「初めてのワークショップ」 〜 実践と法則の発見 11年2月

                     

1 研究の背景と目的

市民参加型まちづくりの手法の1つとして、以下のような理由からポストイット等のカードを使ったワークショップ方式を利用したものが使われている。

(1)小人数グループ分けにより自由発言が期待できる。

(2)自由な発想を模造紙等に整理しながらすすめていくのでわかりやすい。

(3)参加意識が高まるので、計画後の運用についてもすすんで参加しやすい。

 一方、職場においても、組織の中に人材やアイデア(つぶやき)が埋もれてしまっていることが考えられる。また、自分の足元である職場においてワークショップ方式による目標づくりができなければ、市民参加のワークショップの実施は難しいと考える。

 そこで、実際に、職場においてワークショップを実施し、「初めてのワークショップ」を成功させるための法則を発見することを目的とする。

2 研究の方法

 関連文献の調査及び過去の実践事例(1)(2)から重要ポイントを選定し、会計事務担当者研修会(3)及び職場(4)においてワークショップを実践して、検証する。

(1)静岡県立美術館職員・嘱託員「10年後にこうなったらいいなあ」平成8年3月

(2)静岡・未来・人づくり塾 実践講話「Workshop in 藤枝」平成10年8月25日

(3)会計事務研修会「会計事務はこうなったらいいなあ」平成10年11月30日

(4)西部出納室「21世紀ビジョン・こうなったらいいなあ」平成11年1月6日

3 重要ポイントの選定

 ワークショップについての文献調査及びこれまでに経験したワークショップの実践事例から、以下のことについて、疑問や悩みを感じていた。

(1)小人数化によるメリットは感じていたが、適当な人数は何人か?

(2)導入部分で行う他己紹介の効果は何か?

(3)行き詰まるところはいつか? その解決方法は何か?

これら3点を重要ポイントと設定する。

4 重要ポイントの検証

(1) グループの適当な人数は何人か?

 アメリカの社会学者パーキンソン氏の法則に「実質的に討議できる人数は8人まで」とあり、ワークショップに関する文献でも同様の記載が多い。一方、アメリカの心理学者ミラー氏は、論文「マジカルナンバー7±2」において、一般に記憶できる数は7つプラスマイナス2つであると言っている。実際に、日より曜日の方がはるかに記憶に残りやすいし、郵便番号や電話番号等は7桁であれば何とか覚えられる。ドレミの音階、虹の色も7つである。また、映画やドラマでも「七人の侍」「男女7人夏・秋物語」「七人の刑事」「レインボーマン」「てんとうむしの唄」等7人が単位になっているものは多い。「ドラえもん」も主な登場人物は7人である。このことをワークショップについて考えれば、メンバーの名前、発言を把握できる人数が7人程度までであるためであるとも言えるであろう。

 しかし、1973年に渡邊佳洋氏(元清水市立商業高等学校長)が考案し、全国に広まったウォークラリーにおいては、「3〜5人」又は「4〜6人」が適当であると言われている。これは、野外に出て、メンバーが動き回るためであるからであろう。また、メンバーが初対面だったり短時間の活動であるほど少ない人数が適当であると言われている。

 会計事務研修会での実習時間は3時間程度であったため、6人を単位としたワークショップを実践してみたが、意見交換が活発に行われていた。

 以上のことから、7人程度とし、メンバーが初対面であったり短時間のプログラムであれば、1、2人減らした人数、すなわち5、6人が適当であると考える。

(2) 導入部分で行う他己紹介の効果は何か?

 くつろいだ雰囲気やリラックスした状態が発言をしやすくし、ワークショップを盛り上げることは言うまでもない。そのため、導入部分において、他己紹介を行いアイスブレーキングを図ることが多い。そこで、会計事務研修会にて他己紹介の様子を観察し、また、事後にインタビューを行った結果、以下のような効果があることがわかった。

ア 自分のことを話すきっかけになる。

イ 相手のことをよく聞くことになる。

ウ 笑いが笑いを誘い、グループを飛び火する。

エ グループ内の結束が生まれる。

 アとイについては、お互い紹介し合うという機会の提供により、誰もがより積極的に話したり聞いたりするようになるということである。ウは、緊張のちょっとした打ち解けが小さな笑いを生み、笑いが笑いを誘発するということである。実際に、すぐにグループを飛び火して、2、3分のうちに会場全体へと笑い声が広がっていったのである。エは、結果として仲間意識が強くなり、他グループへの対抗意識が生まれるということである。実際に、「バレーボールをやっていたと聞いて親しみがわいた」とか「お互いのちょっとした秘密を握り合ったみたいで、なんだか親しくなれた気がした」といった感想が聞かれた。

 また、比較的まじめな議題や集団において他己紹介を始めようとする時、「なぜ、そんなことをする必要があるのか?」「早く実習を進めろ」と言われ戸惑ってしまうケースがある。そんな時、「情報交換演習」とか「記憶力テスト付き個人紹介」といった名目で他己紹介を始めるとスムーズに進行することがある。

(3) 行き詰まるところはいつか? その解決方法は何か?

