災害ボランティアによるまちづくり 平成11年1月

第1章 研究の背景と目的

 阪神・淡路大震災以降、災害ボランティアや自由参加形式のまちづくり団体に代表される「目的型コミュニティ」とでも言うべき集団が増えてきている。これは、従来からあった「地域型コミュニティ」や「企業型コミュニティ」とは異なり、地域や企業から束縛を受けず、「好きなことを好きなだけ行う」ライフスタイルの一面でもある。この目的型コミュニティのパワーは強大であり、将来のまちづくり構想には欠かせないコミュニティであるが、熱しやすく冷めやすいことや分裂しやすいなどといった一面があり、その継続方法については問題があるようである。

 一方、東海地震が予測されている静岡県において、地震防災対策は重要であり、上記のような社会の変化に対応して、防災対策も変えていく必要がある。特に災害時における救援活動には、ボランティアと地域住民の迅速できめ細かい活動が必要であるため、いつ起こるかわからない災害に対して真に強く、かつ今のライフスタイルに合った災害ボランティアネットワークづくりが求められている。そして、それは日頃のネットワークがどのように組めるかにかかっていると言われている。

 また、ネットワークには、団体と団体をつなぐものの他に、団体としての機能を高めるために団体内の個人をつなぐものがあるが、前者の成立には後者の前提が必要である。

 以上のことから、目的型コミュニティの一つである災害ボランティアについて、そのネットワークの方法、特に団体内の個人をつなぐものについて研究し、地域、行政、ボランティアの三者において役立てることを目的とする。

第2章 研究の方法

 平成8年度から、静岡県ボランティア協会主催の「災害時におけるボランティアコーディネーター養成講座」が県内3地区(東・中・西部)において毎年開催されている。講座は週1日ずつ4週にわたって開かれる形態であるが、参加目的は、直接仕事に関係する者から、自分の知識向上や仲間づくりのため等幅広い。そのため、講座修了生がネットワークのための連絡会をつくることは難しいと考えられていた。しかし、2期生が修了した後、平成10年3月から4月にかけて、修了生による連絡会が東・中・西部に相次いで発足した。この東・中・西部の各連絡会の活動目的は、人的・組織的なネットワークをつくることで共通しているが、活動内容には差がでているようである。このことから、各連絡会のネットワーク活動の取り組み方を比較することにする。

 比較項目は、開催する連絡会等の構成、主な活動実績、今後の主な活動予定、地区割り活動の状況、その他の特徴とし、整理したものが下表である。

      各地区連絡会の活動内容(平成10年7月15日情報交換会から)

  東部連絡会 中部連絡会  西部連絡会
連絡会等の構成 ●連絡会(年2回 )●市町村単位の 支部会(奇数月に 1回)●世話人会 (偶数月に1回) ●連絡会(2ヵ月に1回)●世話人会(年2〜3回)●運営会議(月1回)●支部会 ●連絡会(年1〜4回)●世話人会(適宜)
主な活動実績 ●三島市で三角巾の講習会を開催 ●支部会立ち上げのための準備 ●個人情報カードの作成準備
今後の主な活動予定 ●シミュレーション(スロー)今秋●連絡会のユニフォームをつくる ●フィールドワーク(3期の講座)●東中西部の合同世話人会(1月) ●個人情報カードとマップづくり●フィールドワーク(3期の講座)
地区割り ●市町村別地区割りが進んでいて、地区別( 一部?)活動がさかん ●市町村地区割りを予定している ●行政センター単位(複数の市町村)で地区割りを検討中
特徴(感想) ●講習会、ユニフォーム等イベント的活動から始めている ●自由参加の定期運営会議を開くことで、情報交換をしやすくしている ●連絡会内のネットワークづくりから始めている

 東部と西部が対照的である。東部がイベント主体であるのに対し、西部が個人情報の交換といった内部的活動からスタートした。中部は自主性を重視した形をとっている。

 災害ボランティアのネットワーク活動については、会員内外や関連機関の情報収集、整理、交換、発信といった「情報ネットワークづくり」と、災害ボランティア体験学習や防災イベント等により起爆剤効果を期待する「イベント式ネットワークづくり」の2種類があると考えることにする。「情報ネットワークづくり」は、地味であるが、お互い何ができるのか?何をしてきたか?何をしたいのか?どんな情報をもっているのか?等といった内部の連携強化を図るものであり、その団体自体は何ができるのか?等といった対外的連携の基礎となるものである。また、会員同士をよく知るということは、団体の活動方針を定めていく上でも重要な指針となるものであると考える。一方、「イベント式ネットワークづくり」は、イベントという一つの目標に対して、短期間に会員内での意思統一を図りながら参加意識を向上させ、対外的にも団体をアピールする効果がある。

