.....株........................1980年9月15日
 株、それは資本主義世界の醍醐味である。株を買うことによって誰でも、あらゆる会
社を所有できる。
 株、そこには単純な論理しか存在しない。すなわち、儲るか損をするかのどちらかで
あり、儲けるためには、安い時に買い、高い時に売る。ただそれだけである。
 株、それは生きものである。ひとたび仕掛人によって命を与えられると、あたかも自
らの意志を持っているかのように暴れ回る。その原動力は、無数に存在する大衆投資家
の欲望であり、そこにはもはや論理など存在しない。上がるから買う、買うから上がる
の繰り返しである。そして、最後にババをひいた哀れな人々の墓標を残して、その株は
死を迎える。
 しかし、そのような株に手を出すのは、投資ではなく投機である。本当の投資とは、
企業としての実力はありながら、不運にも業績をあげられず、売りたたかれて誰も見向
きをしない株を拾い上げ、数年間の辛抱の後、ようやく企業努力が実り業績は向上し、
皆が先を争って買いに回った時、祝福を送って手放してやる、ということなのだ。
 どんなに下がった株もいつかは上がるし、どんなに上がった株もいつかは下がる。そ
れが、株の世界の掟である。そして、これはまた、苦境のどん底にある時に、黙々と努
力を続ける者には、いつの日にか必ず栄光の時が訪れるという、人生相場の哲学にも、
一脈通じているのだ。
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W.人類を眺めて                    1980年9月15日
 今回は、人間がどのような能力を持ち、どのように判断と行動をするかについて、考
えてみたいと思います。人間の能力と言っても、生まれつき備わっている能力と、成長
過程で獲得していくものとがあります。そこでまず、人間が成長するとともに、どのよ
うにして能力を身につけて行くかを概観してみましょう。
 人間は、生まれた時、その脳はすでに必要な細胞分裂を終えて、細胞数としては成人
と同程度になっているものと思われます。この段階では、それらの有機的な結び付き、
つまり判断や行動のための回路は、まだ構成されていないので、秩序ある思考や行動は
できません。但し、生物としての生存に必要な先天的回路はすでに組み込まれており、
これが自律神経と本能です。これらの先天的回路は、数十億年の生物進化の過程で獲得
されたものです。また、判断や行動の回路がまだ組まれていないと言っても、それらが
構成される領域の特性には個人差があり、これは後に生まれつきの性質や能力差となっ
て現われます。そして、その後3〜4年間の知覚と行動による外部との相互作用の中で
思考や行動のための回路の50%以上が出来上ります。これにより、社会に適応するた
めの種々の条件反射回路ができ、物の形と性質と音波の対応データつまり言語を蓄え、
この言語により論理的思考をするための情報検索システムの回路も作れます。また、歩
行や食事などの基本的な行動回路も小脳の中に作られて行きます。更に、その後数十年
で残りの回路が完成され、条件判断の論理回路、及びデータの入出力回路、複雑な行動
回路などの全てがそろいます。
 これら回路形成の方向付けをし、その後の行動衝動の原動力にもなるのは、人間に本
来備わっている、さまざまな「欲望」である事は確かでしょう。その中には、食欲、自
己防衛、性欲など、生物としての存続に必要なもの、競争や攻撃など進化の原動力にな
って来たものなどがあり、これらは本能的なものですが、知的生物である人間には、こ
の他に好奇心や秩序(低エントロピー)指向(1)があり、これらが成長とともに体系付け
られたものが、各個人に特有の「価値感」と呼ばれているものです。ともかく、これら
の基本的な欲望は、人間に生まれつき備わっているもので、生物進化の過程で獲得して
きものです。すなわち、これらの「欲望」を次々に獲得した生物が人間として生き残っ
たのです。
 それではここで、成長に伴う回路形成が、微視的にどのように行なわれるかを考えて
みます。例えばAからB、C、Dのいずれかに接続する回路がある時、幼少時の頭脳回
