雨量予測を行ったことの問題点、A実在するデータについても辰巳ダム計画にあわせて取捨選択が行われている(=先に辰巳ダムの位置、堰堤の高さなどが決まっていて、それに都合の悪いデータが排除されている)問題、B辰巳ダムの治水計画で想定されている雨量・洪水量がもし正しいとすると、浅野川など他の河川の治水計画が完全に破綻する(=辰巳ダム計画にあわせて雨量・洪水量が算出されている)問題などを学びました。

 中さんは、辰巳ダム反対の活動家としてではなく、土木技術の専門家として、県の辰巳ダム計画を批判しておられます。辰巳の会には、専門家としての立場から、県の治水計画の問題点などについて助言をいただいています。

 なお、中さんに限らずどなたであっても、辰巳の会の会員であるかどうかを表明する・しないということは、御本人の意志の問題ですので、誰が会員であるか・ないかというお問い合わせには事務局としてお答えすることはできません。悪しからず御了承ください。


Q6)辰巳ダム建設反対のため今までどのようなことをしてきましたか。

   ・立木トラスト ・土地を買い取り共有地にする ←どのようなことか。どのような効果があるのか。

A6)辰巳の会を結成した94年には、辰巳ダム建設中止をもとめる署名活動に取り組み、1万7千名分を県に提出しました。また、年に1回を目処に講演会(これまでの講師=宮本憲一さん(立命館大学教授)、宇井純さん(沖縄大学教授)、天野礼子さん(アウトドアライター)、C.W.ニコルさん(ナチュラリスト)、山下弘文さん(諫早干潟緊急救済本部代表)、辻淳夫さん(藤前干潟を守る会代表))を開催するほか、小規模学習会、辰巳用水見学会、犀川渓谷の自然観察会などを開催しています。また、情勢の展開や運動の局面に応じて、県や建設省などにたいして公開質問状などを提出しています。

 「立木トラスト」としては、1994年11月に、辰巳の文化遺産と自然を守る会のよびかけで全国3百余名で共有している土地を使わせていただいて、モンベイガキ3本とタンザワグリ2本の木を植え、辰巳ダム反対を訴える札などをつけました。

 共有地運動としては、全国に参加をよびかけ、ダム本体にかかる土地を約百名で、水没する土地を約150名で共有登記しました(これ以外に、辰巳の会役員9名で共有登記してある土地、辰巳の会顧問・宮本憲一さんの名義で登記してある土地が水没予定地内にあります)。この運動は、辰巳ダム反対の世論をしめし、ひろげるうえで、非常に大きな意味をもちました。また、これらの土地を取得しない限り、辰巳ダム建設は法的に不可能です。辰巳の会の4筆の土地以外に、辰巳の会結成以前に辰巳の文化遺産と自然を守る会が取得した共有地2筆がありますが、ダム建設に不可欠な土地を6筆も反対派市民がもっているダム計画は、全国的にもほかにはほとんど皆無です。


Q7)共有地の地権者にはどのような人がいるのですか。

A7)辰巳の会会員はじめ、有名・無名の多くの市民が、共有地運動に参加されており、その数は重複をのぞいた実数で約250名におよびます。参加者のなかには、都留重人さん(元一橋大学学長)、湯川れい子さん(音楽評論家)、木村晋介さん(弁護士)、高橋治さん(作家)など、著名な方も少なくありません。


Q8)立木トラストと共有地以外に行ったことはありますか。

A8)上記6)で回答とさせていただきます。


Q9)今までの2回の話し合いではどのようなことを話し合ったのですか。

A9)@河川法(旧)で定められている工事実施基本計画なしに辰巳ダムが計画され工事着手(関連道路など)されていた問題、A雨量・洪水量問題について、意見交換してきました。


Q10)話し合いの結果、まだ不明な点、県に賛成できた点、意見が変わった点があったら教えてください。

A10)
 (@)県に賛成できた点−−率直に言って、これまで2回(4月17日、5月15日)開かれた意見交換会で、私たちの批判・疑問にたいして県から説得力のある説明は、残念ながらまったくありませんでした。

 (A)意見が変わった点−−したがって、これまでのところ、意見交換によって、辰巳ダム建設を許してはいけないという思いがいっそうつよくなったというのが、「変わった点」です。

 (B)まだ不明な点−−@「工事実施基本計画なしに着工しても違法ではない」という県の言い分の法的根拠、A治水計画の基礎になるべき実測データがないにも関わらず別のデータを流用(これを私たちは「データの捏造」とよんでいます)してもよいという科学的・技術的根拠、B辰巳ダム建設を予定している犀川については有史以来降ったこともない異常な大雨を想定しておきながら、浅野川の治水策をそれとはまったく整合性のとれないものにしていてよい「理由」、Cあるときには「建設省の基準にしたがって計画をつくった」といいながら、別のときには建設省の基準を無視している「理由」などなど、意見交換をつうじて、「不明な点」というよりも問題点がつぎからつぎへと出てきています。


Q11)辰巳ダムは絶対必要ではないと思いますか。場合によっては必要だと思いますか。(理由もお願いします。)

