〜出会い。始まりの予感〜


7/31。私は稚内に到着した。
明日からたった一度だけ運行される「日本縦断特急ヴェガ」の乗務員として働くことになったのです。
しかもチーフウエイトレスなんて立派な役についちゃってるしね。今日はこれから明日から共に乗務する人たちと
顔合わせをするの。明日からの15日間、夢の崎までの長い乗務が始まるのでした。

次の日。8/1。稚内駅。特急ヴェガが出発する日。
その子「けさみちゃん!早く早く、そこのテーブルクロスを敷いて!発車に間に合わなくなっちゃう!!」
けさみ「は、はい、その子お姉ちゃん!」
あわただしく食堂車開店の準備に追われる二人。この食堂車で乗務するのは
私、成田その子と私より2つ年下の羽田けさみちゃん。そして家石雷爆料理長の3人。
私やけさみちゃんはアルバイト。料理長はなにやら某豪華特急のシェフだったり何処かの諜報員だったり
なんかナゾな経歴を持ってるそうなんだけど・・・そんなコト恐くて聞けないよぉ。
・・・・・
・・・・・
その子「いらっしゃいませぇ。お食事ですか?ではこちらのお席へどうぞ♪」
稚内駅を出発してしばらくするとお客さんがぞろぞろとやってきて食堂車は大忙し。
ぐるぐる今日も(?)目が廻る〜みたいなカンジで大勢のお客さまをさばく。
ふ〜、やっぱ日本縦断特急の名前は伊達じゃないみたいね。乗客の数も伊達じゃなさそうだし・・・。
・・・でも、さっきから同じ男の子が食堂車車輌を行ったり来たりしてるのよねぇ。なにをしてるのかな??
そして列車は今日の終着駅である札幌駅に到着。でも私たちは夜24時までお仕事があるのよねぇ。
まぁ今日はお仕事初日だし・・・。頑張るとしましょう!うん。

8/2。札幌駅。
朝8時前。食堂車の営業時間前のお掃除。
ちなみにこの特急ヴェガの売店車と食堂車の営業時間は朝の8時から夜24時まで。
9号車の娯楽車は24時間営業してるの。・・・でも娯楽車の担当はしのぶちゃんだけのような・・・。
・・・まぁ気にしないでおこおっと。・・・というよりそのほうがいいんだよね。そうだよね。
列車の発車時刻は16時だからそれまではけさみちゃんと交代でお仕事。
・・・う〜ん、やっぱ札幌は観光客として一度来てみたいなぁ。そう思いながらホームで休憩してると、
女の子「あー、遅れちゃう遅れちゃう〜っ」突進してくる女の子。
その子「え?・・・あ、あぁ!きゃぁぁぁ」声がするほうに振り向くがもう遅かった。
どっし〜んっ。見事にぶつかり二人ともしりもちをつく。
その子「いたたた・・・。だ、大丈夫??」
女の子「・・・いたたた・・・うん、平気・・・でもごめんなさい・・・列車に乗り遅れそうだったから・・・」
列車?ちなみに今このホームに止まってるのはヴェガだけ。しかもまだ時間は12時。まだ発車までは4時間ある。
その子「あれ?・・・あなた特急ヴェガに乗るの?」
女の子「そうだよ。あれ?お姉さんはヴェガの人?」
その子「そうだよ。ヴェガの食堂車で働いてるの。私、成田その子、よろしくね。」
女の子「へぇ〜、そうなんだ。あ、私、七尾つばさ。つばさって呼んでね。その子さん。」
その子「つばさちゃんね。つばさちゃんはなにをそんなに急いでたの?まだ発車まで時間あるよ?」
つばさ「え?ウソ??・・あれ??私の時計が壊れるみたい・・。」
その子「きっと電池が切れてるだけね。そだ、つばさちゃんはどこまで行くの?」
つばさ「東京まで行くんだよ。お兄ちゃんの結婚式に行くの。」
その子「そっか。なら東京までよろしくね。つばさちゃん。」
つばさ「こちらこそ。よろしくお願いします。なら時間あるなら時計直しに行ってきます。それじゃ、その子さん。」