 以上のことから、「情報ネットワークづくり」と「イベント式ネットワークづくり」について、過去の実績や参加者の感想等を調査し、提案を行うことにする。

 また、「イベント式ネットワークづくり」について、最も大きいイベントは防災訓練である。平成10年9月1日に小笠山総合運動公園造成地で行われた静岡県総合防災訓練では、警察、消防、自衛隊の他にバイクレスキュー隊等のボランティア団体が参加する形式が初めてとられた。しかし、整然とした会場で分刻みに訓練が進行する様子は、最新の科学技術や救出方法等を紹介する印象が強く、「まるでショーのよう」(平成10年9月2日 中日新聞朝刊)であった。また、12月の地域防災訓練については、自主参加というより自治会内でゴミ当番と同様の交代制のために参加する場合が多いようである。また、内容についても型にはまったバケツリレーや三角巾の講習等が多く、マンネリ化していると言えるだろう。そこで、「イベント式ネットワークづくり」では、今、求められる新しい防災訓練についてまで言及したいと考える。

第3章 「情報ネットワークづくり」について

第1節 過去の「情報ネットワークづくり」について

 これまで、情報ネットワークづくりといえば、各団体の代表が集まって情報交換を行う会議方式がほとんどであった。実際、一般のボランティア団体においては、静岡市や浜松市のようにボランティア団体連絡協議会を設置して、協議会として活動している市町村もある。しかし、平常時に災害時を想定したケースの場合、単なる活動実績や計画の情報を会議で交換したのみでは、あまり役立たないのではないかと考える。さらに、熱しやすいが冷めやすいと言われる目的型コミュニティであるため、時間の経過とともに集まる人数が減少し、自然消滅することも考えられる。そこで、会議方式以外の情報ネットワークづくりとして、「もし大震災が発生したとしたら団体として何ができるのか」といったアンケートによる情報ネットワークづくりを実施した事例があるので紹介する。

事例 「大震災後、各ボランティア団体は何ができるかアンケート」の実施

  1. 実施団体 ボランティアなまずのヒゲ
  2. 時期 平成9年1月 
  3. 範囲 静岡市ボランティア連絡協議会参加団体
  4. 方法 郵送方式 (最初の発送は連絡協議会の定期便に混ぜていただいた。)
  5. 質問項目 @団体名、A主な活動内容、B活動場所、C活動頻度、D実人数、E何ができるか(炊き出し、パソコン、視覚障害者の介助等の項目に○をつける)F連絡先
  6. 結果(概要) 

 24団体から回答があった。救援物資の整理や避難所の手伝い等特殊な技術を要しないものが可能な団体は多いが、障害者や外国人への対応ができる団体は比較的少ない。特に、ボランティアをコーディネートすることが可能な団体は最も少なく、2団体であった。また、ほとんどの項目を実施可能な団体があることがわかった。そして、この結果が静岡市に送られたことは、行政とボランティア団体間のコーディネートが図られたと言えるだろう。なお、このアンケート実施直後、静岡県社会福祉協議会が県内のボランティア団体を対象に、同様のアンケート調査を実施した。小さなボランティア団体が大きな組織を動かしたのである。

第2節「情報ネットワークづくり」の提案

 第2章で紹介した「災害時におけるボランティアコーディネーター養成講座」は、平成10年度も開催され、東・中・西部の各連絡会は3期生を新たに迎えることになる。このことは、単純に考えても現会員の半分が増加する機会であるから、1・2期生で発足したばかりの連絡会にとっては、会員を増やす大きなチャンスである。が、同時に、発足者と新入会者との間に溝が生まれる危険のある時期でもある。

 また、ほとんどが「災害時におけるボランティアコーディネーター養成講座」の修了生によって構成される連絡会であるが、いざという時お互い何ができるか? 昼夜別の連絡先はどこか? といった情報はほとんどもっていない。しかし、これらの情報の他にそれぞれの日頃の活動や特技等がわかれば、今後の連絡会の活動にも利用できると考える。

 以上のことから、西部連絡会に対して、以下のように提案し、実施した。

@ 1・2期生から3期生への「役立ち情報かわら版」の発行(西部連絡会)