A11)上記10)および下記12)のような理由から、辰巳ダムは絶対必要ないと考えます。


Q12)辰巳ダム建設のどのような点に反対していますか。

A12)おもに、@治水上まったく必要ないダムであり税金のムダ遣いである、A日本一の用水=辰巳用水の一部を破壊する、Bダム湖の水の富栄養化により天下の名園=兼六園が台無しになる、C都心からわずか10キロほどの場所に残されたほとんど手つかずの犀川渓谷の貴重な自然環境が破壊されるという4点で、辰巳ダム建設に反対しています。


Q13)中さんが「100年に1度の洪水にはダムなしでも対処できる」と言っているが、それについてどう思いますか。

A13)中さんの御意見に賛成です。

 前述のように、「最大1時間雨量92ミリ」という想定自体、データの捏造にもとづくもので、雨量・洪水量の計算を正しく行えば、百年確率の雨が降っても、辰巳ダムなしでも犀川から水があふれることはありません。

 また、ダムは治水策としては、一般に考えられているほど有効ではありません。ダムの集水域以外のところ(たとえば下流)に降る雨にはダムはまったく役にたちません。また、雨は自然現象ですから、さまざまなパターンで降りますが、ダムが対応できるのは、計画時に想定しているいくつかの限られたパターンだけです。洪水対策を行うにしても、有効性の低いダムに頼るのではなく、@森林の保水力を高める、A河道をひろげる、B中・下流域の遊水機能を高める、C危険地域からの移転を計画的に進めるなどの抜本的な対策こそが必要です。


Q14)県の環境評価委員会では周辺の自然環境に大きな影響はないと言っているが、それでも反対するのはなぜですか。

A14)県が行った環境影響評価(アセスメント)は、“水没予定地域にだけ生息しているような天然記念物がいるかどうか”といった、非常に一面的なものです。このアセスメントは、発表された当時から、その問題点がたくさん指摘されており、辰巳ダムの建設によって「周辺の自然環境に大きな影響はない」というのは、まったく誤った結論です。人工の構造物がほとんど皆無で、アカザ、ユビナガコウモリ、シロマダラなどなど、希少な生物がまとまって生息している犀川渓谷の自然環境は、すぐれたビオトープ(生物生息環境)であり、45万都市の都心からわずか10キロほどという位置にあることを考えあわせると、全国的にも特筆するべき貴重な自然環境です。その自然環境を丸ごと水没させ破壊する辰巳ダムは、自然環境に計り知れないダメージを与えるものであり、反対せざるをえません。


Q15)25年目にはじめて県との話し合いの場がもたれたことをどう思いますか。

A15)公共事業評価監視委員会による再評価で、辰巳ダムは、98年度内に結論が出せませんでした。これは、おそらく全国的にも唯一の例です。県が私たちに意見交換をよびかけてきたのは、「反対派市民と意見交換をしてほしい」という監視委員会の要望もあり、手詰まり状態を打開するための方策という側面もあると思います。また、意見交換会実現にいたるまでの予備交渉では、県側は意見交換会を形だけのものにしようとし、市民側はそれを克服する必要がありました。

 しかし、どのような経緯であれ、市民と県側が公開の場で意見交換を行えるようになったことは、公共事業の透明性をもとめる世論の成果であり、公共事業を国民・県民本位のものに改善していくための重要な前進であると、高く評価しています。


Q16)辰巳の会として今一番県又は県民の人々に訴えたいことはありますか。

A16)県にたいしては、完全に破綻した計画に固執するのではなく、事実と道理にもとづいた合理的な治水計画を策定し直す勇気と柔軟性をもってほしいと思います。その際、自然環境への影響が大きいにも関わらず有効性の乏しいダムという方法にこだわらず、建設省も提唱している総合治水(森林の保水力の向上、遊水池の確保など)を柱にすえてほしいと思います。当面、資料を隠したり、辰巳ダム計画に都合のよい資料だけを出したり、質問したことに答えず話をはぐらかしたりするような、これまでの2回の意見交換会での態度を改め、誠実な態度で意見交換に臨んでほしいと思います。

 県民のみなさんには、まず、辰巳ダム問題に関心をもち、県の主張、私たちの主張をよく知っていただきたいと思います。(その点で、今回の二水高校新聞部のみなさんの企画は、たいへん意義深いものであると思います。)そのうえで、@犀川の治水には辰巳ダムは必要でないこと、A高畠地区の浸水被害は辰巳ダムでは解決できないこと、B兼六園と辰巳用水、犀川渓谷の自然を守り次世代につたえることは文化都市・金沢の住民すべての歴史的な責務であることを、ぜひ理解しいただきたいし、私たちの主張が正しくつたわれば、かならず理解していただけると確信しています。

 以上、取り急ぎ、簡単な回答とさせていただきます。さらに詳しく知りたいことなどありましたら、いつでもご連絡ください。

 なお、辰巳ダムをとりあげた新聞ができあがりましたら、下記へ5部ほどお送りいただければ幸いです。

〒921-8134 金沢市南四十万1丁目217 辰巳の会事務局

 若い知性と感性を大いに発揮されて、二水高校新聞部のみなさんがさらに活躍されることを期待しています。


ホームにもどる  アーカイブ目次にもどる