星の降る夜
それは、とても霧深いある日の深夜のことでした。
テストの日が近かったこともあって、少女が夜遅くまで勉強していますと、
どこからともなくコンコン……コンコン……と物音が聞えてきます。
少女は最初はあまり気にもとめていませんでしたが、まったくやむ様子がないので、流石に気になりだしました。
鉛筆を置いて耳をすませてすませてみると、どうやらその音は隣の部屋のベランダから聞えてくるようです。
少女は不思議に思いました。何故なら隣の部屋は空き部屋で、しかもここは高層マンションの34階です。
「なんだろ……気味が悪いなぁ……」
少女は不安な気持ちいっぱいで、隣の部屋へといきました。
そっとドアをあけて中の電気をつけて、注意深く辺りを観察しますが、別にこれといって変わったところはありません。
「おっかしいなぁ……」
少女は部屋の中にはいってドアをパタンと閉めました。
その時です。
急に電気が消えて、部屋の中が真っ暗になりました。
そしてコンコン、コンコンという音も近くから聞えて着ます。
「だ、誰かいるの!?」
少女は叫びました。
すると……
「ばぁぁぁぁぁっ!!」
その子は大声をだしながら、懐中電灯で自らの顔を照らし浮かび上がらせた。
「きゃああああああああああ!!」
愛が悲鳴をあげ、隣にいたつばさに抱きつく。
「ちょ、ちょっと愛さん……苦しいよぉ……」
たまらずつばさは、苦痛に顔を歪めた。
「……くだらないわ」
一方、対称的に緑は冷めた表情でポツリと呟く。
「もうちょっとインパクトが欲しかったかな?」
星奈もウンウンと頷いた。
「ホント、くだらない話ですわ」
「そーそー。アレだな、話に真実味を持たせないと」
静花と菜々子はそう述べたが、何故か引きつった笑いを浮かべていた。
『真夏の怪談inヴェガ』と銘打たれたこのイベントは、ラウンジに集まって怪談話をするというものであったが、物好きな少女、女性達によって次々と奇々怪々な会話が展開されていた。
「はーあ、残念。みんなもうちょっと驚くと思ったんだけどなぁ。演出もバッチリだったと思ったのにぃ」
電気がついて明るくなったラウンジで、話し終わったその子が残念そうに肩をすくめる。
「みんな甘いなぁ。それじゃあ次は、私の番だね」
けさみが得意満面な笑みを浮かべながら、しっかりと座りなおした。
すると突然、ラウンジの電気が消え真っ暗になる。
「きゃー!!」
愛はさらに抱きつく力を強めた。
「ぐ……ぐるぢい……」
つばさは声にならない悲鳴をあげ、目を回す。
「や、やだ……なんでなんにもみえないの……?」
「トンネル、じゃないですか?」
さとみの言葉に、風音が答えた。
「これじゃあ……スケッチはちょっと無理ですね」
真美は鉛筆を置くと、そのまま目を閉じ虚空を見つめた。
「むにゃむにゃ……」
その真美の肩に、眠りこんでしまった秋子がよりかかってくる。
「ちょっと、なんで真っ暗になるわけ?信じらんなーい!」
けさみはこの事態が予想外だったらしく、ムスッとしながら月明かりがでるのを待った。
しばらくラウンジに沈黙が流れる。
やがてヴェガはトンネルを抜け出た。
「あっ!!」
真美がハッと目を見開き、顔をあげる。
「綺麗……」
さとみもうっとりしながらその光景を眺める。
いやさとみだけではない。秋子を除く、ラウンジにいる全員がこの光景に魅入った。
満天の星空のもと、流れ星のシャワーが幾重にもなって空全体に降り注いでいた。
煌びやかなその光景はとてもロマンティックで、おもわず息を飲んでしまう。
「こんな時は、歌でも歌うのだ☆」
みらいが拳を握り締めながら立ちあがった。
「はいこれ、ハンディカラオケセット」
「みらいサンは、ゲーノージンですから、特別プライスで貸してあげマース。ゲーノージンは歯が命デース♪」
小麦とエレナはいつもの調子で商売を始める。
「あっ、それ私が借りるわ!!」
「えっ!?あっ、ちょ、ちょっと!!」
「あの、私の怪談話は……」
「それじゃ1番、成田その子うったいまーす!!」
唖然とするけさみをよそに、ハンディカラオケを強奪したその子が美しい流星と甘いメロディをBGMに歌いはじめた。
こうして、ヴェガの夜は更けていくのであった。
(おわり)