「〜色褪せない想い・いつまでも〜」

きぃ・・・。からんからん・・・。ドアについた小さな鐘が開けるたびに音がする。
ドアが開くたびに、ついドアに目がいっちゃう。 ここは港町に面したトコにある小さな喫茶店の中。
特急ヴェガが全国を縦断して、あれから4ヶ月・・・
。 「忘れてないよね。ちゃんと会おうって言ったんだから・・。」
窓辺のすぐ脇に座ってる私。 窓辺からは道を行き交う人の姿ばかり。
他にもここから見えるのは赤色のポートタワー。
また私、成田その子は4ヶ月前と同じ、神戸の街へとやってきたのでした。
「・・・いろんなコトがあったよねぇ・・・」
刻はまだお昼を廻ったあたり。気持ちよい陽だまりの中でうとうとしながら、 私は、またあの列車で起こった
いろんな思い出を思い返していました。

・・・・・
・・・・・

忘れもしない・・・。8/11にあなたとここで。ハーバーランドで。デートしたことを・・・。

・・・・・
・・・・・

8/12。大阪駅。
その子「ふんふふんふん♪」
昨日の事もあってか今日は朝から上機嫌で食堂車のお掃除。
そんな脇から一人の女の子がやってくる。
けさみ「おはようございます。その子お姉ちゃん。鼻歌なんて歌ってなんかイイコトあったんですか?」
その子「あ、けさみちゃん、おはよう。」
けさみちゃんに挨拶をすると、
菜々子「あ、お二人さん。おはよう。さて、今日も頑張って仕事に励みましょうかねぇ。」
その子&けさみ「あ、菜々子さん。おはようございます。」
菜々子「おや?けさみちゃんは今日は夕方から入るんじゃなかったっけ??」
けさみ「いえいえ、毎朝の挨拶ですよ。たとえ朝に仕事は無くても顔は出してるんですよ。」
菜々子「へぇ〜。それは感心、感心。・・・でもチーフに見つかる前に行かないと仕事させられるよ。」
けさみ「あはは。それもそうですね。ではその子お姉ちゃん、菜々子さん、頑張ってくださいね。」
その子「うん。けさみちゃんも大阪観光、楽しんできてね。」
けさみ「はい。いってきます。」
お出かけしていく彼女を手を振って見送る。
その子「さて、私は食堂車でお留守番してるから菜々子ちゃんは車販用の商品の受取をしといて。」
少し怪訝(けげん)な表情をして、
菜々子「えぇ?その子ちゃんだけ留守番はズルくないかい?ジャンケンで決めようよ〜。」
その子「よーし。負けないから。行くよっ!じゃんけん。」

・・・・・
・・・・・

菜々子「いってらっしゃ〜いっ。」
笑顔で車輌から見送る菜々子ちゃん。
その子「は〜い・・・。・・・はぁ、ついてないなぁ・・・。」
肩を落としながらホームに降り立つ。
じゃんけんで負けた私が車販用の商品の受取に行くことに。
とぼとぼと階段を降りて通用口に行くのでした。
「えっと、こっちだったよね。」
手元の地図を見ながら駅の中を歩く。そこでふと人影が見えたの。
・・・・あれ?・・・あれって、けさみちゃん?
さっき出かけてったハズなのに・・・。どーしちゃったんだろう・・・。
・・・それに・・・泣いてる??・・・??

今日は夕方からけさみちゃんと一緒に仕事したけど・・・。聞けなかった。
大阪駅で見ちゃったあのコトを・・・。聞かないほうがいいのかなぁ・・・。
でも泣いてたし・・・ちょっと心配だよねぇ・・・。

8/13。広島駅。
けさみ「その子お姉ちゃん。おはようございます。」
その子「おはよう。けさみちゃん。今日も早いね。」
けさみ「お姉ちゃんも早いじゃないですか。さ、はやく準備しましょう。」
その子「そうだね。今日も頑張ろ。」
けさみ「はい。」
今日は昨日のけさみちゃんとは違っていつもと同じけさみちゃんだった。
そして列車は広島を出発。
今日も元気にお仕事。3人で忙しくお客さんをさばく。
そんな中で稚内からずっと毎日、食堂車に通ってくるあの人。
おととい、一緒に神戸に遊びに行ったあの人。
いつもいつも私が出迎えるあの人・・・。
私をずっと気にかけてるって言ってくれた。
なんか、ちょっと嬉しいな。だってあの時も励ましてくれたし。