その子「じゃあね、つばさちゃん、また後でね。」
大きく手を振りながら去っていくつばさちゃん。中学生ぐらいかな?でも一人旅なんてすごいなぁ・・・。
そのあと、売店で働く根岸ちひろさんにこのコトを話したら
ちひろ「ほかにもぉ〜、桜井真美さんや山口星奈さんも一人旅で列車に乗ってるそうですよぉ〜。」
と、教えてくれた。一度会ってお話してみたいな。
そして列車は次の停車駅、青森目指して走るのでした。

8/3。青森駅。
お昼前は仕事はお休みなので外を歩いてみようと街を歩く。・・・これが有名なラブリッジか・・・。
・・・一人じゃ歩きたくないよねココって・・・。
ふと廻りを見ると桜井真美ちゃんの姿を見つける。
その子「真美ちゃーん。」
真美「え?あ、その子さん。こんにちは。」ぺこりとおじぎする真美ちゃん。
ふと、真美ちゃんが持ってるスケブに目をやる。
その子「わぁぁ、真美ちゃんって絵がうまいんだねぇ〜。」
真美「え・・、そんな恥ずかしいです・・・。」
その子「それだけうまかったら画家さんになれるよ。うんうん。」
真美「実は・・・父を真似して絵を描いてるだけです。そんな画家なんて呼べるモノきゃないですよ・・・。」
その子「お父さんは画家なの?真美ちゃん。」
真美「いえ、趣味で描いてるだけです・・。でも・・私・・画家になれたらなぁ・・って思ったりもします・・。」
その子「画家になるっ、それが真美ちゃんの夢なんだね。すっごく良い夢だと思うよ。」
真美「はい、ありがとうございます。ちょっとだけ勇気がでました。」
その子「あっ、もうこんな時間。列車に戻らないと。それじゃ、真美ちゃんまた列車でね。じゃあね。」
真美「はい。さようなら、その子さん。」
小走りに列車に向かう私を軽く手を振りながら見送る真美ちゃん。
・・・夢・・・か・・・。
そして次の仙台へ向かう車中で、ジャンボパフェを平らげる娘やドレッシーな姿のつばさちゃんが
食堂車でお食事をしていったの。でも相手の男の子が同じ人だったようだけど・・・。
でも、みなさん毎度、食堂車をご利用いただき誠にありがとうございます♪

8/4。仙台駅。
今日は一日中、仙台に停車。でも今日はずっとお仕事。昨日ちょっと遅刻しちゃったから
雷爆料理長が”遅刻のバツとして今日1日中ずっと仕事しろ”だって・・・。もぅウチの料理長、厳しいんだもん・・。
でも料理長はずっと働いてるような・・・。こんなこと思ってる最中も厨房にいるみたいだし・・・。
やっぱ気にしちゃダメみたいだね・・。
”ガー”と食堂車の自動ドアが開く。
その子「いらっしゃいませ。お食事ですか?」
客(男)「あ、はい。」
その子「では、こちらのお席へどうぞ。」
ちなみに今きた男のお客さんは昨日つばさちゃんや星奈ちゃんといっしょに居た人。
あとで、ちひろさんに聞いたらジャンボパフェを食べきった娘が山口星奈ちゃんだって教えてもらったし。
でもせっかく仙台に来てるのにわざわざ食堂車で食事なんて・・・。ちょっと変わった人だね。
・・・でも、その後に青森から乗ってきた松浦愛ちゃんも食堂車にやってきた。
名物料理を食べようとして商店街を歩いてたらガイドブックを落として、またヴェガで買おうと戻ってきたら
売り切れていて、おまけにまた商店街に戻ろうとしたら 1日乗車券を落としたらしくて食堂車にやってきたそうなの。
でも、そのとき料理長がちょうど仕込んでいた牛タンを愛ちゃんのために振舞ってくれたのでした。
良かったね愛ちゃん。しかもタダでご馳走するなんて・・・料理長もすごいなぁ。
雷爆「コラ!成田!さっさとお客様のとこに料理を運ばんか!」
