多次元宇宙の旅
仮想宇宙旅行記そして宇宙文明論その後の妄想シリーズもいよいよこれで最後か?。今回は多分に希望的な考察に基づいています。
[1]航空機上で
うとうとしながら考えごとをしていた。宇宙には果ては無いが限りはあると言われている。これは地球の表面はどこまで行っても果ては無いが表面積には限りがある事で理解できる。そして重力は時空の歪みで発生すると言われている。これは水平に張った布に重りを置くと沈み込み、その回りにもっと小さな重りを置くと大きな重りの窪みに転がって行く事で理解できる。次元を落とせば何となく理解できるわけだ。
暗黒物質とは何か?。目に見える地上の構造物や動植物を普通の物質(バリオン)に例えるとする。一方で大気は透明で見えないが1平方センチあたり1Kgの重さがある。暗黒物質とはこのようなものではないのか?。ダークエネルギーは真空の空間のエネルギーと言われているが・・・。これは空地には何も無いが大地がある(土地には大きな価値がある)と言う事ではないか?。何も無い空間にも見えない大地のようなものが存在するのだろう。真空の空間に粒子と反粒子が出現して対消滅するのは、何も無い大地に雑草が生えては枯れて無くなるようなもの。
こんな事を考えながら今は航空機に搭乗しているのだったと思い出した。そして、この航空機はほとんど揺れない。ごく微細な振動は時々感じるが揺れは全くない。前の方にガラスの扉が見える。扉の先に行ってみると操縦席らしきものは無くパイロットもいない。最小限の計器表示があるだけで完全自動操縦で飛行している。そして揺れ防止の完璧な制御が行われている。そうだ、ここは地球では無かったのだった。
計器類の隣に色々な飲み物のサーバーがあったのでコーヒーを一杯紙コップに注いで席に戻った。客室乗務員もいないので全てセルフサービスだ。
ところで私は何故まだ生きているのか?。プロキシマ・ケンタウリ探査の旅から既に20年以上が経過しているのに。一時は穏やかに老衰して行ったのだが医学の進歩は恐ろしい。十数年前からiPS細胞による再生や飛躍的に性能が向上した人工臓器の移植によりぐんぐん健康を回復して行ったのだった。但し、脳だけは認知症予防はできるが再生医療が完成しておらず、残る手段は人工知能への全情報移植だけ。これはまだ技術が確立していない。でも他の臓器が若返ったため脳の老化にもブレーキがかかっているようだ。
[2]多次元宇宙
十数年前にチベットの山奥の洞窟が別世界へと続いているのが発見された。かつてチベットではシャンバラと言う理想の楽園の伝説があった。この別世界がシャンバラかと思われたが、実は別の惑星へと続くトンネルがあったのだった。
この宇宙は多次元世界であると言う説があり、3次元的に離れていても高次元では密接に接しているとの考えがある。2次元に置き換えると、巨大な高層建築に階段が無ければ各フロアは閉じた宇宙と同じで、すぐ近くであっても上下のフロアに行くことはできない。天井や床に小さな穴があればネズミやゴキブリは行き来できる。もっと大きな穴が開き階段ができれば人間も行き来できる。
こうした多次元宇宙論では4次元または5次元に拡張すると地球は32億光年先の兄弟惑星に接続していると言う予測があったのだ。但し、今の宇宙年齢時点での通過経路は分子程度なら通れる微細なものだろうと考えられていた。理論が不十分で現実を説明できていなかったようだ。
現状の多次元宇宙論では少なくとも90度ずつ異なる6方向に接続点がある可能性が高いとされている。なので別惑星へのトンネルは探せばもっとあるかも知れない。かつては大きなトンネルがあったとするとチベットの山も別世界から物質が流入してできたのかも知れないし、アトランティス大陸の消滅も別世界へと吸い込まれたのかも知れない。
3次元的に離れている空間を飛び越えての行き来(つまりは情報伝達)があると、従来の宇宙論は全面的な作り直しが必要になる。宇宙背景輻射の異常なまでの均一性を説明するため、小さな領域が一気に膨張したというインフレーション宇宙論が提唱されたが、光速を超えての情報伝達や物質移動が可能だったとするとインフレーションが無くても広範囲の均一化が可能になる。
現在の32億光年は宇宙初期にはもっと近い距離だったわけで、こういった特異な情報伝達の仕組みが宇宙の網目構造形成に大きく関わった可能性もある。
[3]32億光年先の別惑星
チベットの山奥から繋がる別惑星に探検隊が足を踏み入れて調査したのはほぼ10年前のこと。地球と同じような動植物や人間がいて、地球とはちょとだけ違った文明を築いていた。遺伝子を分析してみても地球の生物・人類と共通点が多い。と言うより全く同じだった。言語にも類似性がある。これは過去に頻繁な行き来があったとしか思えない。
しかしながら大陸の配置や地形は異なるし、国の配置も異なっている。相互に旅行することができれば世界が2倍の大きさになって楽しみは広がる。