「災害時におけるボランティアコーディネーター養成講座」の受講日に併せ、A4表裏1枚の広報誌「役立ち情報かわら版」を発行して、受講生に配布し、西部連絡会の宣伝を行った。内容は、以下のとおりである。

第1号 平成10年10月 8日 講座会場近くのトイレ、売店及び移動会場の案内

第2号 平成10年10月15日 西部連絡会の紹介及び今後の活動予定と案内

第3号 平成10年10月22日 災害時のボランティアの想像力トレーニング

第4号 平成10年10月29日 東・中・西部連絡会の紹介及び入会案内

 この結果、平成10年11月15日までに、3期生52人中、38人が西部連絡会に入会した。これは、「役立ち情報かわら版」の効果と考える。講座の修了による達成感から冷めてしまいがちな防災意識に対して、講座の開講日に併せて役立ち情報を発信することで、西部連絡会への参加意識、継続して活動する意識が高まったのではないかと考える。講座終了後にPRしたのでは、気持ちが冷めやすく、これだけ入会しなかっただろう。

A 役立ち情報名簿の発行(西部連絡会)

「いざという時お互い何ができるか?」等お互いをもっと知るために、以下の項目を含んだアンケート用紙をつくって、会員に配布し、回収・編集・印刷・製本して、再び配布した。

  1. 氏名
  2. 昼・夜別の連絡先住所、電話番号、FAX番号
  3. 何ができるか(炊き出し、パソコン、視覚障害者の介助等の項目に○をつける)
  4. これまでの活動実績や今後したいと考えていること等
  5. 得意技のキーワード(検索用に最も得意とすることを単語で記入)

 この結果、救援物資の整理や避難所の手伝い等特殊な技術を要しないものの他に、各種の障害者や高齢者の介助等福祉に関することが可能な人が多いことがわかった。一方、パソコンや外国人への対応といった福祉以外の専門技術を要することが可能な人が少ないことがわかった。よって、今後の課題として、不得意分野の団体と関連をもったり、勉強会をしたり、新たな会員を増やしたりすることが考えられる。また、対外的にもどんな技能をもった人がいるかのアピールが可能になった。すなわち、お互いを知るだけでなく、連絡会全体の特徴を知ることができ、今後の活動方針を決めていくためにも役立つことが考えられる。

第4章 「イベント式ネットワークづくり」について

第1節 過去の「イベント式ネットワークづくり」について

 阪神・淡路大震災以前においては、筑波大学都市防災研究室(梶 秀樹 教授)が考案し、東京都板橋区等で実施した「災害情報連絡ゲーム」や静岡県中部振興センター(現 中部県行政センター)が行った「防災体験ウォークラリー」等があるが、どちらも、地域住民による情報収集に重点が置かれていた。しかし、阪神・淡路大震災以降、ボランティアによる体験学習的ゲームが行われるようになってきた。それが下記の3事例である。

事例1 震災ボランティア体験ゲーム

  1. 実施団体 ボランティアなまずのヒゲ
  2. 日時 平成7年11月12日(日)午前11時から午後3時まで(平成9年11月23日(日)にもほぼ同様の内容で実施)
  3. 場所 静岡県総合社会福祉会館(静岡市駿府町)
  4. 参加者 小学生から大人まで約20名
  5. 概要 (青少年ボランティアのつどいの1日プログラムの1つとして実施)

 5人1組のグループをつくり、求人票にポストイットを貼ることで、ボランティアの振り分けと活動の確認を同時に行う方式(「阪神・淡路大震災 被災地の人々を応援する市民の会」等が行った方式)で、活動を決める。活動報告終了後は、再び求人票で活動を選択する。以下繰り返す。

 活動メニューには以下のものがある。

@人捜し、動物探し(安否情報の収集):会館内の各部屋に多くの人が避難していると想定し、部屋の入り口には避難者の名前や動物の写真が貼り出されている。参加者はバラバラに選ばれた10人と1匹の「人捜し、動物探しリスト」を受け取り、グループで手分けをして5分以内に報告する。結果を反省し、道具や分担を工夫してもう一度行う。

A給水車からの水運び:1階給湯室の蛇口の1つを給水車と見立てて、屋外の炊き出し場と7階の会議室(避難教室)へ水を運ぶ。炊き出し場には大鍋2つ、避難教室へはポリタンク10個とペットボトル10本があり、その全てにより短時間で水を入れる。水は形がないことを利用して、水の移し方、運び方やじょうごの作成等の工夫を期待している。

