宇 宙 文 明 論 
             An Intellectual Cosmology

.....天文学者.....................1980年8月9日
 プロの天文学者、特に宇宙論に係わる天文学者は、最も悲痛な職業と言えるかもしれ
ない。
 アマチュアの天文家は、楽しみのために星を眺め、宇宙についておおいなる想像を巡
らせる。彼等のあるものは、それを楽しみとしておくために、あえて現代の天体物理学
を拒絶するかもしれない。彼等は天文を生き甲斐にまでするが、それは彼等にとって、
宇宙が夢と希望に満ちあふれたものだからである。
 また、天文に全く係わりあいのない人々は、彼等の生きている世界で、それなりに辛
いことがあるだろうが、そのような時には、どこか別世界へ心を遊ばせることで、苦し
みを紛らわすことができる。その別世界とは、人間の生活から掛け離れたもの、即ち自
然であり、その究極には無限に広がる宇宙がある。
 そして、人間の心の最後の逃避所である、宇宙そのものをあばくのが、天文学者の役
目である。我々の生活のすべてを包みこんでいるこの宇宙に、終末が訪れることを、誰
よりも先に認めることになろうとも、天文学者は、それをしなければならないのだ。
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I.宇宙と文明                       1980年8月9日
 この話を始める前に、何故『宇宙文明論』であるかを説明しなければなりません。
これは、宇宙人(地球外生命)の話ではありません。もっと一般的な、『宇宙』と『文
明』、特にそのかかわりあいの話です。
 ここで言う『宇宙』とは、非文明宇宙、或いは『物理的』宇宙、要するに天文学者が
観測する『宇宙』であり、簡単な(そうでないかも知れませんが)物理法則に従って動
いている世界のことです。この場合、その中にいる知的生物や文明は無視されていま
す。これに対して、『文明』の中では『人』が生活し、『社会』を形成しており、一応
宇宙とは別な、一つの独立した世界を形造っていると言えます。
 このような『宇宙』と『文明』は、今のところ独立していて、あまり大きな相互作用
はないように思えます。それは、『宇宙』と『文明』とでは目立った変化の起こるタイ
ムスケールが、あまりにも異なっているからです。私達の生活感覚から見れば、宇宙は
悠久にして不変といった感じがすることでしょう。しかし、本当に相互作用はないので
しょうか。
 文明といえども、宇宙の中に存在しているのであり、宇宙の変化は文明にも影響を及
ぼすでしょう。また文明の性質を考えてみた時、今は考えられなくても、将来において
は文明の力で宇宙が変えられて行く可能性も、考えられないことではありません。従っ
て、宇宙の進化を考える場合も、『宇宙論』ではなく『宇宙文明論』でなければならな
いと思います。
 『宇宙』と言うのは、比較的簡単な物理法則に従って動いており、その中では重力や
電磁気力などが力を発揮し、大きな変化が小さなものを飲み込む世界であると言えるで
しょう。この場合、大きなものを把握すれば未来がある程度予測できます。これに対し
『文明』は逆に小さな変化が大きな変化を生み出す世界であると思います。一人の人間
の一瞬のひらめきが、全世界へ影響を与えることもあるわけで、未来を予測することが
非常に困難な世界であると言えます。ここでは、既成の物理法則など全く役に立ちませ
ん。
 このような、不思議な『文明』を形造っているのは、一人一人の人間でありその『知
性』(1)であるわけですが、知性と言うのもなかなか神秘的な存在です。しかし、これ
を解明しないことには、『宇宙文明論』は始まりません。そこで、この『知性』の本性
をなんとか解明しようと言うのが、この話しの一つの目的です。そして更に、『文明』
の側の一員として、宇宙における文明の役割や目的についても、考えてみたいと思いま
す。
                                                          銀河連合よりの使者

註 (1)これ以後出て来る、『知性』は『知能』と同じ意味で使われている。

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