路では接点がふらついて、Aからの電流がB、C、Dに交互に流れています。しかし、
この中でBに流れた時が、ある欲求を満足させる結果が得られるとすると、C、Dへ接
続した場合はすぐに電流が止まって離れますが、Bへ接続した場合はには、強い電流が
流れて離れようとしても電気力で引きつけられて、離れにくくなります。そして、結果
としてBに接続する時間が長くなり、そうこうしているうちに、この接点周辺に生物特
有の老廃物(2)がたまり、回路が固定されます。このように考えると、人間が幼少時ほ
ど多くのものを覚えられることが理解できます(3)。人間の頭脳の成長と老化は、まさ
に表裏一体の現象で、同時進行する性格のものです。老化が進むと、自由接点の数が少
なくなりまた老廃物の生成・移動も不活発になるので、新たな回路を組むことができに
くくなるわけです。
 ここで、人間の頭脳回路の性格をもう一度考えてみましょう。人間の頭脳は、情報検
索システムになっていて、確定連想による論理思考をしており、時々、不確定連想によ
る「ひらめき」が起こります。そして、この他にもう一つの重要な機能として、本能に
よる「割り込み」があります。これは、不確定連想の一種ですが、腹が減った時や身の
危険が迫った時などに、確定連想を中断して、そちらへ注意が移る現象です。この機能
によって、人間は生き延びることができるのです。この他にも、人間の連想思考には、
さまざまな現象がありますが、その中に「感情の高まり」があります。これは、ふとし
たことから確定連想が増幅的なループに入り、一連の強いイメージ列が形成される現象
です。典型的なものとしては愛や憎しみの激情がありますが、これらの情念や情熱は結
果として強い欲求を増出するので、人間の活発な行動を引き起こす原動力になっている
と思われます。そしてこの現象はまた、新しい頭脳回路の形成にも、重要な役割を担っ
ています。そして、この現象もまた、生物進化の過程で獲得した一つの機能と言えるで
しょう。
 それでは次に、現在の人間の能力がどの程度であるかを考えてみましょう。現在の人
間は、かなり高度な思考をする事ができ、社会生活を営み文明を形成しています。そし
て、あまりにも巨大になった文明に適応するために、分業と協力という行動形式をも導
入しました。しかし、そのためにかえって、個人と文明との隔たりが拡大されてしまっ
たとも言えます。例えば、ある分野の研究者は自らが生活している社会の政治の事はも
ちろん、ごく近い分野の事すらわからないし、哲学者や宗教家は最新の科学的事実に基
づかない空論を論じ、また政治家は科学とも哲学とも離れた政治のための政治を行なっ
ています。このため、現代の文明は全体としてちぐはぐであり、事態のよく分からない
人々にとっては「しらけの時代」でしかないわけです。文明の有機的発展のためには、
全ての個人が全ての事を知っているべきなのですが、もはや世界一すぐれた人間であっ
てもそれが不可能であるほどに、文明は巨大化してしまっています。それどころか、最
低限必要な、初等教育の段階ですら「落ちこぼれ」の問題が生じているほどです。この
ような問題が生じたのは、人間の生物進化の速度を文明の発達速度が大きく追い抜いて
しまったためです。従って、この事態を解決するのは、人間が生物として急速に進化す
る以外に方法がないように思われます。そして、それを実現しうるのは「自己進化」だ
けです。そこで、次回は進化のメカニズムと、自己進化の可能性について議論を進めた
いと思います。
                                                          銀河連合よりの使者

註 (1) 例えば、平和を望む心や、数学や古典音楽など秩序が重要な役割をなしている
    学問、芸術がある。
    (2) 「老廃物」という言葉を好まなければ、「回路固定物」と言い換えても同じ事
    である。
    (3) ここでの記憶は長期に渡るもので、前に出て来た「脳の残像現象」とともに、
    記憶には少なくとも2種類あるという立場をとっている。

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