辰巳の会ニュースレター 第11号(1998年11月29日) ネット版

兼六園と辰己用水を守り、ダム建設を阻止する会・事務局


<目次>

第2弾共有地運動 参加申し込み170名に

公共事業再評価 市民15団体が申し入れ

学習会「専門家からみた辰巳ダム」を開催

辰巳ダムの予算凍結求め建設省へ陳情

神戸で辰巳ダム問題を展示

アメリカから「子孫のために地球を守ろう」

シンポジウム「北陸地区の公共事業と環境問題」 (ネット版限定)
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第2弾共有地運動
参加申し込み170名に

 五十嵐敬喜、宇井純、高橋治、宮本憲一、山下弘文の5名の先生方によびかけ人になっていただいた第2弾の共有地運動。よびかけ開始から2か月足らずの11月27日の時点で、参加申込者数は170名となりました。一昨年に取り組んだ第1弾の共有地運動では、およそ3か月の取り組みで申込者数は百余名でしたから、それを大きく上回るペースで運動がひろがっていることになります。

 よびかけ人の先生方の力とともに、何といっても、この2年間にムダで有害な公共事業にたいする批判の世論が大きく高まったことをしめしています。

 申し込み者のなかには、元一橋大学学長の都留重人さんや音楽評論家の湯川れい子さん、弁護士の木村晋介さんなど著名な方も多数いらっしゃいます。また、辰巳の会会員はもちろん、ダム問題はじめさまざまな環境問題にかかわって活動されている方々が、全国から共有地運動参加を申し込まれてきています。

 共有地運動は、市民の法的権利を行使してダム建設を阻止するものであると同時に、何よりもひとりひとりの声を集め、辰巳ダム反対の世論の大きさをしめし、その世論をさらに高く大きくひろめるものです。

 共有者の会事務局では、12月初旬に1回目の登記を行い、「県公共事業評価監視委員会」に申し入れを行おうと考えています。

 ひとり共有者がふえれば、辰巳ダムは一歩中止に近づきます。ひとりでも多くの方が参加されるよう心からよびかけます。
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公共事業再評価 市民15団体が申し入れ

 石川県は、「県公共事業評価監視委員会」を発足させ、辰巳ダムをはじめ県73、市町村35の計108件の公共事業について再評価をすすめています。監視委員会は第三者機関とされていますが、再評価自体は県自身がすでに行っており、監視委員会はその再評価の結果について審議し意見を述べるものであることが、事務局(県土木部監理課)から辰巳の会に説明されています。

 11月18日に開かれた監視委員会の初会合では、県側から再評価の結果と今後の方針について説明がありましたが、「中止」は8月にすでに中止が決まっていた河内ダム、所司原ダムの2件だけ。辰巳ダムを含む残り106件は「継続」(うち1件は「規模縮小」)の方針がしめされました。(辰巳の会から事務局2名が傍聴しました。)

 監視委員会は108件もの事業を評価するにもかかわらず、ダム事業については年内に、その他の事業については年度内に結論を出すと報道されています。これでは、実質的な審議などできるはずはなく、県の方針に「お墨付き」を与えるだけに終わる危険性がきわめて高いといわざるをえません。

 石川県内で環境問題や公共事業の問題にかかわって活動する市民15団体は、事態を重視し、11月26日、監視委員会にたいして第三者機関にふさわしい審議をもとめる申し入れを行いました。申し入れには辰巳の会など5団体から代表が参加し、申し入れ書を委員長に手渡して趣旨を説明しました。委員長は、「ご意見は承ります。検討させていただきます」と答えました。

 市民団体代表たちは、申し入れの後に開かれる土木部会の傍聴を希望しましたが、部会の冒頭に今回の審議は非公開とすることが決まったと県事務局が答えたため、傍聴することはできませんでした。

 申し入れ内容は、「行政の都合にあわせたスケジュールでなく十分時間をかけて調査・審議を」「公聴会の開催を」「県民の意見の公募を」「審議の公開を」「委員会の配付資料の公開を」など10項目。27日の新聞報道(「北陸中日」)によると、監視委員会は、この申し入れを受けて、事業内容によっては審議時間をかけることを十分考慮するとの方針を確認しました。また、公聴会については、県が市民団体と意見交換を行う方向で調整することになりまし。

 申し入れを行ったのは、つぎの15団体です。アースデイこまつ、石川県自然保護協会、金沢自然観察会、ガイアクラブ、辰巳の会、紅茶の時間、犀川と伏見川の水と緑を守る会、市民オンブズマン石川、地球温暖化防止石川連絡会、地球の友・金沢、ナギの会、白山の自然を考える会、星空を守る会・北陸ネットワーク、森の都愛鳥会、豊かな自然と健康を考える会。