Bボランティアセンター:ボードに求人情報を記入する。求人情報の内容は、活動内容、人数(チーム数)、場所、時間である。例えば、「人捜し、動物探し 2チーム センター、今すぐ」等である。この情報に対し、各チームがやりたい項目にポストイット等の紙を貼って立候補するので、センターは定員を確認して、チームを決定する。活動終了後は、再びセンターへ戻って、終了報告及び引継ぎ事項を報告してから、次の活動を選択するようにする。すなわち、このセンター自体も活動メニューの1つなのである。

6.結果(感想)

 阪神・淡路大震災でのボランティア経験を活かした初めての体験学習ゲームであった。そのため、参加意識、防災意識が高かったようである。また、平成9年は、2回目の実施になったことから、スタッフに余裕ができたことから、楽しくできたようだった。

事例2 震災ウォーク

  1. 実施団体 ボランティアなまずのヒゲ
  2. 日時 平成8年11月10日(日)午前11時から午後2時まで
  3. 場所 静岡県総合社会福祉会館(静岡市駿府町)から静岡県地震防災センター
  4. 参加者 小学生から大人まで38名
  5. 概要 (青少年ボランティアのつどいの1日プログラムの1つとして実施)

 4、5人単位の8グループが5分おきに静岡県総合社会福祉会館を出発し、静岡県地震防災センターまでの定められたコースについて地図を見て歩き、以下の課題を解いていった。地震防災センターでは、ハイゼックスによる炊き出し訓練及び施設内の体験学習を行った。病院(ピンク)、公園(青)、公衆電話(緑)、消火栓(赤)、危険個所(黄)を発見したら地図にマークする。

 コースのどこかに紛れているある人物を捜す。ある人物は、「18歳の男性、身長165cm、青い帽子」である。彼に会ったら合い言葉「いい天気ですね」を言う。

 その他、災害時を意識し、安全と危険の区別や役に立つ施設と設備を考える。

6.結果(感想)

 満足度は低くなかったようだが、楽しくできたとは言えなかったようだった。平常時に非常時を想定するのは難しい。体験学習であっても、屋外へ出て街を歩くと、どうしても開放的な気分になる。それならば、かえって訓練よりも遊びの比重を増やして楽しくやればよかったのではないかと考える。途中のチェックポイントを増やし、クイズや宝さがしなどのゲームをやりながら、自然に防災知識を学べる形式にすればもっと有意義だったと思われる。

事例3 災害ボランティアコーディネーター シミュレーション研修会

  1. 実施団体 シミュレーション実行委員会及び静岡県ボランティア協会等
  2. 日時 平成10年3月28日(土)午前10時から午後5時まで
  3. 場所 静岡地区 静岡県総合社会福祉会館(静岡市駿府町)
  4. 沼津地区 東部地域交流プラザ「パレット」(沼津市大手町)
  5. 参加者 「災害時におけるボランティアコーディネーター養成講座」修了者等約90名
  6. 概要 (災害ボランティアコーディネーターフォローアップ研修会として実施) 

     静岡県東部地域に大地震が発生し3日経過したことを想定して、被災現地のボランティアセンター(パレット)と後方支援センター(静岡県総合社会福祉会館)にてボランティアコーディネート及びボランティア活動のシュミレーションを行った。内容は、ボランティア希望者の受け付け、受け入れ対応、被災者ニーズの受け付け、対応といったコーディネート関連のものから、物資基地づくり、水運び、人捜し・動物探しといったボランティア活動まで様々なメニューを演習した。情報伝達部分においては、NTTの協力により仮設電話を置き、被災者役になった参加者が自由に考えて意地悪な内容を含んだ依頼等を行った。またコーディネート部分においては、「ボランティアなまずのヒゲ」が行った「震災ボランティア体験ゲーム」同様、ポストイットを使った振り分け方式を行った。さらに、パレットと静岡県総合社会福祉会館をパソコンでつないで情報伝達シミュレーションを行ったり、バイクレスキュー隊による緊急物資の運搬等で2会場を結びつけることも行った。

     特徴は、より実践に近づけるため、活動を選ぶ単位が個人であること、選択メニューが多いこと及び参加者の自主性により活動内容を細かく決めなかったことである。

  7. 結果(感想)

 実践に近いシミュレーションとしたこと及び多くのメニューを積み込んだことにより、一種のパニック状態が起きた。このことは、よりリアルな訓練になった一方、参加者が意味を消化できないという問題を引き起こした。よって、「災害時におけるボランティアコーディネーター養成講座」修了者であったも、慣れるまではシミュレーションの内容を絞っていった方がいいだろうと考える。