また、この惑星には禁断の大陸があり、そこへは足を踏み入れることができない。ここには別の種族の人間(人間では無いかも)がいて独自の文明を築いている。但し全体が森林に覆われていて衛星からの観察でも全貌はわからない。政府機関レベルでは極秘で最低限の交流はあるらしいが・・・。なお、旅行のオプショナルツアーで、この大陸を近くの上空から見物することだけは可能である。
[4]別惑星観光旅行
やがて高度を下げ着陸態勢に入った。しかし地上に滑走路は見えない。ターミナルビル近くの駐機場に垂直に着陸した。そう言えばチベットから異次元トンネルを通って小さな町に着き、この航空機に乗って離陸する時も垂直に離陸したのだった。エンジンが90度回転するようだ。
異次元トンネルは非常に狭く、担架のようなものに乗ってレールの上を滑って移動した。大きな荷物は運べない。出口は仏教風の寺院の中にあったので、かつてはトンネルの両側を仏教関連のグループが管理していたのだろう。
行った先にも人間がいて文明が栄えていたから良いものの、無人の荒野だったら探検に必要な資材の運搬ができなかった。また、うかつにトンネルを拡張すると異次元トンネルの機能が失われる恐れがあるので、極力手を加えず原形を維持している。
到着したのは、この惑星を代表する大都市の一つだった。ここで近隣の郊外も含めて1週間ほど観光した。おおむね地球の大都市と同じだ。ビルが建ち並び郊外には住宅地が広がり、飲食店も多数あり競技場、公園、美術館、博物館なども点在する。大きな違いは公共交通機関だろうか。地下鉄があるのだが目的地まで何本か乗り換えるのではなく、車両1台毎に目的地が異なっている。走り出すと何回が編成を組み替えて乗り換えなく目的地に到着する。乗る車両を間違えると大変。
観光はしたものの世界地図が地球と全く異なっていて馴染みがないし、国名や歴史を聞かされてもちんぷんかんぷんで最後まで馴染めなかった。自然の景観は確かに今までに一度も見たことがないものばかりだった。いずれこの惑星の地理や歴史が周知されれば旅行先として人気を集めるに違いない。
この惑星は地球よりごく僅か大きいが重力はごく僅か小さい。地表に占める海の割合は地球より少ない6割である。地球と同様に月が見えるが模様が全然違うので異様だ。しかし、ここまで似ているのはどうしたことか。どういうレベルで連動が行われているのか興味深いところである。大気組成は全く同じであり、大気だけが通過できるマイクロトンネルが今でも多数存在する証しかも知れない。
[5]別々惑星調査旅行
実は数年前にそれまで交流が無かった禁断の大陸の住民からの要望で極秘裏に調査が行われていた。ある谷間の洞窟に入った人は別世界に入り込んで消失してしまうと言う。そこでドローン型の無人探査機を送り込んだところ人間と同様に行方不明になったが、磁気シールドを強化した数回目に帰還でき何と更に別の惑星に続いている事がわかった。この惑星には植物はあるが動物は見つからない。また移動中は強い磁場とともに上下左右の概念も目まぐるしく変化して生身の人間には耐えられなかった。くぐり抜けるためには冷凍睡眠が必要とされた。探査ドローンの位置制御はジャイロも役に立たず、周囲の壁を順次レーザー照射して加熱し、この位置を赤外線センサーで計測しつつ進んで行く。
冷凍睡眠状態の決死隊を送り込んで詳細に調査したところ、何とこの惑星で宇宙を観測すると宇宙年齢が我々の宇宙より32億年ほど若い事がわかった。今では非接触体温計のような装置で、惑星から空を計測すると宇宙年齢が即時に表示されるのだ。どうやら通過した多次元空間には時間軸もあったようだ。
今回、私が調査に加わったのは惑星現地に行き天文学的見地から考察するためである。今では冷凍睡眠状態にしなくとも一種の全身麻酔状態であれば移動に耐えることがわかっていて、安全性が確保され移動に関わるロスタイムもかなり減少している。
ベッドに横たわり全身麻酔を受け、次に目覚めたときは24時間後の別惑星その2だった。
簡単な掘っ立て小屋のような探検基地が作られていたが、効率的な物資運搬手段が無く調査はあまり進んでいない。周囲は一面の草原でゆるやかな起伏がある。マウンテンバイクだけは何とか運び込めて50Km先まで探索できたが代わり映えしないようだ。但し、50Km先の丘の上からは遠く(恐らく150Km以上先)に青黒い帯が見え、森林があるらしい。
ここに約1ヶ月滞在し天体観測や宇宙年齢の計測を行った。宇宙背景輻射の温度からは確かに宇宙年齢が地球よりも32億年若いと言う結果を得た。過去に行けるとなると時間のパラドックスに抵触するが、仮にここが32億年離れていれば我々が影響を及ぼしても32億年後(つまり現在)への影響でパラドックスの問題は発生しないはずだ。
