〜再会〜<2000・9/19>
8月の終わり。
佐倉楓子ちゃんと花火大会にいっしょに行った時。何故か彼女は泣いていた。でも理由は判らなかった。
理由(わけ)を聞こうと電話してみようかと何度も思ったが結局掛けていない。「学校で会った時にでも聞くか」
とかそうこう思ってるうちに1週間経ち、9月4日。始業式。
校門の前で俺を見るなり坂城匠がつかつか近づいてきた。ただならぬ殺気を放しながら。
「おう、匠。どうした?暗い顔して?」
なんか深刻な顔していた匠が更に険悪な顔になって言ってきた。
「お前、知らないのか。佐倉さん、転校したんだって。」
「えぇぇ??・・・いったい何処にだよ??」
「なんだお前も知らないのか?今調べてる。情報が入ったらまた教えるよ。」
「あぁ・・・たの・・んだ・・・。」
匠と別れて愕然とした。
「ま、まさか転校しちゃうなんて・・・。なんで言ってくれなかったんだ・・・。ちゃんとお別れもしてないじゃないか・・・。」
ここで何故彼女が泣いていたのかなんとなく判ったような気がした。重い気を引きずりながら教室に向かった。
とりあえず僕と同じ教室に居る八重花桜梨さんに楓子ちゃんの転校先を知ってるかどうか聞いてみる事に。
「ごめんなさい。坂城くんからも聞かれたけど、私も知らないの。」
誰か知らないものかと自分なりに聞き歩いてみるが結局「知らない」の事。
掲示板の前を通った時ふと目に入った記事があった。「2年生の修学旅行は4泊5日で北海道」
「楓子ちゃんもこんな遠い地へと行ってしまったんだろうか・・・。」なんか、ふとそんな事を考えてしまう始末だった。
心の中のもやを引きずりながら家路についたのだった。
次の日。同じ道を歩いて学校に向かう。
昨晩に電話をしてみたが、やはり不通だった。いつも歩く道があまりにも遠いような感じがする。途中で光に会う。
「おはよう。今日もいい天気だね。あっ、そだ今度の日曜に一緒にどっか行かない?ね?」
変わらぬ笑顔を私に振りまいてくれる光。そんな笑顔に私も少しばかり気が晴れたそうな気がした。
「よし。じゃ、久しぶりにどっか行くか。」
「ホント?言ってみるもんだね。じゃ、電話待ってるからね。」
次の日曜日。光と河川敷公園に行く事に。
土手で二人並んで座っていると、
「ねぇ、あれから佐倉さんの引越し先って判ったの?」光が私に聞いてきた。
「いいや。まだ判らないらしい。でも今は匠を頼るしかないもんなぁ。」
「そうだよね。きっと・・・いや、絶対に匠くんが探し出してくれるよ。だからもうちょっと待ってみようよ。」
「光って悩みとかある?」「う〜ん、有るような・・・無いような・・・って感じかな?」
光らしい答えだなぁと思いながら私はふとこんな事をもらした。
「光にはわかんないだろうかなぁ。今の俺の気持ち・・・。」
「そんなコトない!・・・わ、私だって・・・うぅん、なんでもない。」
いきなり悲しげな表情をした光の口が僅かに「・・・ばか・・・」って動いた気がした。いや、気のせいかな?
その後、あまり会話もなく日曜は過ぎていった。でも光と会っていても楓子ちゃんの事が頭を離れる事はなかった。
目を閉じれば浮かんでくる楓子ちゃんと共に過ごした日。楓子ちゃんの笑顔。「もう一度会いたい。楓子ちゃんに。」
自分の中で日増しに楓子ちゃんに対する気持ちが強くなっているのにはまだ気付かないまま。
修学旅行まであと1週間と迫った月曜日。惰性的に一日一日を過ごし、家路に就く日が続いた。
家に帰っても気付けば電話とにらめっこしてるぐらいだった。「どうしたんだろう、俺・・・」
自分でも訳が分からぬまま修学旅行の出発日を迎えるのだった。
修学旅行2日目。9/19。朝、いきなり匠が呼びに来る。
「じゃ、行くぞ。」「何処に?」「じゃ、行こうぜ。」「まてまてまてぇー!!」
匠と二人で小樽運河にやってきた。なぜ、匠となんか来なきゃならんのだと思いつつ運河を眺める。
「おっと、じゃ俺、ちょっとトイレ行ってくるから。先に行っちゃうなよ。」「あぁ、判った。待ってるよ。」
匠が行ってしまい運河を一人眺める。・・・あれ?小樽運河にアーチ橋なんかあったかなぁ?まぁいいか。
「・・・さん!」
えぇ??・・・この聞き覚えのある声。まさかそんな。慌てて振り返るとそこには。
ずっと、ずっと逢いたかったあの娘。そう楓子ちゃんが私の目の前に居たのだ。
「楓子ちゃん!!」
偶然とはいえ小樽運河で再会するなんて・・・。あの時と変わらぬ笑顔の娘がそこにいた。
「でも、どうして?・・あ、まさか!」
「わかった?今朝連絡をくれて、ここに連れてくるから待っていてくれって。」
匠のヤツめ。なんてニクイを事を・・・。でもお互いの修学旅行先で逢えるなんて・・。
私は”もう絶対に楓子ちゃんを離したりしない”と自分の中で決めた。ずっとずっと一緒にいれるように・・。
その時、私は自分の気持ちが判った。”俺は楓子ちゃんの事が好きなんだ”と。
「また、会えるよね?」次の再会を約束して小樽運河での一日は終わった。
(完)
・・・・でも、実際なんか忘れてる気がする・・・。
実はあの河川敷公園以来、光は逢うどころか口も聞いてくれなくなってしまったのだった・・・。
ヤケになった私は「くそぅ!!友達が遠くに引っ越して悲しむ気持ちが光に判ってたまるかぁ!!」
と心の中で叫んでみた。
ん??ちょっと待てよ・・??
・・・しまった。・・・そうだった。・・・過去に同じ環境に置かれて悲しんでたヤツが居たよ・・・。
・・・自分だって引越しを経験した身だってのをしっかり忘れてた・・・。
次の日の朝。光の家へ行き、ずっと謝ったり続けた。
「そーだなー。許してあげる代わりに今度の日曜日にショッピング街に付き合ってね。それでなんか奢ってね♪」
なんて条件つけられた・・・。まるで匠みたいなコトを・・・トホホ・・・(涙)
<〜再会〜2000・9/19(完)>