.....警 告......................1980年8月15日
 あなたは、実は地球人ではありません。はるか彼方の星から、生まれたてのところを
ここへ連れてこられたのです。そして我々は、あなた方の生物としての能力を調査する
ために、一つの舞台装置を準備しました。それは、一つの惑星とその上に存在する一つ
の社会です。その社会の歴史も文化も多様さも、調査に適切なものを設定しました。そ
して、あなたのまわりには多数のロボットを配備し、色々な事件の中であなたがどのよ
うに反応し、成長して行くかを観察してきました。
 しかし本日をもって、この調査は終了しましたので、あなたには今から30分後に生
命活動を停止していただきます。長い間のご協力を感謝しております。
 と言うのは冗談です。あなたが寿命をまっとうするまで、調査は続けさせていただき
ます。ご安心下さい。
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U.時の流れ                        1980年8月15日
 今回は、主に宇宙や文明がどのような基盤の上に成立しているかを、考えてみようと
思います。
 歴史的に見ると、宇宙はビッグバンによって始まり、その中に銀河ができ、星ができ
惑星ができ、その上に生物が発生し、進化して人となり、文明を形成したわけです。そ
して、とここで付け加わるのですが、文明の側から、このような歴史と空間の広がりを
認識するようになったのです。ここで注意すべき事は、文明が宇宙の中で誕生したこと
は確かなのですが、宇宙というのも、文明の側から認識されて、初めて形を現わす物だ
という事です。但し、この場合の宇宙は、その文明に固有の一つの「宇宙像」であり、
「宇宙」ではありません。それでも、「宇宙」をある程度反映している事は確かでしょ
う(1)。
 さて、宇宙に形を与える力を持った「文明」なるものは、どのような基盤を持ってい
るのでしょう。文明は一人一人の人間の知識、価値感、認識力などの集大成と言うべき
ものなので、結局のところ、文明は一人一人の人間、そしてその意識によって維持され
ていると言えます。従って、今、地球上の人間が全て死んでしまったら、地球文明もそ
れまでです。学問、芸術、技術の遺跡だけが残っても、それを知覚する意識が存在しな
ければ、もはや生きた文明とは言えません。しかし、考えてみると、現在生きている数
十億の人間も、たった200年後には、誰一人として生きてはいないはずで、ちょっと
心配になります。しかし、それで文明が滅びるかというとそうではなくて、多分、我々
の全く知らない人々によって、地球文明は維持されていることでしょう。こうしてみる
と、文明は人間を媒体とした波動のような性質を持っていて、あたかも自らの生命をも
持っているように思えてきます。
 次に、文明の担い手である一人の人間について考えてみましょう。人間は、宇宙と文
明の中で生きているわけですが、実際にはその個人に限られた知識と経験から作った、
自らの「宇宙像」、「文明像」の中で生きているといえます。それらの「像」は、真の
「宇宙」、「文明」(2)とは、かなり隔たったものかも知れませんが、その個人にとっ
ては、それがすべてです。そしてまた、このような「像」によって宇宙と文明が映し出
されているのです。
 ここで少し話が変わりますが、次回の準備も兼ねて因果関係について考えてみます。
量子論によれば、微視的な大きさの世界では、不確定性が存在するため、因果関係が崩
れています。宇宙や文明の大きさで、この不確定性がすぐに効くとは言いませんが、と
もかく因果関係が成立しないという事実は、究極的に重要な事です。現在の状態から未
来が決まり得ない、という事はもちろんですが、因果関係が成立しなければ果因関係も
成立しないわけで、過去すらも本質的に決まり得ないという事になります。歴史家が文
明の歴史を研究し、宇宙論者が宇宙の歴史を研究する際、情報量の不足から、確定して
いるはずの過去が分からないというだけでなく、本質的に確定し得ない、という可能性
もあるのです。要するに、実在し意味のあるのは現在だけで、過去や未来は、例え30
分前、30分後であっても、現在の人間により意識される「像」でしかないのです(3)。
 今回は、話が少し混乱しましたが、この混乱の根底には、物質存在が先か、それとも
意識存在が先か、という重大な問題が横たわっているのです。しかし、物質と意識は相
補的であり、どちらが先という問題ではないように思います。これらを包含した、「宇
宙文明論」そのものの範囲をも越えた性格のものです。ここでは、それは今、存在して
いるとしか言えません。
 次回は、いよいよ知性の本性、つまり自由意志と意識の存在についての解明を試みる
予定です。
                                                          銀河連合よりの使者

註 (1) ここでは、人間の認識にかかわりなく、一つの確定した宇宙が存在するように
    書いてあるが、そのような「宇宙」は、単に人間が心の平静を保つために必要
    な抽象概念に過ぎない。「宇宙」は人間が認識を進めていった時に収束する極
    限として定義されるべき物である。
  (2) ここでも(1)と同様のことが言える。
  (3) 但し、この場合も、人間が心の平静を保つために、便宜的に次のように考える
    ことも可能である。つまり、過去・現在・未来とも、一通りに決まって存在す
    るが、その間の因果関係は、必ずしも成立していない。

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