~ゆめのさき~

軽くスキップを踏みながら食堂車に近付く女の子。金沢から乗って来た加古川秋子ちゃんである。
秋子「るんた♪るんた♪あぁ~~。その子さ~~ん。」
入り口の前で大きく手を振る。呼ぶ声に気付き振り返る。
その子「え??あっ。秋子ちゃん。いらっしゃいませ♪」
秋子「あれれぇ??その子さん一人ですか??けさみちゃんは?」
その子「けさみちゃん?今は休憩中だよ。・・・それそりも・・・」
秋子「?どうかしたんですか?」
キョトンとした表情でその子ちゃんを見る。
その子「(にこっ)お食事ですか??」
常に誰にでもにこにこと笑顔で接客に応じるその子ちゃんだった。
秋子「いえいえ。ゴハン食べに来たんじゃないんですぅ。みらいちゃんを探してたんですよぉ」
その子「みらいちゃん??みらいちゃんなら名古屋で降りたって聞いたよ。」
秋子「えぇ~~っ!!??そ、そうだったんですかぁ??私になにも言ってくれなかったよぉ。」
その子「え、えっとね、元々、一日車掌のお仕事が名古屋までだったのよ。でも名古屋に着いたらすぐにあの
マネージャーさんに連れてかれたそうなの。だから他のみんなにもお別れできなかったんじゃなかったのかなぁ。」
昨日、名古屋の駅前までTV番組の収録をしていた、みらいちゃん。でもなにか哀しげにも見えたあの表情・・・。
・・・でも今頃ホントにどうしてるんだろう・・・。ホントに連れてかれたのかなぁ・・・・(まるで望月は誘拐犯のようだ)
秋子「あ~あぁ。せっかくみらいちゃんとお話しよう思ったのに・・・。降りちゃったんなら仕方ないですよね。
しぶしぶ・・・。」
その子「あれ?秋子ちゃんは金沢から乗ったんだよね?もうみらいちゃんと仲良しだったの??」
秋子「はいっ!でも他の人とも仲良くなりましたよ。みんな良い人ばっかりですね。」

・・・・そんなコトでしばらく秋子ちゃんと他愛のないお話をしたの。
そして列車が大阪に停車してるときに事件が起きたの。
秋子ちゃんと私が食堂車でお話してたときに・・・、
ガーっとドアが開いて息を切らせて女の子が食堂車に飛び込んできたのだ。

その子「あ、いらっしゃ・・・み、みらいちゃん!どうしたの?なんで大阪に居るの??」
みらい「その子さん。説明は後でします。お願いです。私を・・・マネージャーからかくまってくださいっ」
戸惑いながらもみらいちゃんの行動が尋常でないので奥に連れて行こうとしたときに
秋子「あっ!あれ、みらいちゃんのマネージャーさん!!」
ホームにみらいちゃんを必死に探す望月が居たのだ。
しかもその瞬間、望月と秋子ちゃんの目が合う。
秋子ちゃんの存在に気付いてか望月はどんどん食堂車に近付くのであった。
その子「あ、秋子ちゃん。私、みらいちゃんをお部屋に連れてくから。マネージャーさん来たらうまく
とぼけて置いてね。さ、みらいちゃん、こっち。」
そんな事が聞こえたか否か秋子ちゃんは目が合ってしまった瞬間から恐怖で硬直状態でしかも涙目の状態で
固まったまま・・・。しかし望月は容赦なく秋子ちゃんにせまり寄る。
ついに食堂車のドアが開き望月が入ってきた。そして
望月「おい。そこの女。みらいを見なかったか??」
その言葉を聞いて秋子ちゃんは恐怖の絶頂に達したらしく叫んだ。
秋子「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!さ、さらわれるぅぅぅぅ~~っ!!誰か助けてぇぇぇぇぇぇっ!!」
ヴェガ10両すべてに届くような大声で叫んだ。さすがにこの声には望月も退く。
望月「ば、ばか!なに言い出だすこのアマ!」
(どうやら先日にその子ちゃんが言ってたことをうのみにしたみたいだ)
その声を聞いて厨房から飛び出してきた史上最強コック。家石雷爆料理長。
雷爆「大声出して何事だ!?ぬっ。貴様、この食堂車で婦女子に乱暴しようとはいい度胸だ。」
ギッロっと望月を睨み付けてボキボキと指を鳴らしづかづかと望月にせまる。
望月「ま、待て!!待ってくれ!!こ、この女が勝手に叫んだんだ。ほ、ホントだ!!」
雷爆「言い訳無用!」
その瞬間、ドアが開いて美弥車掌長も食堂車にやってきた。
美弥「いったい何の騒ぎですか??」
雷爆「おぉ、美弥さん。丁度良かった。そいつ無賃乗車だそうですぜ。」
すぐ望月の方を向き
美弥「・・・失礼します。乗車証を確認します。お出し下さいますか?」
望月「・・・じょ・・・乗車証って言われても・・・」
美弥「お持ちではないというコトでしょうか??」
望月「・・・・・」
望月が黙り込んだ瞬間、雷爆料理長が後ろに廻り込み
雷爆「美弥さん。コイツを鉄道警察に引き渡してきますね。」
美弥「えぇ。お願いします。」
雷爆「さぁ、来いっ。」
望月「な、なにする!!は、離せ!!」