第2節 新型防災訓練ゲームの提案

 前節で紹介した3事例から、以下の3点を提案する。

1遊びの要素をもっと取り入れる

 あまりに実践に近づけようとすると、時間がかかるだけでなく、楽しさまで失われてしまいがちである。実際、シミュレーション等の実習は楽しく行った方が身につくことが多い。また、楽しいものほど、永く続けられるものになると考えられる。よって、遊びの要素をもっと取り入れ、実践的であることよりも楽しく行えるものとすることを提案する。具体的には、個人よりもグループ対抗にして競争したり、途中にクイズや宝さがしのようなゲームを取り入れ、遊びながら自然に防災知識が身につくようなものがいいと考える。

2初めは目的によりメニューを絞る

 多くのメニューを詰め込みすぎると消化不良になってしまうことから、初めのうちは、目的によってメニューを絞って、集中的に行うことを提案する。ボランティアコーディネーターのためのシミュレーションであれば、電話による情報収集、整理とポストイットを使った振り分け方式によるコーディネートに絞ったものがいいと考える。また、電話の依頼文等については、あらかじめ多くのパターンを準備しておいて、被災者役の人が選択して電話依頼する形の方がスムーズにいくだろう。このように、比較的重要でない部分については、選択方式を取り入れた方がいいと考える。

3参加者だけでなく、スタッフも楽しく行えるようにする

 イベントを実施するにあたって、スタッフの苦労は大きい。スタッフの苦労と参加者の満足度は比例するとは限らない。むしろ、スタッフが楽しく行えた場合の方が参加者から「楽しかった」と言われることが多いのではないだろうか。また、末永く続けることからもスタッフ側にとって楽しいことが望まれる。よって、参加者だけでなく、スタッフも楽しく行えるようにすることを提案する。

 また、上記3つの提案に合った新型防災訓練ゲームが、平成10年秋に沼津市と東京都墨田区で実施されたので以下に事例として紹介する。

事例1 発災対応型防災訓練

  1. 実施団体 京島文花連合町会、墨田区役所、向島消防署、向島警察署
  2. 日時 平成10年11月3日(祝)午前9時から午前11時30分まで
  3. 場所 京島文花連合町会の全域と第四吾嬬小学校
  4. 参加者 地域住民830名(前年比約3倍増)
  5. 概要 学校や公園を会場にして初期消火や救出救助、応急救護、避難の各訓練を行う「集合型防災訓練」とは異なり、自分の家から一歩外へ出ればそこは訓練会場であり、被災現場であるという日本初の「発災対応型防災訓練」である。進め方は、まず各家庭で身の安全を図った後、隣近所の状況を確認しながら集合場所を目指して避難する。集合場所までの間には火災(本物及びパネル)が発生していたり、倒壊家屋の下敷きになっている人やけがをした人がいたり、道路の通行障害が発生していたりする。人を集めてバケツリレーを始めたり、けが人をくるむ毛布を持ち寄ったり、道を大きく迂回したりする等、このような状況一つ一つに対処しながら、地域の情報拠点である一時集合場所まで避難するのである。この状況設定については、町内の場所ごとに違う設定をし、場所等は事前に参加者には知らせていない。つまり、訓練が始まらないと何をしていいのかわからないのである。
  6. 結果(感想)

 従来の防災訓練が、マンネリ化、参加者の固定化、参加率の低下といった問題があったのに対して、町中が会場であり、何が起こるかわからないという設定は、「遊び」的要素が大きく、いかにも楽しそうである。訓練修了直後のアンケート調査の結果、85%が来年以降も同じ形式の訓練を望んでいることからもそれがうかがえる。また、「消火器が近くにない」「救助器具ケースが重い」といった問題点が指摘されたが、いずれも実際に使用してみてわかったことであり、防災体制の見直しにも役立ったと言えるだろう。

事例2 災害時ボランティアコーディネーター シミュレーション研修会

  1. 実施団体 災害時ボランティアコーディネーター 東部連絡会
  2. 日時 平成10年11月22日(日)午前9時30分から午後4時まで
  3. 場所 東部地域交流プラザ「パレット」(沼津市大手町)
  4. 参加者 災害時ボランティアコーディネーター東部連絡会会員約25名
  5. 概要 午前中は、基礎講習とボランティアセンターの開設作業をし、午後にシミュレーションを行った。内容は、平成10年3月28日に実施した「災害ボランティアコーディネーター シミュレーション研修会」から、電話による情報収集、整理とポストイットを使った振り分け方式によるコーディネートにテーマを絞って、集中的に実施した。電話については、NTTの協力により、2つの部屋に3台ずつの仮設電話を設置してもらった。活動単位は6人程度のグループとし、被災者役、ボランティア役、コーディネーター@(電話聞き取り中心)、コーディネーターA(振り分け中心)の4役をローテーションして実施した。また、被災者による電話の依頼については、あらかじめ多くのパターンを準備しておいて、被災者役の人が選択して電話依頼する形をとった。
  6. 結果(感想)

