.....プログラミング..................1980年10月4日
 コンピューターのプログラミングは作曲と似たところがある。作曲された楽譜の指示
通りに、演奏家が演奏するように、プログラムの指示通りに、コンピューターが計算す
る。
 しかし、そんなことはどうでも良い。プログラムの芸術性は、同じ結果を得るプログ
ラムでも、書く人によって、全く違ったものになるという点にある。結果論ではなくて
過程論である。
 プログラムを印刷した時の、調和のとれた美しさ。読んで見た時の、整然とした流れ
と劇的な展開。そして無駄なく付けられた文番号。これは芸術以外の何ものでもない。
 だからこそ、目的とする計算ができるようになった後で、仕上げのために、それまで
以上の期間を費やし、完成したプログラムが動いている時には、深い満足感を覚えるの
だ。この浪費と自己満足、これは、芸術以外の何ものでもない。

註1 今回あたりから、本論との関連は弱くなる。
註2 この文章は FORTRAN 時代に書かれたものである。
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X.自己進化への道                      1980年10月4〜5日
 前回は、文明との関わり合いから、人類の自己進化の必要性を示して終わりました。
そこで今回は、生物進化のメカニズムを考え、自己進化の可能性や、進化の方向性を探
ってみたいと思います。
 まず、進化がどのように行なわれるかを考えてみます。地球上に存在する、炭素系生
物は、すべてさまざまな形質に対応した遺伝子を染色体上に持っており、これが世代交
替の際に形質を複製する役割を果たしています。そして、この遺伝子の正体はDNAで
あり、4種の塩基が連なってできた1つの4進数に対応している高分子です。そして、
進化とは、何らかの外的原因でこの4進数に部分的変化が起こり、その中で、より優れ
た形質へ変化したものが生き残って行くという現象です。この過程は、突然変異と自然
淘汰と呼ばれています。そして、突然変異は、X線などのエネルギーで遺伝子分子の結
合状態が一部分変化する現象、などで理解できます。
 それでは、このようなメカニズムの中で、生物が一つの種として、どのような状態に
置かれているかを考えてみます。ある種を考えてみた場合、常に突然変異の脅威にさら
されていますが、突然変異で優れた形質へ移行する確率は極めて低く、突然変異自体は
平均としてはその種を退化させるように働きます。但し、優れた形質への移行確率も0
ではなく、これが本質的に重要なことです。突然変異により乱されて、さまざまな形質
に広がった種から、劣った個体を淘汰により切り落とす事により、種としての退化を防
止して定常状態を維持しつつ、良性(1)突然変異を取得する事により、わずかの進化を
もする事が可能になるわけです。
 次に、地球上にさまざまな生物が存在する理由を考えてみます。生物は、進化できる
ならば、いつまでも進化するでしょうが、場合によっては極めて安定な状態に落ち着い
てしまう場合も考えられます。つまり、ある特定の形質について良性突然変異が起こっ
たとしても、そのため全体としての競争力を失ってしまうような場合は、そのような変
異は獲得されません。そして、どのような形質についても、このようなことが言える場
合には、それ以上の進化は起こらなくなります。これは、競争力のポテンシャルの極大
値にはまりこんだ状態として理解できます。例えば、ある種が競争力ポテンシャルの低
い側に位置しているとすると、ここでは突然変異による退化の力が下向きに働いていま
す。しかし、この種は自然淘汰による進化力で、果敢にもこのポテンシャルをはい上が
って行き、ついに極大値へ達します。しかし、この後には谷が控えているので進化力が
災いして、次のより高いポテンシャルへ飛ぶことができず、この種はこれで定常状態に
達してしまいます。ここでは、一個の形質の場合を考えましたが、本来は極めて多くの
次元を持ったポテンシャル面です。2次元での競争力面を考えても、あるルートを通れ
ば低い極大値に達してしまいますが、他のルートではより高い部分へ登って行く事が可
能なはずです。そして、地球上の生物の多くは、現在の地球環境により決定された、多