首根っこ掴まれて運ばれていく望月。その姿を見て厨房に隠れてたその子ちゃんとみらいちゃんが顔をだす。

その子「・・・・・行った・・みたいだね。」
みらい「はぁ~。よかった・・・。」
二人が安心したときに列車が出発。これで完全にマネージャーから逃げられたことになった。

・・・・・・・
・・・・・・・

みらい「・・・・っということなんです・・・。」
その子「・・・ひどいマネージャーさんねぇ。」
秋子「ホントですぅ。みらいちゃんが可哀相ですよぉ。」
みらい「・・・だから私もこうやって逃げてきたんです・・・。もう戻れませんけどね。」
少し肩を落としながら今までのコトを話すみらいちゃん。
秋子「でもでも、また追って来たらどうしましょう?」
その子「それもそうねぇ・・・。いっそ終点まで乗ってるのはどう?みらいちゃん?」
みらい「私はそうしたいんですけども・・・親が広島で待ってるから来いって・・・。」
その子「そうだったよね。みらいちゃんのお母さん、喜劇女優では有名だもんね。」
みらい「その子さん。母親のコトご存知なんですか?」
その子「そりゃもう。こう見えても私は芸能学校出身なの。みらいちゃんのお母さんくらい知ってるわ。」
秋子「へぇ~。その子さん物知りなんですねぇ。私、尊敬しちゃいます♪♪」

話をまとめるとこうだ。
名古屋を降りるときにほぼ無理矢理、望月にヴェガから引きおろされるカタチになり
せっかく仲良くなれた人たちにお別れぐらい言いたいと反論したところ、
望月「お前は大事な事務所の看板アイドルだ。どんどん仕事をこなさなくてはならんのだ。
友達だのどうのこうの言ってるヒマなどない。さぁ来い!」
みらい「嫌っ!!せっかく・・・・せっかくお友達になれたのに・・・そんなの酷すぎます・・。」
望月「これを見ろ。これが明日のスケジュールだ。そんなだかが一人二人のファンを大事にするくらいなら
他の大勢のファンの為に働くんだ。」
この望月の一言を聞いて、みらいは抵抗するのをやめて低い声でつぶやいた。
みらい「・・・・一人二人のファンを大事にしちゃいけないんですか?・・・」
望月「ん?・・・なにを言い出すと思えば・・・そんなコトか・・・。」
鼻であざ笑うかのごとく望月がつぶやき、こう言った。
「お前はアイドルなんだ。一人二人を相手にしてただけでは儲けにならん!判ったなら早く支度しろ。」
みらい「・・・一人二人の私を応援してくれるファンを大事に出来なくて・・・なにがアイドルですか・・・。
・・・私は・・・私は・・・事務所のコマ使いなんかじゃありません!!」
そう言って望月にカバンを投げつけて、大阪まで望月から逃げて来たのだと言う事だ。

みらい「その事を事務所から聞いた親が広島に居るからちゃんと話し合おうって言ってきたんです。」
その子「それで広島なのか~。でもホントにこの後はどうするの?みらいちゃん?」
みらい「・・・まだ自分自身良く分かってません・・・。でも芸能活動は辞めたくないんです。」
秋子「わぁ~。しっかりしてるんですね。みらいちゃんって。私、尊敬しちゃいます☆」
(さっきから相づちしか打ってない秋子ちゃんであった・・・・(汗))
みらい「それで・・・その子さんにお願いがあるんです。終点・・・いえ、広島まででも良いですからアイドルではない
普通の女子高生としての飯山みらいとして食堂車で働かせて頂けませんか?」
その子「うん。そんなコトならお安い御用よ。じゃ、着替えに行きましょうか?」
秋子「その子さん、その子さん。あのぉ~わ、私もアルバイトして良いですか??
・・・お姉様とぉ・・・いっしょにお仕事♪♪・・・きゃーーーっ!!」
その子「・・・う、うん。じゃ、じゃぁ行きましょ二人とも。」