厨房の奥から料理長が私を呼ぶ。
その子「あ、はーい。今行きます〜。」

8/5。仙台駅を8:00に定刻発車。
東京駅には14:00着。それまではけさみちゃんといっしょにお仕事。やっぱ2人でお仕事してたほうが楽しいな。
そんな食堂車も忙しい最中、あの男の子が食堂車にやってきた。
その子「いらっしゃいませぇ。お食事ですか?」
男の子「あ、はい。」
その子「では、こちらのお席へどうぞ。」
今日は食堂車の奥が予約席になっていて男の子の席は厨房とその予約席の間。
男の子の席を挟んで私とけさみちゃんが走り回る。そして予約席に配膳しようとスープを持って歩いてた時に・・・。
その子「きゃっ。」ガシャ〜ンっ!!席を立った男の子にぶつかっちゃったの。
男の子「あっちぃ!!な、なんだっ!!」
その子「も、申し訳ありませんっ!!」
急いで布巾を山のように持って走って男の子にこぼれたスープをふき取る。
その子「ごめんなさい。配膳中のスープをお客さまにこぼしてしまって。
あの・・・・今回のお食事代と服のクリーニング代は私が弁償しますので。ホントにすみませんでした。」
必死に男の子に謝る。
男の子「いえ・・・別にいいですよ。列車は揺れるものですし・・・。」
その子「そ、そんな、そういうわけにはいきません。私の不注意なんですから。」
悪いのは私なんだし、それに相手が・・・あなただし・・・。声にならない声でそんなコトをつぶやいた。
結局、私が食事代とクリーニング代を弁償することで決着。
はぁ〜。まさかこんな失敗しちゃうなんて・・・・気をつけようっと。
がっくり肩を落としているとふと呼ぶ声が、
つばさ「やっほ〜。その子さん、こんにちは。」
その子「あっ、つばさちゃん。いらっしゃいませ、お食事ですか?」
つばさ「うん・・。私と真美さんが次で降りちゃうからみんなで揃ってゴハン食べようってお兄ちゃんが・・・」
その子「そうだったね。次は東京だものね。うん、じゃ、すぐ席を用意するね。」
すたすたとその場を離れる。ふと、つばさちゃんの方に振り返ると、つばさちゃんはちょっと寂しそうな顔をしてた。
・・・・せっかく仲良くなったみんなと別れるのはイヤなんだろうなぁ・・・せっかく友達になれたのに。
もう逢えないと思うとね・・・。・・・ううん。そんなコトない。何処かで絶対に逢えるよね。さ、仕事仕事♪
その子「つばさちゃん御一行様。おまたせしました。こちらのお席にどうぞ。」
・・・私もこのお仕事が終わったとき・・・どう思うのかな・・・なんてね、てへ。

8/6。東京駅。
朝から駅前は大パニック。それもそのはず、あのアイドルの飯山みらいちゃんがこの特急ヴェガの一日車掌として
乗ってくるってコトなの。・・・う〜ん、アイドルかぁ・・・。やっぱ憧れちゃうなぁ・・・。
けさみ「その子お姉ちゃん♪どぉしたんです?ぼーっとしちゃって??」
その子「あ、けさみちゃん。まだ休憩時間じゃなかったの?」
けさみ「外のイベントを見てきたんですが人だらけだったんでちょっと引き返してきたんです」
その子「ふ〜ん、そうなの。そんなに人が来てるんだ・・。その人達みんなヴェガに乗り込んできたりしてね。」
けさみ「みらいちゃんの追っかけさんですか?そうなれば食堂車も大忙しですね。」
その子「あはは、そうそう。こっちのお仕事も頑張らないといけないね。」
そんな雑談に沸いていると奥から
料理長「こら!成田に羽田!サボってないでちゃんと仕事しろ!!」
その子&けさみ「はーい。ごめんなさい〜。」
そうこうするうちに列車は発車時刻になり出発。
昨日、真美ちゃんとつばさちゃんが降りちゃったし、また新しい人でも乗ってくるのかな??