 テーマの絞りこみと依頼文を選択方式にしたことで、目的が明確なシミュレーションになったと思われる。また、活動単位を個人からグループにしたことで、仲間意識と対抗意識が生まれ、ゲーム感覚になって楽しかった。ここまでくれば、当日の講習や説明まで簡単にし、すぐシミュレーションに入れればもっと遊びに近くなったのではないかと考える。

第5章 ネットワークの創造への提案

1「情報ネットワーク」と「イベント式ネットワーク」の両立

 「富士山の美しさは、日本一の高さと裾野の広がりである」と言う人がいる。災害ボランティアネットワークを富士山に例えれば、「情報ネットワーク」は土台となる裾野であり、「イベント式ネットワーク」は芯にあたるものであり、高さとも言えるであろう。土台がしっかりしていれば崩れることはないし、細くても芯があれば石や砂が集まってやがて山になるかもしれない。しかし、土台のない芯は倒れやすく、芯のない土台では目標が見えずに消えてしまうかもしれない。よって、この2つのネットワークは両立が必要である。したがって、今後、西部連絡会には「イベント式ネットワークづくり」が、東部連絡会には「情報ネットワークづくり」が求められると言えるだろう。

2遊びごころいっぱいのネットワークを

 ネットワークを永く楽しく続けられるためには、遊びごころが必要である。静岡県教育委員会が行った「フロンティアアドベンチャーキャンプ」のオリエンテーリングでは、事前に「『魔よけの木』を手に入れるためのカギとなる長老の話」などが書いてある手紙を渡して、気分を高めさせている。防災訓練にもこのくらいの遊びごころがあってもいいのではないかと考える。防災担当者ではなく、ウォークラリー等野外活動の専門家が防災訓練を企画すれば、きっとおもしろいものになるであろう。

3合意形成のためのワークショップを

 災害ボランティアは目的型コミュニティであるため、熱しやすく冷めやすく、仲間割れや自然脱退しやすいという特徴がある。そのため、活動方針を立てる上での合意形成は重要である。そこで、最後に、合意形成を図る手段としてのプログラム「こんなことができたらなワークショップ」を提案する。

 参考資料 千葉大学工学部 延藤安弘教授「まちづくりビジョンゲーム」

地域まちづくり研究所 伊藤光造所長 「Workshop in 藤枝」

墨田区・向島消防署・向島警察署「発災対応型防災訓練の概要」他

災害ボランティアコーディネーター東・中・西部連絡会各資料

ボランティアなまずのヒゲ活動資料

  

災害ボランティア団体の活動方針策定手順

1 各自3つの「こんなことできたらな」を考え、1枚ずつポストイット(大)に記入し ます。(10分)

(例)・もっとたくさん活動したい。・細くても末永く活動したい。・顔の見える関係づくりを。・行政との勉強会をしたい。・実践的な技術講習を。・年3回くらいの活動を。・自主防や消防との連携を図りたい。・楽しく活動したい。

2 一人ずつポストイットに書いた「こんなことできたらな」を説明しながら、模造紙の 上に貼っていきます。その際、内容が似ているものは近くに貼ります。(10分)

3 全員の発表が終わったら、模造紙を眺めながら議論と意見の整理を行い、グループとして3つの「こんなことできたらな」を設定します。(10分)

  各「こんなことできたらな」は、各自の出したものを統合するのではなく、基本的には、どれかを選び、そのニュアンスを活かしながら他の意見を入れて修正する、という ふうにします。

 

4 方法等具体案の追加及び修正をします。(30分)

  再び1人3つずつの方法等具体案を考え、1枚ずつポストイット(小)に記入します。 2と同様に発表しながら模造紙に貼っていきます。全員の発表が終わったら、議論と意 見の整理を行いグループとして、それぞれの「こんなことできたらな」に対して3つの 方法等具体案を設定します。

5 いよいよ最後の仕上げ、「デザイン案」の作成です。タイトル(ネ−ミング)を考え、 マジック等の道具を使って自由に楽しく表現します。(10分)