その後、二人は着替えて広島までの短い間だけど食堂車でがんばって働いてくれました。
”素”のみらいちゃんはホントに可愛くて少しドジなトコもあるけどやっぱり何処にでも居る16歳の女の子と
なにも変わりありませんでした。
働いてる時の生き生きとした元気な顔はやっぱりアイドルの時と同じ。
・・・ホントに働く事が大好きでファンを一人一人大事にしてる証拠だね。私も見習わなきゃね。

列車は広島に到着。みらいちゃんは親に会いに行ってくると出掛けて行きました。
でも・・・すこし心配・・・。
・・・だって、さっきまで”まだ自分自身良く分かってません”って言ってたんだもの・・・。
秋子「・・・・様子見に行きます??」
背後から突然の声。
その子「きゃっ!!・・・って秋子ちゃん!?・・・・もうおどかさないでよね。」
秋子「あはは、ごめんなさい。だって、その子さん、みらいちゃんのコト心配そうに見てたからつい・・・。」
その子「やっぱり心配だよ・・。だって、みらいちゃんの夢が掛かってるんだもの・・・・。」
秋子「・・・夢・・・かぁ。」
ふと、ため息をつく。
その子「うん?・・どうしたの?秋子ちゃん?」
秋子「いえ。少し・・・みらいちゃんが羨ましいなぁって。」
その子「え?どうして?」
秋子「ちゃんとそういうコト相談できる人が居て羨ましいなって。私・・・そういうお友達少ないし・・・。」
その子「・・・私やみらいちゃんじゃ・・・ダメかな??」
秋子「えっ?」
その子「私は秋子ちゃんのコト大事なお友達だと思ってるよ。それとも私・・お友達じゃないの?」
秋子「そ、そんなコトないです!せっかく出会えた大事なお友達ですよぉ。」
その子「私もね・・・みらいちゃんがちょっと羨ましいんだ。ちゃんと夢を追いかけれていて・・。
私はもう芸能人になるコトは諦めちゃったし・・・。夢らしい夢なんて持ってないし。」
秋子「夢らしい・・・夢ですか??」
その子「笑わない?」
秋子「はいっ。絶対に笑ったりしません。」
その子「・・・いいお嫁さんになること・・・。ってなんか当り前みたいだよね。・・・秋子ちゃん?」
振り向くと目を輝かせながらこっちを見てる秋子ちゃん。
秋子「とってもとってもっいい夢です!!私、感動しちゃいました☆」
そんな話をしてると、みらいちゃんが食堂車へやってきた。
みらい「今帰ってきました。なにを二人で楽しそうに話してたんですか??」
その子「みらいちゃん。おかえりなさい。」
秋子「おかえりなさい。みらいちゃん。今、二人で夢のお話をしてたんですよ。」
みらい「夢のお話ですか。・・・・さっき親と会って来て色々とお話してきましたけど、
やっぱり夢は待ってるだけじゃダメなんだって思いました。」
その子「そうだよね。待ってるだけじゃダメだよね。・・・未来は自分の手で開け・・・ってね。」
秋子「そうですよ。夢を叶える為、今を輝いて生きてなきゃダメですよ!!」
その子「よぉーしっ。夢を叶える為にお仕事がんばりましょっ!それと誰がイチバン輝いてるか勝負よ~。」
みらい「望むところなのだ☆みらいはいつでも受けてたつのだっ!」
秋子「あれ??みらいちゃん。アイドル辞めたんじゃなかったですか??」
みらい「そうでしたね。では、みなさん。お手柔らかに。」
その子「・・・ギャップはげし過ぎるよ。みらいちゃん。」
みらい「ホントですね。ふふふふふ。」
その子&秋子「あははは。」

そして終点まで私たち3人は食堂車でお仕事。結局、誰がイチバンだなんてどうでもよくなってたけど
みんな自分の夢を持って一生懸命頑張ってるんだと思いました。

その子「・・・もう一回・・・頑張ってみようかな・・・芸能界・・・。」

今日も列車は走り続けます。人の夢を乗せて。”夢の崎”を目指して・・・。


(完)