発車からしばらくして美弥車掌長さんが私たちとトコにやってくる。
澪「みなさんお揃いですか?ちょっとお話が・・」
・・・・・
・・・・・
澪「・・・と言う訳なのでもしなにか問題があったらすぐに知らせてください。では。」
美弥さんはすぐに戻っていってしまった。さっきの話の内容としては、
東京から1日車掌として乗ってきた飯山みらいちゃんがTVの取材とかの関係で車内で半ばドッキリみたいなコトを
やってるそうなので、もしお客様にご迷惑になるようなコトが発生したならすぐに知らせてください、とのこと。
すでに乗客の方々に迷惑をかけてるとも言ってった。・・・・アイドル・・・・か・・・・。
半ばみらいちゃんのコトを気にしつつ、食堂車に星奈ちゃんがあの男の子と食事にやってきたので
その子「いらっしゃいませ。お食事でしょうか?」
星奈「うん、その子さん。」
その子「では、こちらのお席にどうぞ」
席に座ってオーダーをとる。その子「はい。かしこ参りました。」
・・・・・
その子「おまたせしました〜。ではゆっくりしていってくださいね。」
テーブルにコーヒーとオレンジジュースを置いてまた仕事に戻る。っとしばらくしたら、
星奈「・・・・はにゃ〜〜〜〜ん・・・・」・・・ドタッ・・・。急に星奈ちゃんが倒れる。
あわてて星奈ちゃんのもとに駆け寄る。
その子「だ、大丈夫!!??星奈ちゃん!しっかりして!!」
・・・なんで急に倒れちゃったんだろう・・・。・・・ん??・・・あれ??・・・ひょっとして・・・
・・・星奈ちゃんが飲んだと思われるジュースをおそるおそる見てみる・・・。・・・ジュースだよね?
・・・今度はにおいをかいでみる・・・。その子「・・・!!」
男の子「ど、どうしたんですか!!?」
その子「・・・・ごめんなさい・・・これ・・・お酒です・・・。オレンジジュースをオレンジリキュールと間違えたみたいです。
・・・星奈ちゃんに悪い事しちゃいました。ホントに申し訳ありません!」
ぺこぺこと男の子に必死に謝る。
男の子「・・い、いや、自分に謝っても・・・でも星奈は無事かな?」
二人同時に星奈ちゃんのほうを向く。
真っ赤な顔をしてる・・・。しばらくしたら
星奈「・・・ぷぷぷぷ・・・真夏の秋葉原・・人が群がってムレムレにょぉ〜〜・・」
などとナゾなコトを発したかと思うと、すーすー寝息を立てていたのでした・・。
その子「・・・なんか寝ちゃったみたいだね・・・。ゴメン、星奈ちゃん私がお部屋まで送っていくね。」
男の子「え?・・で、でも・・・」
その子「これは最初私が間違ちゃったからこうなっちゃったコトだし、ね?」
そういって、星奈ちゃんをお部屋まで運んだの。でも寝言なのかなんなのかずっと
星奈「・・・とろける暑さで秋葉原・・・どろりまとわりつく汗・・・」
なんてずっと歌ってたの。・・・いったい何処で覚えたのやら・・・。そうしてたら列車は松本に到着。
星奈ちゃんはここで降りるって行ってたけど・・・これじゃムリだね。明日起こしてあげようっと。

8/7。松本駅。
その子「う〜ん、今日もいい天気ねぇ〜。」
みらい「あっ、その子さん。おはようございます。」
その子「あっ、みらいちゃん。おはよう。昨日は眠れた?」
みらい「はい。ぐっすり。あ、あとで朝食を取りに食堂車に行きますね。」
その子「うん。じゃ待ってるね。バイバーイ」
昨日から1日車掌をしてるみらいちゃん。でも今日も明日もやってたら”1日車掌”じゃない気がするのは気のせい?