 今回の申し入れは、監視委員会の運営にかんするものでした。辰巳の会としては、辰巳ダム建設計画の問題点を委員に知らせ、県の「継続」の方針を監視委員会が認めないようもとめる申し入れを独自に行う予定です。

 なお、監視委員会委員長は川島良治さん(県農業短大学長)。辰巳ダムについて審議する土木部会の部会長は石田啓さん(金沢大学工学部教授)です。辰巳ダムについては次回の土木部会で審議する予定。

【申し入れに参加して】
 この評価監視委員会については、全国的には「都道府県の事業主体のためにお墨付きを与えるだけ」との声もあり、実際各地の委員会で事業継続の審議結果が続々とだされています。石川の場合も、108件の事業審議にかける時間はわずかなものでしょう。しかし、事業予算は何千億円という巨額の税金です。社会的影響に見合った徹底
的な審議を委員会に求めるべく、市民による「監視委員会の監視」が必要でしょう。その趣旨が1週間たらずの短期間に多くの環境団体を動かしたことは、県内の市民運動の歴史的な1ページではないでしょうか。                                                                       (宮崎悦子)
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学習会「専門家からみた辰巳ダム」を開催

 10月7日(日)夜、金沢市民芸術村・エコライフ工房で、「土木建設の専門家からみた辰巳ダム−−県の治水計画を斬る」を開催しました。県が行おうとしている「再評価」にたいして対案をしめし提案していく「私たちの辰巳ダム再評価運動」の一環としての学習会です。

 講師は、建設コンサルタントの中登史紀さん。中さんは、県がつくった辰巳ダム計画の治水計画において、流量予測のさいに「データの捏造」ともいうべき重大な過失があることを発見し、テレビで全国に報道されています。今回の学習会では、県の治水計画とその問題点について、専門家の立場から縦横無尽に語っていただきました。

 辰巳ダム計画は、百年にいちどの確率で降るという大雨に対応する治水が最大の目的です。内川ダムも百年確率の大雨に対応する目的でつくられたのですが、その後、建設省が新しい方式で百年確率の雨量を算定し直すよう指示。そのときに犀川大橋地点での流量が極端に大きく算定されたのですが、ダムの「必要性」をつくりだすために流量算出を操作した疑いが濃厚です。その“操作”が、他の観測地点の都合のいいデータを流用して、実際には存在しない観測データがさも存在しているかのように見せかけた「データの捏造」です。

 県の計画書をみても、素人では何が書いてあるのかなかなかわからないのが実際のところ。中さんの平易な解説で、辰巳ダム計画が最大の目的としている治水計画の内容がきわめて問題の多いずさんなものであることが、参加者一同、よくわかりました。

 ひきつづき、生物・生態系の問題など、学習会を連続して開催する予定です。
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辰巳ダムの予算凍結求め建設省へ陳情

 辰巳の会と石川県自然保護協会は連名で、11月26日、建設省にたいして、来年度政府予算で辰巳ダム関連の補助金を凍結することなどをもとめる陳情を行いました。辰巳の会からは、杉浦幸子、碇山洋の両常任理事が参加しました。建設省からは河川局開発課の古賀俊行課長補佐が対応しました。

 昨年も同時期に陳情を行い、その直後に編成された98年度政府予算案では、辰巳ダムの新規事業費はゼロとなり、「足踏みダム」になりました(その後、補正予算で全額復活)。今回の陳情では、99年度政府予算でも「足踏みダム」にし、計画の徹底的な見直しを行うことを申し入れました。とくに、第2弾の共有地運動がはじまり、前回を大きく上回る170名が申し込んできていることなど、昨年の陳情後、辰巳ダム反対の世論がいっそう高まってきていることを詳しく説明しました。

 陳情は1時間におよび、古賀課長補佐はメモをとりながらときおりうなずき、陳情団の話を熱心にきいてくれました。

 古賀氏からは、@98年度予算は財政構造改革のまっただ中で編成されたので、本体に着工しているダムに予算を重点配分するために辰巳ダムなどの予算を削ったこと、A99年度予算では現地の個別事情を考慮して対応を決めることなどの説明がありました。