・・・・・
・・・・・

そして今日も博多まで無事に列車は到着。
食堂車のあと片付けをしてた時、けさみちゃんが私にこう言って来たの。
けさみ「私、負けませんから。」
その子「うん?なにか言った?けさみちゃん?」
けさみ「私、その子お姉ちゃんに負けませんから。」
いつになく真剣な表情(かお)のけさみちゃん。
その子「・・・負けないってなにを?」
けさみ「いつも食堂車に来るあの男の人です。私、お姉ちゃんがあの人とデートしてるトコを
見たって人から聞いたんです。」
その子「みんな知ってたんだ・・・。でもデートなんて大層な事してないよ。
ただ、おしゃべりしてただけだよ。」
ちょっとビックリしちゃったけど誤解されたくなかったから・・・。
けさみ「・・・実は、私もあの人のコトちょっと気にかけてるんです・・・。
私だって・・・私だって!・・・ごめんなさい、お姉ちゃん。ちょっと取り乱しちゃった・・。」
うっすら浮いた涙を拭う、けさみちゃん。
その子「・・・けさみちゃん・・・。」
なんて声を掛けたらいいんだろう・・・。
励ますともっと傷つけちゃいそうで恐いし・・・。
でも・・・私だって、あの人のこと・・・。
意を決してこういった。
その子「私だって負けないんだからね。けさみちゃん。
私もあの人の事良い人だって思ってるしもっとお話したいし。」

・・・・・・
・・・・・・

そうやってその日は、けさみちゃんとその人のコトでもめてたんだった。
けさみちゃんが「私、明日、彼に気持ちを伝えます。それでダメだったとしても。
なにも言わずままに後悔なんてしたくないですから。」
・・・私もけさみちゃんも結局、頑固だったんだよねぇ。

・・・・・・
・・・・・・

8/14。博多駅。
けさみ「じゃ、いってきます。」
ちょっとお洒落したけさみちゃん。私は今日もそれを見送るだけ。
その子「じゃ、気をつけてね。」
けさみ「うん。」
笑顔で出て行った後ろ姿をずっと目で追う・・・。
・・・「頑張ってきてね」・・・なんて声を掛けられるハズもなかった・・・。
私だって気にしてる人に会いに行くって言ってるんだもん・・・。
・・・なんかどっかフクザツな気持ち・・・。
ここで「頑張ってきてね」なんて言ったら余計に傷つけてしまいそうで・・・。
・・・それだけが恐かったの・・・。

・・・・・・
・・・・・・

その子「あの日だけだったんだよねぇ。仕事になかなか集中できなかったのって・・・。」
手元の時計をちらっと見る・・・。もうちょっとで時間かな?
また窓の外に目を向ける。そろそろ来てもいい頃だよねぇ・・・。
そんな事をまた考えつつ少しまどろみかけたところにからんからんっとドアが開く音がした。
突然の音にちょっとビックリしちゃったけどね・・・。たはは・・・。
「あ、ごめーん。待った?」
今、お店に入ってきた人はそう言いいながらすぐに私のもとにやってきた。
その子「ううん。大丈夫。それよりも表、寒かったでしょ??ささ、座って座って。」
けさみ「うん。お久しぶり。その子お姉ちゃん。」
その子「うん。久しぶりだね。けさみちゃん。」
今日の待ち合わせの相手の羽田けさみちゃん。
ちなみに今日は12/24。世間ではクリスマス・イブのこの日。
”一緒に神戸に行こうね”って約束してたの。
喫茶店で少し時間を潰して、二人で神戸ハーバーランドを歩いていた。
そして、けさみちゃんを待ってる間にあのヴェガでの事をずっと思い出してた事を話した。
けさみ「あ、そうだ。・・・ハイ。これ。お姉ちゃん。」
けさみちゃんはごそごそとカバンを探って小さな包みを取り出して私に見せてきた。
けさみ「その子お姉ちゃん。明日、お誕生日だったでしょ?対したモノじゃないけど・・・
これ・・・プレゼントっ!受け取って。」
その子「わぁ、嬉しい。覚えててくれたんだぁ。」
けさみ「うん。だって前の私の誕生日の時にもお姉ちゃんプレゼントくれたし。
それにぃ・・付いてたカードにしっかり自分の誕生日書いてあったでしょっ。」
いたずらっぽく私を指差す。
その子「えぇ〜。そんなコトしないよぉ。うそ言わないでよぉ。」
けさみ「あはは。ごめんなんさい、お姉ちゃん。」
ちょっと悪ふざけが過ぎたかと両手を合わせて私に謝る。
その子「いいよ。気にしてないから。でも。けさみちゃんの気持ちはすごく嬉しかったよ。」
受け取ったプレゼントを大事にカバンの中にしまう。
今はこうやって明るく振舞ってるけど、あの日のあの人に会いに行ってきた後なんて
・・・きっと、けさみちゃんなりの強がりだったのかもって思えちゃうの。