まぁ、それはおいといて。今日も頑張って一日車掌をやってね。みらいちゃん。
昨日、あんなに落ち込んでたのがウソみたいだもんね。そう昨日の夜23時過ぎに・・・、
・・・・・
・・・・・
その子「こんな時間になるとお客さんもあまり来ないな〜。」
ガーッ。食堂車のドアが開く。
その子「あ、いらっしゃいませ。お食事ですか?」
みらい「あっ・・・はい・・・。」
その子「あれ?もしかして飯山みらいちゃん?」
みらい「・・・そうです・・・名前・・覚えててくれたんですね、その子さん。」
その子「・・・でも、なんか挨拶したときと・・なんていうか・・雰囲気が違うよね・・・」
みらい「はぁ・・・よく言われます・・・」
その子「ゴ、ごめんなさいっ。そんなつもりでいったんじゃないの」
必死に両手を合わせてみらいちゃんに謝る。
それもそのはず、列車内で1日車掌のアイドル「飯山みらい」は破天荒なイメージの女の子。
今のみらいちゃんは、おとなしくてとてもそんな微塵もみせないごくごく可愛らしい女の子なのだった。
みらい「いえ、いいんです。自分でちゃんと判ってますから。」
その子「あ、お食事に来たんだよね。ごめんなさい話し込んじゃって。ではこちらへ。」
みらいちゃんを席へ案内し、注文のコーヒーを運ぶ。
そして閉店時間。・・・あれ?まだみらいちゃんが席に座ってる?すぐに近寄って
その子「みらいちゃん。ごめんなさい。もうそろそろ閉店時間なの」
みらい「・・・そうですか・・・。・・・その子さん、もうちょっと居させてもらえませんか?」
ちょっとあっけにとられたけど今日は私しか居ないし
その子「うん。でもちょっとお掃除するからそれぐらいまでなら」
お掃除も片付けも終わり部屋に戻ろうと、みらいちゃんに、
その子「みらいちゃん。私お部屋に戻るけど、まだここに居る?」
と聞いたところ、突然
みらい「その子さん!・・・あの・・ちょっと相談にのってもらえませんか・・。」
・・・ちょっと驚いたけど別に断る理由もないので引き受ける。
みらいちゃんの相談事は非常にフクザツなことだったけど、破天荒なアイドルと普段の自分とのギャップに
自分自身が絶えられなくなったということ、アイドルを辞めたくとも今まで自分を応援してくれたファンの
みんなの期待を裏切れないジレンマなどを坦々と話してくれた。
その子「・・・みらいちゃん。私も少しお話してもいい??」
みらい「え?あ、はい。どうぞ。」
その子「私もね、芸能人に憧れてたの。しかも芸能学校にも通ってたの。・・・でもその夢もかなわぬまま
終わってちゃったの。今考えると夢のままで終わってたほうがよかったのかなぁって。」
っとみらいちゃんが突然立ち上がり
みらい「そ、そんなコトありません!自分の夢って大切だと思うんです。叶わなかったからって諦めるのはいけません。
・・・私もアイドルをやりたかったわけじゃない・・・。でも私の夢を叶わせるためにアイドルの私を応援してくれる人達の
夢を壊すコトになりそうな気がして・・・。」
その子「・・・やさしんだ。みらいちゃんって。」
みらい「そんなコトありません。皆さんの期待を裏切りたくないんです。」
その子「・・・でもそれでいいの?」
みらい「・・・・・。」
その子「夢を夢のまま終わらせた私が言うことじゃないかも知れないけど・・・自分は大事だよ、きっと。」
みらい「・・・・。」
その子「私、不器用だし、なにもとりえもないし。でも、みらいちゃんは頑張り屋さんだからきっと大丈夫。
ファンの人たちもみらいちゃんの本当の魅力を判ってくれるよ。うわべだけじゃない内面からの自分を。」
みらい「・・・内面からの自分・・・。・・・わかりました、ちょっとずつ頑張ってみますね。」
その子「うん。その意気だよ。みらいちゃん。」
みらい「・・・ありがとうございました。相談に載ってくれて。ちょっと気持ちが楽になりました。」
その子「じゃ、明日からも頑張ってね、みらいちゃん。」
・・・・・
・・・・・
もう大丈夫みたいだね。よし、私もみらいちゃんに負けないように頑張ろうかな。それじゃ食堂車営業しま〜す。

8/8。金沢駅。
さとみ「おはようございます。その子さん。」