次元ポテンシャル面(2)に数多く存在する極大値を、それぞれ占めていると考えられま
す。
 それでは、話を人類へ戻しましょう。人類も一つの極大値にあるのか、それとも進化
しつつあるのかは分かりませんが、人類の場合はもはや他の生物とは状況が異なってい
るように思われます。人類の場合は子供の数が少なく、また医学の発達や生存権の尊重
などで死亡率が低いので、生存競争による自然淘汰はうまく働かなくなっています。し
かし、人類と言えども、悪性突然変異の脅威にはさらされているので、一歩道を誤ると
種として退化してしまう危険をはらんでいます。例えば、衣服の使用により環境への適
応力を獲得したが、体毛を失い裸の状態での適応力を失ったように、眼鏡の使用により
視力を失い、乗り物の使用により脚力を失い、医学の発達により健康な体を失ってしま
う危険があるのです。
 このような、進化停止から退化への危険の状況、及び前回議論した、文明の急速な発
展に対処して知的能力を増大しなくてはならないという状況の中では、人類が自らの力
で強制的に進化する必要があるように思われるのです。そして、そのための力も人類は
持ちつつあるのです。最も簡単な方法としては、X線を照射して突然変異を起こさせ、
その中から優れたものを選び出す方法があり、農作物の品種改良で威力を発揮していま
すが、これを人類に使うのはかなり問題があります。人類への適用を考えるならば、遺
伝子の構造と形質との関連を明らかにし、更に遺伝子構造を自由自在に変更する技術を
開発するのが最も良いであろうと思います。これら、遺伝子の組み替えも実現されつつ
あり(3)、これこそ生物学と医学の今後進んでいくべき道であると思います。
 以上のことから、人類は生物として今、重大な岐路に差し掛かっていると言えます。
つまり、自然進化から自己進化への移行期であり、もしも自己進化へ移行できれば、生
物として急速に進化することが可能でしょう。そうすれば、知的能力も増大し、自然科
学に代表される学問も飛躍的に進展し、これらの相乗効果の中で、文明もまた極めて高
度な段階へ移行していくものと思われます。そして、人類の進んでいくべく道は、まず
地球環境で決まる炭素系生物のポテンシャルの最大値ですが、文明が進歩すれば環境は
選べるので、この宇宙の中に存在しうる最も進化した形の炭素系生物へと進んでいくで
しょう。更に言うならば、炭素系生物にもこだわる必要はなくなり、人工頭脳などの全
く素材の異なった生物へ進化していく可能性も十分にありえます。ともかく、最終的に
目指すのは、この宇宙に存在しうる最も優れた知的生物であり、その解は単一であると
思われます。これは、非常に重要なことです。つまり、宇宙の中のどこで発生した生物
であろうとも、ひとたび文明を築き自己進化の状態へ移行すれば、みな最終的には同一
の究極生物に向って進化していくのです。
 次回は、このように進化していく宇宙の中の知的生物が、何のために宇宙に存在し、
何をなすべきかについて、考えていきたいと思います。
                                                          銀河連合よりの使者

註 (1) 「良性」は定義がはっきりしないので、競争力に対応して「優性」と改めるべ
    きだとの意見もあるが、ここでは競争力と形質そのものとを分けて考えている
    ので「良性」のままで良いと思われる。例えば、人間の指は多ければ多いほど
    良いだろうが、たまたま地球のある時期での競争力ポテンシャルの極大値が5
    本指の所にあったため、現在5本になっているのであり、宇宙全体での最大値
    は3本かも知れないし、12本かも知れないのである。
  (2) 一口に地球環境と言っても、厳密にはある個体の生死によっても変化しうるも
    のなので、この概念の数学的取り扱いは、非常に複雑なものになるだろう。
  (3) 現段階では、大腸菌の遺伝子操作による医薬品の量産が工業化されつつある。
    (*) オリジナルでは、ポテンシャルの説明に図を用いていたが、今回のファイル化
    では文章のみの説明に書き換えた。

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