 99年度予算は「景気対策」の名目で公共事業に大盤振る舞いの編成方針で、辰巳ダムが98年度当初予算なみに「足踏みダム」とされるかどうかは、予断が許されません。同時に、質疑応答のなかで古賀氏から、@反対運動がある事業については意見交換を十分行うよう県に指示している、A今回の陳情を受けて、意見交換について県にあらためて指示する、Bそのなかで辰巳ダムについても見直すべき点があれば見直すべきだとの発言がありました。また、県の「再評価」が政府の99年度予算編成に間に合わなかった場合どのように扱われるか質問したところ、再評価が終わっていなければ予算をつけないというわけではないが、再評価の中身や間に合わなかった事情を調べて対応を決めるとのことでした。新河川法にもとづいて河川基本計画をつくったとき、その計画にしたがえば「辰巳ダムは不要」ということになった場合どうするのかとの質問には、「一般論としてはダム建設中止もありえる」という答えでした。

 来年度予算で辰巳ダムをふたたび「足踏みダム」にするという回答は得られませんでしたが、この1年間で辰巳ダム計画推進がいっそう困難になっていることは、十分理解してもらえたと思います。

 陳情を終えて実感するのは、辰巳ダム反対の世論をひろげ高めることがやはり決定的に重要だということ。運動の節目ごとに陳情などの行動を重視しながら、学習会や講演会、宣伝活動などにいっそう力を入れなければと思います。     
                                                             (碇山洋)
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神戸で辰巳ダム問題を展示

 11月14・15日に神戸で開催された「環境と健康フェスティバル」に、辰巳の会のブースを出してパネル展示や資料の配付、書籍販売を行いました。

 このフェスティバルは、関西消費者倶楽部などの主催で、「悪化する地球環境にあって、私たちの暮らし、人間の営みとの『共生』を考える契機とするメッセージを、様々な方法によって具体的に表現する」(主催者)目的で、展示、セミナー、学術報告、パネルディスカッションなど多彩な内容で開かれました。

 辰巳の会は、犀川渓谷の自然環境の重要性や辰巳用水の文化遺産としての価値、辰巳ダム建設計画の問題点などをパネルにして出展しました。用意した4種類各50部のチラシはすべて配布することができました。
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アメリカから「子孫のために地球を守ろう」

 共有地運動に参加を申し込まれた東京のY・Iさんから事務局に励ましのお葉書をいただいたので、ご紹介します。

 アメリカに嫁いだ姪が里帰りし、私のスローガンは「子孫のために地球を守ろう」だと話し、辰巳ダムのことを教えてくれました。いつもえらそうに話しながら、外国に嫁いだ姪に教えられ恥ずかしいことです。少しでもお役に立てばと思います。
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シンポジウム「北陸地区の公共事業と環境問題」

 日本科学者会議北陸地方区主催の「シンポジウム・北陸地区の公共事業と環境問題」が、7月25日・26日に金沢市のラポート兼六で開催されました。

 金沢大学経済学部・碇山洋助教授(辰巳の会常任理事)が「日本の環境政策と公共事業」と題して基調講演を行い、その後、各地からの公共事業に関する報告がありました。そのなかで、元金沢大学工学部教授の宮江伸一氏が「辰巳ダム−−建設決定の過程と現状」という報告をされました。シンポジウムの終了後、参加者のうち約30名が辰巳ダム建設予定地を見学しました。

 シンポジウムの参加者の多くは、県内の環境市民運動関係者や、富山・福井で公共事業反対運動や自然保護活動に関わっている人々など公共事業・環境問題に関心の高い人々した。しかし意外にも隣県の状況を知らなかったことにお互い気付かされたました。事業主体のやり方は驚くほど似ているので、他の団体の経験はとても役にたちます。今回このように隣県の人々と交流し情報交換できたことが、参加者にとって一番収穫だったのではないでしょうか。市民運動団体は個別に活動を行うと同時に、団体間でも連絡をとりあい、経験を伝えあうことが非常に重要だと思いました。                                                  (宮崎悦子)
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編集後記

 金沢市内の小学校では総合学習として辰巳用水を取り扱っています。先日ある小学校の児童数人が金沢市長あてに、「辰巳用水をこわさないでほしい」という手紙を送ったそうです。
 金沢市民から「金沢の伝統・文化を育む用水」と親しまれている辰巳用水。その価値を子どもたちも学習し、愛着を感じています。 (M)

 先日、金沢市内の高校生4人が辰己用水を見学し、辰巳ダム問題を学習しました。辰己用水の水トンネルの横穴に入った高校生たちは、先人たちの偉業に感嘆の声をあげていました。ダム計画の問題点の説明に熱心にききいり、つぎつぎと質問が出されました。若い純粋な知性と感性は、不合理な計画の裏にある醜いものを鋭く見抜きます。 (I)