食堂車の脇にいた女の子がぺこりと挨拶をする。
その子「あ、えっと・・・千歳・・さとみちゃんだったよね?おはようございます。」
私もぺこりと挨拶する。
さとみ「わぁ、もう名前覚えてくれたんですね。」
ちなみにさとみちゃんは東京から乗車してきた女の子。今まで会った子達をちょっと思い出しちゃった。
その子「このヴェガの道中でもいろんな人に出会ってきたの。ちょっとお話しましょっか?」
さとみ「あ、はい。じゃあそこの席に座ってますね。」
その子「だぁ〜めっ。それは私のお仕事なんだからね♪さ、千歳様。こちらへどうぞ。」
さとみ「は〜い。ふふふふふ。」
今日も明るい声と笑い声が食堂車にこだまします。ヴェガが走り出してもう7日。
稚内から15日かけての夢の崎駅までの旅。東京から乗ってきた千歳さとみちゃんに今までのコトをお話しようかな。
まずは稚内から乗ってきた桜井真美ちゃんと山口星奈ちゃんのお話。札幌から乗ってきた七尾つばさちゃんのお話。
今も乗車してて青森から乗ってきた愛ちゃんの話、仙台から乗ってきたエレナと伊東小麦ちゃんの話などなど。
さとみ「ふぅ〜ん、そぉいえばあの人も稚内から乗ってるって言ってたなぁ・・・。」
その子「?・・・あ、ひょっとしてよく車内歩いてるあの男の人?」
さとみ「そうそう。このあいだ、お話してたらボクも稚内から乗ってるって言ってたのよ。」
その子「うん。毎日のように食堂車に来てくれてるよ。その人。」
さとみ「ずっと車内を歩いてるなんて・・・やっぱ退屈なのかなぁ・・・」
その子「私はずっとここで働いてるし・・・判んないな・・・。あっ、そろそろ仕事しないと、それじゃね、さとみちゃん。」
さとみ「はい。それじゃ頑張ってくださいね。さよなら。」
そして夜になり列車が名古屋に向けて金沢駅を出発。
・・・・・
・・・・・
けさみ「いらっしゃいませ〜。こちらのお席へどうぞ。」
その子「いらっしゃいませぇ〜。お食事ですか?」
さすがに夜というだけあって大忙しの食堂車。けさみちゃんとてんてこまい。
その日は列車の発車時刻も遅かったせいか22時まで食堂車は満員御礼。
片付けも終わりやっと一息つけるかと思ったら、また食堂車のドアが開く。あの男の子だ。
その子「いらっしゃいませぇ。お食事ですか?」
男の子「あ、はい。」
その子「では、こちらのお席にどうぞ。」
ふと、この人のコトが気になったのでちょっと質問をして見ることに。
その子「・・・あの、どちらまでいかれるんですか?」
「え?どうしてですか?」
「いえ、良くお見かけするなぁっと思ったので。」
「一応、終点までですけど・・・あ、ボクは三岐貴道っていいます。」
その子「三岐さんですね。私は成田その子です。あ、お食事しに来たんですよね。ではこちらへ。」
そして注文の品を運んで彼の食事が終わるのを見届ける。
ついつい、はずみで「明日も来てくださいね。お待ちしてますね。」なんて言っちゃったし・・・。
でも明日は名古屋に1日中停車だから来てくれたほうが嬉しいかな・・。

8/9。名古屋駅。
今日はお昼すぎからのお仕事。さっきから料理長は奥で味噌カツを一生懸命食べてるし。
明日からきしめんでも出すか、なんて言ってるし。・・・小倉マーガリンだけはやめてね料理長・・・。
さすがに1日停車となると人もあまりこない。14時にけさみちゃんと交代してからお客さん1人も来てないもの。
その子「はぁ〜〜・・・。ヒマだなぁ・・・。」
そんなコトをボヤいていたら食堂車のドアが開いた。
その子「いらっしゃいませぇ〜。・・あ、三岐さん。お食事ですか?」
貴道「あ、はい。」
その子「今日も来てくれるなんて・・・でも今日はずっと止まってるからホームしか見えないよ。」
貴道「いや、いいんだ俺、食堂車好きだし・・・それに・・・」
その子「ホント?じゃ、これから毎日でも来てくれますか??」
目を輝かせてといてみた。彼はちょっと照れながら、
貴道「うん。毎日くるね。その子さん」
その子「本日も食堂車のご利用ありがとうございます。こちらのお席へどうぞ〜。」
そいで貴道さんの注文を持っていき、しばらくお掃除して今日の私のお仕事は終了。
さて私も名古屋の名物食べにいってこようかな?