・・・・・・
・・・・・・

8/14。博多駅。夜。
その子「・・・・はぁ・・・・。」
菜々子「どぉしちゃったの?その子ちゃん。ずっと溜め息なんてついて。具合でも悪い?」
その子「ううん。だ、大丈夫だよ。ささ、仕事仕事♪」
今日はけさみちゃんを見送った後からずっと溜め息ばっかりが出てる・・・。
・・・気になる・・・かな。気にならないなんて言ったらウソだもんねぇ・・・。
しばらくして、けさみちゃんが食堂車に戻ってきた。
けさみ「ただいま〜。」
その子「あ、おかえり。けさみちゃん。お疲れさま。」
帰ってきたけさみちゃんの表情・・・あれ?いつもと変わらない・・・?

・・・・聞きたい・・・・聞いてみたい・・・でも私が切り出してもいいのかな・・・。
そんなコトをずっと考えてて気付いた時にはもう閉店の時間だった。

・・・・・・
・・・・・・

もう日も傾いて夕暮れ時が近付く。
二人で観覧車の前にやってきた。二人で観覧車を見上げながら
けさみ「・・・ここ・・・なんですよね。あの人と電気に感謝したって場所。」
その子「うん。・・・ここで観覧車を見てて、ホントにキレイだなぁって思っちゃって・・・、
だから、つい”電気に感謝だよね”って。」
けさみ「ホント、その子お姉ちゃんってちょっと変わってるよね。」
クスっと笑うけさみちゃん。
その子「あ、ひどーい。・・・でも、あの人も同じコト言ってた。ふふふ。」
二人でクスクスと笑いあう。
あの後、営業の終わった食堂車の中で二人っきりになった時にけさみちゃんから
切り出してきたんだった。

・・・・・・
・・・・・・

食堂車内。
けさみ「私、振られちゃいました。」
窓の外を眺めながらけさみちゃんがそうつぶやく。
その子「え、振られちゃったって・・・。」
間髪いれずにけさみちゃんが話を続ける
けさみ「あの人、言ってました。”僕には大事に思っていたい人が居る”って。
けさみちゃんの気持ちは嬉しいけど、自分にはウソはつけないって。」
その子「・・・・・・。」
けさみ「・・・私も今日、あの人に会ってスッキリしました。その子お姉ちゃん・・・
し、幸せになってね・・・。うぅ・・。」
言い終えると同時に食堂車を飛び出していく。待ってと追いかけるコトもできずにその場で
只ずっと立ち尽くすまま・・・。どうしても最後の言葉が頭の中でずっとこだましてたから・・・。

