不老長寿教と糖質制限食

1.日本を中心に世界に蔓延する不老長寿教

 日本は政教分離と言われているが、はたしてそうだろうか?。日本では今生きている国民が生き続け平均寿命世界一を誇ることが国家の最大目標であり、国家予算の約3分の1、税収のほぼ100%を医療費に費やしている。日本は不老長寿教を国教とする敬虔な宗教国ではないか?。人々、特に高齢者は病院と呼ばれる教会に毎日通い、治療と言う名の宗教儀式を受け御利益あらたかと信じる薬を貰い多額のお布施を治療費という名目で払っている。お布施にはもれなく国家による上乗せが行われ医師という名の宗教指導者に支払われる。
 人間を初めとする生物は本来歳をとれば老化しやがて死を迎えるものであるが、不老長寿教の社会では死は理屈抜きに最大の悪と決めつけられている。かつて老化と言われていた高齢時の体の不調は全て病気と見なされ、病気は治療すれば治るとの考え方に基づきどこまでも治療を行う。あらゆる病気を克服し人間が永久に死ななくなることを目指し更なる新治療技術の研究開発にも余念がない。
 生物に不老長寿を求めること自体が自然の摂理に反するナンセンスな考え方なのだが、不老長寿教に浸っている人たちにはそれが理解できない。理性的な判断ができず不老長寿を盲信してしまう状況には強い宗教性があると言わざるを得ない。
 かつては秦の始皇帝などごく一部の支配者だけが国家予算をつぎ込んで自らの不老長寿を求めたが、現代においては一般国民や国家自体にも不老長寿教が蔓延しており、主に予算面から国家弱体化への悪影響は計り知れない。世界の多くの国でも程度の差こそあれ不老長寿教による政治支配が進んでいると思われるが、やがて再度の世界大戦が起きたら不老長寿教により弱体化した国が敗戦国となるであろう。

2.糖質制限食は不老長寿教の宗教改革

 糖質制限食が糖尿病だけではなく、あらゆる生活習慣病に効果がある事はもはや疑いない。人類400万年の歴史で糖質である穀物を主食としたのは最近1万年だけでなので人間の体は糖質に適応できていない。そのため糖質は人間に様々な病気を引き起こす。糖質制限の効果については多くの書籍が出版され、糖質制限食も世の中に認知され普及しつつある。
 仮に日本の全国民が糖質制限食に切り替えることができれば、1千万人規模の糖尿病患者は健康体になり、国民の約半数に迫ると言われるメタボも解消してしまうだろう。メタボは、糖尿病だけでなく、高血圧、肝臓病、腎臓病へとつながるものなので、糖質は万病の元ともいうべきものである。もしかしたら癌の発症率にも糖質が関わっているかもれない。糖質制限を徹底すれば世の中、特に高齢者の病気というものがほとんど姿を消し死因は老衰だけということになるだろう。
 病気を撲滅するという意味では糖質制限食も不老長寿を目指すものなので不老長寿教の一派と言えなくもない。但し、人間本来の食生活に戻り医療費を削減しようという方向なので、糖質制限食は不老長寿教の一大宗教改革と言えるのではないだろうか。
 もちろん全国民の糖質制限実現には3.で述べる困難な問題が多く実際には実現が難しい。また不老長寿教の趣旨からすると高齢時の病気は減るが老衰が免れられなければ目標達成にならず、更なる超高齢ゾーンにおいて老衰という病気との戦いが続行して元の木阿弥となる懸念もある。

3.糖質制限食の問題点

 病気撲滅に効果的な糖質制限食ではあるが多くの問題点を抱えており全人類が実践することは不可能である。 
 まず食糧問題。人類は大量生産可能なカロリー源である穀物を主食とすることで人口が爆発的に増加し文明を築いてきた。穀物の代わりに家畜を主食にしようとすると、家畜の飼料として現在の10倍の穀物が必要になるとされている。穀物生産の10倍増は不可能であり、食料面からは世界人口を現在の10分の1に減らさない限り糖質制限食への切換はできない。一方、人口を減らせば現在の文明レベルを維持できない。現代文明は人類にとって毒だが安価なカロリー源の穀物に立脚して成り立っており、これは現代の電気消費文明が危険な原子力に立脚して成り立っているのとよく似ている。
 次に社会的混乱の問題。糖質制限食も1国のみで行えば世界的な食糧問題にはならないかも知れない。しかし糖質制限は社会に与える影響が非常に大きい。世の中から大半の病気がなくなってしまったら、国家予算の約3分の1の医療費を収入源としていた人たちが職を失う。仮に30兆円の医療費が消失し1人あたりの年収が300万円とすると1千万人が失業する勘定になる。穀物に依存する伝統料理も消失し、これらに依存していた農家や食品業界も打撃を受けることになる。但し、こちらは糖質制限食の分野で食材の生産や創作料理の開発など新たな活動ができるので大きな問題とはならないだろう。
 最大の問題は2.で述べた病気の消失による寿命延長かも知れない。現状では不老長寿教に基づく治療行為もむなしく死を迎える人が多いが、病気が無くなると老衰が極まるまで死なない人が増える。死ぬまで元気に働いて自ら生活費を稼げれば良いが、そうでないと医療費に代わって年金が国家財政を圧迫する事になる。結局は国家財政破綻または戦争で敗戦することにより社会が混乱し、医療費や年金の国庫支出がストップし劇的に平均寿命が縮まるしか道はないのかも知れない。そうなると不老長寿教は一旦敗北し、また一からやり直しということになるのだろう。
 残念ながら、個人的な対応としては世の中全体が大きく変わることは望ます、密かに糖質制限を実施し健康維持に努めるのが得策としか言いようがない。

以上

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