8/10。名古屋駅を定刻通り出発。
発車して間もない頃いきなり車内が大騒ぎ。なにやらネズミが出たとか出ないとか。
しかも車掌の美弥さんが大騒ぎの張本人だから車内はパニック。
そんな喧騒を避けるかのように朝早くから北上緑さんが食堂車にやってきた。
その子「いらっしゃいませ。北上さん。お食事ですか?」
緑「・・・えぇ・・・車内が騒がしいから・・。」
その子「では、こちらへどうぞ。」
コーヒーを運び、私も片付けをしてると目の前をなにか小さい物体が横切ったの。
「?」っと思った矢先にけさみちゃんが
けさみ「きゃぁぁ〜〜!ね、ネズミぃ〜!!」と大絶句。
その子「えぇ!!??け、けさみちゃん!捕まえて捕まえて!!」
けさみちゃんと二人でなんとか捕まえようとするが相手はすばしっこくてなかなか捕まえられない。
その子「待ちなさい!きゃっ!あぶない北上さん!!」
突然追いかけてたネズミが緑ちゃんめがけて飛び掛ったの。
緑「・・・?・・・!!」
緑ちゃんが声に気付いた瞬間、緑ちゃんの手が動いてパシ〜ンっと音がしたの。
その子「きゃっ!・・・・北上さん??・・・」
緑「・・・ネズミじゃない・・・リスよ。この子・・・。」
その子「え?・・・りす?どれどれ?」
緑ちゃんが差し出した先には確かにリスの姿。でもなんではんてんみたいなの着てるんだろう・・・。
しかも緑ちゃんがハシで両袖を突き刺したのでハシに吊り下げられたみたいになってたのだった。
けさみ「あはは。かわいい♪」
捕まえたのはいいとしてもこの後どうしようか考えていたら
女の子「ピノ〜〜。どこいっちゃったの〜〜??ピノ〜〜。」
女の子が一人食堂車にやってきた。
その子「いらっしゃいませ。お食事ですか?」
女の子「い、いえ・・。・・あの・・リスが迷い込んできませんでしたか?」
その子「リス?あぁ食堂車に居たからさっき捕まえたトコなの。」
女の子「そうなんですか・・。あっ!!」
その子「え?きゃっ」
女の子「ピノ!!」
私の肩になにかが乗ったの。それはさっきのリス。ピノって名前みたい。
女の子「ごめんなさい。ご迷惑をおかけして・・。あ、私、岩泉風音と言います。」
その子「風音ちゃんね。私は成田その子。ここのウェイトレスしてるの。よろしくね。この子はピノっていうの?」
風音「はい。いたずらっ子なのがタマにきずなんですけどね。」
その子「見つかってよかったね。あっ捕まえたのはあそこに座ってる北上さんよ。」
奥に居る緑ちゃんを指差す。
風音「あ、そうなんですか。じゃ一言かけておきます。」
すたすたと風音ちゃんが緑ちゃんの方に歩き出す。
風音「あの、この子がご迷惑をかけたみたいでごめんなさい。」
緑「・・・別に。気にしてないから・・・。それじゃ。」
風音「あ、待ってくださ・・」
すたすたとその場を去ってしまった緑ちゃん。
ちなみに緑ちゃんは金沢から乗ってきた女の子。同じ金沢から乗り込んだもう一人の女の子は
加古川秋子ちゃんって娘もいるけど今日はまだ食堂車に来てないみたい。
風音「・・・・・。」
その子「?どぉしたの?風音ちゃん?」
風音「いえ・・・。気を悪くしちゃったかなって・・・。」
その子「あっ、緑ちゃんのコト?大丈夫。彼女いっつもあんなカンジだもん。そういつも・・。」
風音「そうなんですか。ちょっと安心しました・・。あ、私戻りますね。それじゃぁ。」
その子「ありがとうございました〜。」
・・・・・
雷爆「おぉ〜い。ちょっと二人ともいいかぁ?」
その子「あ、はい〜。」
・・・・・
雷爆「・・っということだ。少しはラクになるぞぉ。はっはっはっ。」
その子「そうですね。どんな娘が来るんでしょう。」
チーフの話だと明日の京都出発の時からアルバイトの娘が一人乗車してくるって話。
けさみ「その子お姉ちゃん。どんな人が来るんでしょうねぇ。」
その子「さぁ〜。でも私たちより年上って話だもんね。」
そんな話でヒマな時間を過ごしていたら緑ちゃんがまた食堂車にやってきた。
その子「あ、北上さん。いらっしゃいませ。お食事ですか?」
緑「・・・いえ・・・。ちょっと座っててもいいかしら?」
その子「?はい、いいですよ。ではこちらに。」
どぉしたんだろう?なにか心なしか落ち着きがないみたいだし・・・。気のせいかな?