 これまでの経験から、行き詰まるところは「カードが一旦出尽くしたとき」と「ペン書きを始めるとき」であると考えていたので、その点に注意していると、やはり同様に手が止まっていた。そこでインタビューを試みると以下のことがわかった。

 まず、カードが一旦出尽くしたときとは、壁に当たって前に進まないような状態であり、発想を進めるよりも発想の幅を広げたり転換させることが効果的である。具体的には、休憩をとって、机上に置いていた模造紙を壁に貼って眺めてみたり、他グループの様子を見たり助言者等の話を聞くのも気分転換になって効果があると考える。

 一方、ペン書きを始めるときとは、やり直しがしにくくなる時であり、合意形成の確認が必要な時期である。最も難しい緊張の場面であるが、最大の醍醐味であると考え、部分合意部分の整理や切り捨てと修正を繰り返し行い、合意形成の意思を共有してまとめていくのがよい。大切なことは合意形成をしようとする一人一人の意思であると考える。

5 その他に発見した法則

(1) 似たもの同士は、まとまりやすいが行き詰まりやすい。

 メンバーの構成員の年齢、性別、職種等が似通っていると、初めはまとまりやすいが、視点が似ているため発想の幅が広がらず、行き詰まりやすいようである。

(2) 時間の管理は有効であるが、ロスタイムの5分も効果あり。

 時間が長ければいいアイデアが生まれるのではなく、個々のプログラムで時間を管理した方が合意形成には有効である。しかし、最後に5分だけ延長したところ、いいアイデアが生まれたことがあった。5分間の延長ロスタイムがいい気分転換になったのであろう。

(3) 目的意識が薄いと現状への不満ばかりが先行する。

 現実に切羽詰まった問題がある場合等、それを捨てきれず現状への不満ばかりが先行することがある。これは、その不満を出す場がないことにも問題があると考えるが、目的を明確にして参加者の目的志向意識を高めることが必要であると考える。また、目標年次を伸ばしたり、高めの目標を設定することによっても、ある程度解消できる。

(4) 参加者同士が仲良くなる。

 事後アンケートの結果、「今まで何となく感じていたことと同じ考えの人がいることがわかって、うれしかった」「若い人が意外に真剣に考えていた」「年配者も案外頭が柔らかいことがわかった」といったことから、対等の立場での意見交換によって、相互理解が進んだと考える。ある程度、参加者同士が親しくなっていくことだろう。

(5) 次につながる成果は、再び成果を産む。

 平成8年に県立美術館で行った「10年後にこうなったらいいなあ」のうち、託児室の設置が実現した。「今まで来られなかった人にも来やすく」というコンセプトから提案したものの1つであるが、一職員(嘱託員)のつぶやきが実現したと考えるととてもうれしく感じる。また、参加意識・目的意識を高めるためには、ワークショップの結果の活用方法が広がっていることが望まれる。次回に成果をつなげ発展を期待するためには、少なくとも結果は広報等で公表すべきである。県立美術館でのワークショップの成果は既に静岡県博物館協会研究紀要第18号にて発表し、会計事務研修会と西部出納室の将来像ワークショップの成果は、職員時報11年陽春号にて県職員に紹介することになっている。

6 おわりに

 会計事務研修会や西部出納室で作成した将来像は、全職場で作成すれば、既存の新世紀創造計画に対して「新世紀想像(?)計画」とも言えるものができるだろう。実施のメリットとして、@新世紀創造計画への参加意識が高まること、A現場に直結した目標であるため日常業務につなげやすいこと、B他の所属のビジョンがわかるので、将来を見据えた連携がとりやすいことが考えられる。一番大切なことは、公務員(行政市民)も含めた広義の市民が、「こうなればいいなあ」といった夢や希望を持って具体的な活動を進めることであり、そこから無限の可能性が広がると考える。そのために、この論文が活用されることを期待する。