遠方の銀河の分布も大雑把に調べたところ、地球が存在する銀河系周辺の50億光年あたりまでの分布パターンとは一致しなかった。どうやら、ここは我々の宇宙の32億年前ではなく別のマルチバース宇宙らしい。
滞在中にマウンテンバイクで150Km先の森林まで行ってみようという話が持ち上がった。森林は是非見てみたいので行きたいと言ったら認められ私も参加する事になった。しかし、草原には起伏が多くなかなかハードな旅となった。1日に50Km走りテントを張っての宿泊である。5人のチームで出発した。
2日走った所で川にぶつかり、渡れないので3日目は川に沿って下流へと走った。
3日目の夕方に森林の縁に到着。川は森林の中へ続いていた。4日目に森林内に入ってみたが鬱蒼としていて歩くのは困難。50mほど行って引き返した。植物のサンプルを採集したが、これも地球との類似性が高かった。但し、昆虫がいないせいか綺麗な花が咲いている場面には遭遇しなかった。
[6]宇宙の構成
宇宙には終焉が訪れると言われているが、高次元空間を通って若い宇宙へ移動できるのであれば、永久に今のような宇宙で暮らせることになる。
今の宇宙はビッグバンで始まり更に膨張を続けて希薄で空虚な終焉へ向かっているとされているが違うのではないだろうか。ビッグバンから終焉へと向かう全過程が時間をずらして宇宙群として同時に存在しており更に相互に往来可能なのではないか。
これは小さな星から生えて上空に伸びていく高層住宅のようなイメージで理解できるのかも知れない。一つ一つの部屋が一つの宇宙。地下で作られた直後は混沌としていて人は住めない。中層に達すると人が住めるようになり文明が栄える。超高層に進むと空気も薄くなり劣化して崩れて霧散する。隣の部屋との交流はできないが穴が開けば交流できる。下の階も穴が開けば移り住んで、次々に下の階に移っていけば永久に住み続けることが可能だ。これだと全体としては定常宇宙論が成立する。しかしこの無数の宇宙が生える星のような超宇宙にも寿命があったら同じこと。でもその外側には超々宇宙が存在して、これまた無限に続き大丈夫なのかも知れない。
一つの宇宙を星から生えてくる高層住宅の一つの部屋と例えたが、一つの宇宙(一つの部屋)も実は十分無限に広いし更にマルチバース宇宙として考えると全く際限が無い。どんな奇跡も宇宙が無限に存在するのなら必ずどこかの宇宙で実現されているとの考え方もあり、だとするとスターウォーズやハリーポッターの世界もどこかの宇宙で寸分違わず実現されていることになる。魔法なんか無いと思っても我々の宇宙とは物理法則が異なるマルチバース宇宙もあるのであり得るのだ。
何はともあれ、最初の別地球では今までに記憶も知識も無い場所で新鮮な旅行を楽しんだ。そして32億年前の惑星にも足を踏み入れた。そこは植物はあるが動物のいない世界だった。恐らくあのトンネルを動物は通過できなかったのだろう。但し今の地球と同種の微生物や植物は存在する。
トンネル出口の周辺は草原が続く丘陵地帯だった。これは何となく見覚えがある。そうだ前世はどうだったのだろうと想像を巡らした時に浮かんできた景色だ。あと森林の縁に草原や小川がある景色も記憶がある。これは後世か?。トンネルを通過するテレパシー的な信号が存在して作用したのか?。まだ本格的な乗り物を運び込めていないので広範囲の調査ができていないが、将来また来る機会があったらこの惑星の森の中やその先にも行ってみたいものだ。
[7]後日談
それから数年し数千人の地球人と兄弟惑星の住人が32億年前の惑星に移住した。その中には私の曾孫の1人も含まれている。当然のように主要な動物も連れて行った。この惑星は正真正銘の過去でもあり、子孫が暮らす未来でもある。
しかし最近、兄弟惑星で大地震があり通路が塞がれてしまったとのこと。もはや行き来はできなくなってしまったが、こうやって文明は続いて行くのであろう。
マルチバース宇宙論によれば宇宙は絶え間なく分岐して行く。右に行くか左に行くか迷ったら最後にはどちらかに行くが、マルチバース宇宙論では右に行く未来と左に行く未来に分岐する。
ビルから飛び降りたら大抵死ぬが、奇跡的に助かる可能性がゼロでなければマルチバース宇宙論では生き延びる宇宙が必ず派生する。死んだらそれでお終いだが生き残った宇宙では生き続けるわけで、本人としてはそちらの世界でのみ生き続ける。と言うことは、ほとんど全ての人は周りの人からは死んだと見えても別宇宙では生き残っているわけだ。事故、災害などで肉親が死んだとしても別宇宙では生き続けていると考えれば、たとえ会えなくても何と嬉しいことか。
と言うことで仮に私が死亡したとしても別宇宙では生き続けているわけだ。そこでの新たな旅行の旅行記を皆さんにお見せすることができないのは残念であるが・・・。
− 完 −
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