また食堂車のドアが開く。
その子「あ、いらっしゃ・・・あれ??」
ドアの先には誰も居ない・・。っというより先から走ってくる影があった。風音ちゃんだ。
風音「はぁはぁ。その子さん。ピノきませんでした?」
その子「え?ピノちゃん?う〜ん・・見てないけど?」
風音「そうですか。あの子ったら北上さんになついちゃったみたいで・・。」
その子「緑ちゃん?そこの奥に・・・あれ?」
さっきまで居たハズの緑ちゃんが居ない。・・・もしかして?
風音「またあの子ったら。その子さん、すみません。」
あはは・・。すごい子に見込まれちゃったもんだね。緑ちゃんって・・。
後で聞いたらなにやら一日中追い掛け回されてたってコトだった。

8/11。京都駅。
菜々子「今日からこの食堂車で働くことになった津山菜々子です。よろしくお願いします。」
その子&けさみ&ちひろ&しのぶ「こちらこそよろしくお願いします。」
今日から終点まで乗務してくれるコトになった菜々子ちゃん。年は21歳と私より2つ年上。でも彼女は
菜々子「私は一応年上になっちゃうけど菜々子ちゃんって呼んでくれていいから。ね?その子ちゃん。」
その子「うん。菜々子ちゃん。じゃ頑張りましょうね。」
・・・・
美弥「まもなく特急ヴェガ発車いたします。次の停車駅は大阪です。」
間もなくして列車は定刻通り発車。大阪駅を目指す。
その子「いらっしゃいませぇ〜。あ、三岐さん。お食事ですか?」
貴道「えぇ。その子さん。」
その子「はい。判りました。ではこちらへどうぞ。」
菜々子「・・・。ふ〜ん・・・なるほどねぇ〜・・。」
側から見ていた菜々子ちゃんがつぶやく。
その子「ありがとうございました〜。」
貴道さんを見送る私の背後に菜々子ちゃんが近付く。
菜々子「見てたよ。その子ちゃん。あんな子がお気に入りなのかな〜?」
その子「なななな、なにいってるの菜々子ちゃん!」
菜々子「照れない照れない。あ、そぉいえば今日の大阪停車中はその子ちゃんが当番だったよね?
私が代わってあげるから行っておいでよ。」
その子「えぇ?まだ仕事始めたばかりじゃない。ダメだよぉ」
菜々子「私のことは心配ご無用。ささ、早くしないと大阪に着いちゃうよ。」
その子「・・・もぅ、菜々子ちゃんってば・・・。・・・ありがとう・・・」
菜々子「気をつけていっておいで。チーフには私が言っておくからさ。」
美弥「まもなく大阪。大阪に到着致します。皆様お忘れ物などございませんようお降りのお支度をお願い致します。」
・・・そっか気付かれたんだね・・・今日までの11日間ずっと食堂車を利用してくれてる彼のコト・・・
やっぱり私も女の子だし彼のことは気になってるし・・・。そう思い切って・・・。
その瞬間、寝台車のドアが開いて彼がやってきた。このときがチャンスと声をかけてみた。

その子「あ、あの・・・」

<成田その子誕生日記念SS〜出会い。始まりの予感〜(終わり)>