・・・・・・
・・・・・・

けさみ「・・・お姉ちゃん??どぉしちゃったの??ぼーっとしちゃって?」
我に戻ったとき、目の前には私の顔を覗き込む、けさみちゃんが居た。
その子「うん??・・・あ、け、けさみちゃん、どーかした?」
けさみ「いや、なんかぽけ〜ってしてたから・・・。」
その子「ううん。そんなコトないよ。只、まだちょっと博多のコトを思い出してて。」
けさみ「ふぅ〜ん。そうだったんだ。・・・で、あの人とは上手く行ってるんです?」
その子「うん。・・・明日、逢う事になってるの。」
けさみ「そっか。やっぱ誕生日だしねぇ。まぁ、ジャマ者は今日で退散しますか。」
ちょっとイヤミっぽく言うけさみちゃん。ちょっとふくれて
その子「もぅ、けさみちゃんっ!茶化さないのっ!」
けさみ「あはは、ごめんごめん。お姉ちゃん。ごめんなさい〜。」
冗談っぽく逃げて廻るけさみちゃん。もう日も落ちて廻りも暗くなってきた。
その子「そだ。ねぇ、三宮のほうに行こ。ちょうどルミナリエもやってるし。」
けさみ「そうですね。行きましょ。」
二人で三宮のほうに行く。

神戸ルミナリエ。毎年、クリスマスの頃に街中に光のイルミネーションを散りばめる。
それは札幌のホワイトイルミネーションと同じく幻想的な空間が街を覆い尽くす。

けさみ「うわぁーーーっ・・・・・。凄くキレイ・・・。」
その子「ホント・・・。キレイ・・・・。」
二人でその光景に息を呑んでしまった。ホントに幻想的でキレイだった。
そしたら、けさみちゃんが微笑みながら言ったの。
けさみ「・・・なんか・・・お姉ちゃんが”電気に感謝だよね”って言った気持ち・・・。
・・・判る気がします。ホントに電気って人や街を明るくしたりできるんですね・・・。」
ちょっと間があって、
けさみ「・・・あの人に告白した時もこうやって天神の夜景を見てたときなんです・・。」
その子「・・・そぅ・・・だったんだ・・・。」
けさみ「私、実は2度、告白したんです。」
その子「えっ??・・・ひょっとして大阪駅で泣いてた時?」
!!?・・・しまった。つい、いっちゃった。
けさみ「・・・見たの?お姉ちゃん。」
ちょっと険悪な空気が流れる。
その子「見たって言うより少し見かけたってだけ・・・。だって泣いてるってコトぐらいしか
判らなかったし・・・。でも・・・ごめんね・・・。」
けさみ「いえ、いいですよ。だって大阪の時と天神の時と、あの人から返って来た
返事は一緒でしたから。」
その子「・・・・。」
けさみ「あの人、こう言ってました。
”けさみちゃんの気持ちは嬉しい。嬉しいけど僕は今、大事に想ってる娘が居る。
それは、その子ちゃんなんだ。”って。」
ずっと、けさみちゃんが言うことに耳を傾けた。いや、聞かなきゃいけないと思った。
すると丁度、広場に出て、イルミネーションをバックにけさみちゃんが振り返って
けさみ「お姉ちゃんっ。絶対に幸せになってね。だって私が好きになった人だもん。
絶対に悪い人じゃないからっ。お姉ちゃんを・・・二人をずっと応援してるからねっ。」
輝いてた。イルミネーションをバックにけさみちゃんはとってもキレイに見えた。
あの時見せた強がりじゃない。素直に応援したいって気持ちが痛いほど伝わる。
このけさみちゃんの想いを裏切っちゃいけない・・・。ホントにそう思えた。
その子「うん。絶対に幸せになるね。きっと良いお嫁さんになってみせるから。」
けさみ「その意気だよ。その子お姉ちゃんっ。」

そしてしばらく神戸ルミナリエを見ながら二人でずっとお話をしていた。
そんな中、けさみちゃんがつぶやいた。
けさみ「はぁ〜、春はいつ来るのかなぁ。」
その子「まだ12月で冬だよ。まだまだ先だよ。」
けさみ「それって慰めに聞こえないよぉ。」
その子「だって慰めてないもんっ。」
けさみ「あ、ひどーい。」
その子「ふふふ、ごめんごめん。」

でも・・・けさみちゃん、私だってけさみちゃんのことずっと応援してるからね。

(完)