辰巳ダム建設計画再評価にかんする申し入れ

1998年12月18日

石川県公共事業評価監視委員会
土木部会長 石田 啓 殿

兼六園と辰巳用水を守り、ダム建設を阻止する会
会長代行 中井安治

 公共事業の正しい発展のための御尽力に敬意を表します。

 県公共事業評価監視委員会は、辰巳ダムをふくむ4つのダム計画について、年内に結論を出す方針であると報道されています。

 辰巳ダム建設計画については、@治水計画に根拠がなく不必要なダムである、A犀川渓谷の貴重な自然環境を破壊する、B世界に誇るべき歴史的文化遺産である辰巳用水を破壊する、Cダム湖の富栄養化した水が辰巳用水をつうじて流れ込み兼六園の曲水の美が失われるなどの点から、私たち辰巳の会をはじめ、反対の世論と運動がひろがっています。また、計画当初から今日までに県民からつぎつぎと出されている批判や疑問に対して、石川県はなんら説得力のある反論・説明を行っていません。

 このような状況で、監視委員会が「事業継続」との県の「再評価」の結論を承認するようなことがあれば、第三者機関の役割を果たしていないとの批判を免れないであろうことを、私たちは率直に指摘せざるをえません。

 私たちは、辰巳ダムにかんする再評価が議題に予定されている第2回土木部会に先立ち、以下のように、県の「再評価」の問題点を指摘したうえで、申し入れを行うものです。

1.県の「再評価」のおもな問題点

(1)計画のかなめ=治水計画への批判に言及しない「再評価」

 辰巳ダムの最大の目的は治水とされていますが、治水計画の前提となる「犀川大橋地点の基本高水流量1920t/s」の算出過程において、予測の前提となる実測データが存在しないにもかかわらず他の地点のデータを流用して「予測」を行った「データの捏造」が、専門家から指摘されています。適切なデータをつかって計算すれば、辰巳ダムをつくらなくても、犀川の安全性には問題がないことも明らかにされています。(添付資料、中登史紀『転換期の私的・土木技術論考』45〜57ページ参照)

 この問題を明らかにした中登史紀氏は、県にたいして公開質問状を提出していますが、県は事実上、回答不能になっています。唯一の回答らしきものは「この治水計画は建設省に認められている」というものですが、これは、県が建設省のチェックの網の目をくぐり抜けることに成功したという告白ではありえても、批判にたいする回答にはなりえません。

 当会の会員が傍聴した11月18日の監視委員会第1回会合で県が行った辰巳ダム「再評価」の説明では、住民の生命・財産を守るために辰巳ダムが必要といいながら、上記の批判についてどのような検討を行ったのか、どのように反論するのかについて、まったくふれられていません。

 辰巳ダム建設計画の最大の柱である治水計画にたいする根本的な批判にたいして、何らの言及もない県の「再評価」は、再評価の名に値しないものといわざるをえません。

(2)代替案について言及しない「再評価」

 高見裕一代議士(当時)の公開質問状にたいする回答で、県自身が、犀川大橋地点で河床を掘り下げるか高水敷の一部を削除することで、「毎秒1920トン」に対応できることをしめしています。上記(1)のようにこの「毎秒1920トン」自体が虚構の数字ですが、仮にこの数字を前提にしてさえ、辰巳用水や自然環境を破壊する辰巳ダムにかわる代替策が存在するのです。

 県の「再評価」では、この代替案についても一切ふれられていません。

(3)共有地運動にどう対処するか展望をしめさない「再評価」

 辰巳ダム建設予定地には、辰巳の会の共有地が複数存在します。そのうち相合谷共有地ではすでに全国98名によって登記が完了しています。また、今年10月からとりくみを開始した瀬領共有地には、12月15日現在、180名を超える申し込みがあり、16日に登記申請を行いました。

 これらの土地を取得しないかぎり辰巳ダム建設は不可能であり、土地取得の展望をしめさない「再評価」は、「『毎秒1920トン』への対策が必要」という立場からみても無責任なものといわざるをえません。

 かりにこれらの土地を県が取得できることがあるとしても、それまでには非常に長い年月がかかります。その間にも県の想定する「百年確率の大雨」が降る可能性はあるはずで、辰巳ダム建設に固執することは、その間、住民を危険な状態に放置することになるはずです。 上記(1)の問題を保留して県の想定する「毎秒1920トン」を前提にしても、(2)でしめした代替策のほうがすぐに着手できる現実的な案だということになります。

(4)環境アセスメントにたいする批判にふれない「再評価」

 県の辰巳ダム「再評価」では、「環境アセスメントを行ったところ『とくに問題なし』との結論を得た」とされていました。しかし、この環境アセスメントにたいしては、専門家から、「予定地付近の生物相からみて富栄養化が起こると思われる」「哺乳類の調査は不完全」「イブキシダを移植するには繁殖環境そのものも移設せねばならない」など、多くの批判・疑問が提出されています(添付資料、辰巳の文化遺産と自然を守る会『犀川総合開発事業辰巳ダム建設影響評価書(昭和62年石川県土木部)についての問題点と提案』参照)。

 今日の時点で再評価を行うというなら、アセスメント実施後に専門家から出された批判や疑問について解明しなければならないはずですが、今回の県の「再評価」は、このアセスメントを一切の論証抜きで妥当としており、再評価の名に値しないものといわざるをえません。

2.監視委員会への申し入れ事項

 以上、県の辰巳ダム建設計画「再評価」の問題点のおもなものを挙げましたが、これらの諸点にかぎっても、再評価の名に値する作業が行われていないといわざるをえず、「継続」との結論はまったく妥当性を欠いたものです。私たち辰巳の会は、ひきつづき県にたいして辰巳ダム中止をもとめると同時に、県公共事業評価監視委員会とりわけ土木部会にたいして、以下の諸点を申し入れるものです。

(1)「辰巳ダム建設計画は継続」との県の再評価結果を承認しないでください。

(2)辰巳ダム建設計画は休止し、県民参加による犀川治水計画の徹底的な見直しを行うよう、県にもとめてください。

 以上、私たちが指摘した「再評価」の問題点を御検討いただき、申し入れにおこたえいただけるよう、よろしくお願いいたします。