静岡市メリーGOラウンド計画 平成3年11月

第1章 計画策定の趣旨

 静岡市は江戸時代から今日まで、静岡県の中心的商業都市として栄えてきた。しかし、この繁栄の裏では、現状楽観主義による大規模商業施設や静清バイパスの建設が遅れたり、都市施設の配置が場当たり的に行われ、モータリゼーションや産業の高度化に久しく遅れをとることになった。このような状況の中で国においては東京一極集中が進み、県東部は拡大する首都圏に飲み込まれつつある。

 今、静岡市は「静岡県の静岡市」から、政令指定都市として「自立都市圏としての静岡市」へと飛び上がろうとしている。しかしその羽はほころび、体には余分な脂肪がついている。下手に飛び上がろうものなら力尽きて地面にたたきつけられてしまうかもしれない。静岡市の現状と潜在的能力をしっかりと把握したうえで、他の都市のまねできない静岡市独自の計画が必要である。

第2章 現状及び潜在的能力

 静岡市の現状及び潜在的能力について、静岡市のもつ内在的ポテンシャル、外部的な変化要因、経済、社会の新しい潮流の3点から分析した結果、以下のようになった

1.静岡市のもつ内在的ポテンシャル

 県の中核都市である。

 東京と名古屋の中間点である。

 商業集積が高い。

 城下町として歴史がある。

 山間部に未開発部分が多い。

 富士山、安倍川、日本平が活用できる。

2.外部的な変化要因

 都市の拡大、清水市とのツインシティ化

 東京への一極集中

 ベットタウンの拡大(藤枝市等)

 静岡空港の計画

 第2東名の完成

 静岡ヘリポートの計画

3.経済、社会の新しい潮流

 高齢化・国際化・情報化

 マイカーの普及、道路の慢性渋滞

 価値観の多様化

 快適性、安らぎ、なつかしさの追求

 余暇時間の増加

第3章 人が集まるまちづくりプロジェクト

第1節 プロジェクトの方針

 第2章において分析した現状及び潜在的能力の中から、特に、城下町として歴史があること、商業集積が高いことをベースに、快適性、安らぎ、なつかしさの追求を目標に、マイカーの普及と道路の慢性渋滞、価値観の多様化を踏まえながら、できるだけ実現可能な夢として人が集まるまちづくりプロジェクトを設定することにする。人が集まるまちづくりプロジェクトは以下のとおり、都市機能の分散、サークルレール&バイパス、商業活性化計画(メリーGOラウンド構想)の3計画から成り立つ。

第2節 都市機能の分散

 東京への一極集中が進行する現在、政令指定都市を目標としている静岡市にとって自立都市圏の構築は必要不可欠である。しかし、現在の静岡市はあらゆる都市機能が静岡駅から駿府公園間に集中していて、その結果道路の慢性渋滞等、快適性の下落をまねいていて、都市機能の集中による効率性さえも失われつつある。

 そこで、第4次全国総合開発計画で提案された業務核都市構想のミニ版を想定し、静岡駅を中心に個性のあるミニ衛星都市を建設することを提案する。また、第7次静岡市総合計画で提案されているプロジェクトも踏まえることとし、ミニ衛星都市間は、第3節で述べるサークル&レールバイパスでつなぐこととする。

 まず一つめに、東静岡地区に国際会議場を中心としたコンベンションシティを建設する。この地区は、交通の便がよく、広い土地があり、静岡市の新たな中心となりうる地区であるから、人を集めることを目的とした大規模な施設で、静岡市の新情報拠点となるべく地区とする。また、有機的に役割分担できる草薙総合運動場が近接するため、スポーツよりも文化イベントに重点を置いたまちづくりが望ましい。

 二つめに、麻機親水都市エリアに生産物流拠点を整備する。この地区は第2東名や国道1号線バイパス、静岡ヘリポートといった広域高速交通機関に近接しているため、現存する流通センターの機能を拡大して物流効率性を向上させる。また、第2東名に対しては、拡大流通センターへ出入りする大型トラック専用のインターチェンジと取り付け道路を設置し、物流効率性と安全性を同時に確保する。

 三つめに、用宗広野海岸に臨海アメニティゾーンを建設し、海洋レクリェーションや新しい漁業を展開する。

 四つめに、静岡大学西地区に提案されている東名新インターチェンジからサークルレール&バイパス(第3節)の間に郊外型ショッピングゾーンを建設する。これは、マイカーによる主婦の買い物の普及等から、快適にかつ多くの種類のショッピングを可能にし、さらに殿様商売が続いてきた静岡市の商業に刺激を与えることを目的とする。また、日本平等への観光客が帰りに東名高速道路に入る前に土産を買っていけるような地区にする。

 五つめに、四つめと同様、第2東名新インターチェンジからサークルレール&バイパス(第3節)の間に郊外型ショッピングゾーンを建設する。

第3節 サークルレール&バイパス構想

 現在の静岡市にとって幹線道路の慢性的渋滞の解消は、急務を要する課題である。この問題は市内交通の混雑を解消させないかぎり、都市間通過交通の処理のための静清バイパスの開通後もほとんど変わらないだろう。また、この慢性的渋滞は、公共交通機関の輸送能力が低いこと、すなわち静岡鉄道が東海道線と平行していて利用できる人が一部に限られていて、バスにしても雨天時等混雑して時間が不正確で利用しにくいことにも原因している。

 そこで、多彩なアクセスによる交通体系の整備として、通過交通を静岡市街地から迂回させ、市街地内の自動車を減少させることを基本理念としたサークルレール&バイパス構想を提案する。これは、静岡駅を中心に、北は建設中の静清バイパス、西は駒形、南はSBS通り、東は東静岡駅跡地の位置にループ状の新交通システム(中量軌道輸送システム)を設置し、さらにその上にバイパスを設置する歩車鉄道完全分離システムである。また、既存の静岡鉄道もこれを機に高架化させ、新交通システムを使った同様のレール&バイパスに移行し、駒形の交通結節点まで延長させる。さらに、バイパスから直接、立体駐車場へ入り鉄道へ乗り換える等、幅広い選択が可能な交通結節点を設置する。(第4節マルチトランスファーシステム)

 ここで、このサークルレール&バイパス構想の効果について、整理してみることにする。まず、直接効果として交通面では、渋滞の緩和、市内居住者の通勤通学輸送の主流となる等時間の節約、快適性の確保が挙げられる。間接効果として、第2節で述べた分散された都市機能をつなぐ役目を果たすこと、高架であるので富士山、安倍川、日本平等眺望がよいこと、利用者の選択の幅が広がることが挙げられる。

 次に個々の交通結節点等新駅の性格について考える。既存の静岡鉄道の駅はそのまま新交通システムの駅とする。東静岡駅跡地、麻機親水都市エリア、南北の郊外型ショッピングゾーンはそれぞれの都市機能を果たす新交通システムの駅とし、大型の立体駐車場を設置して交通結節点とする。その他、1、2キロ間隔で新駅を設置し、その3分の1程度を大型立体駐車場を併設した交通結節点とする。

 その他、パーク&ライド方式を普及させるために、併設の立体駐車場と新交通システムの相互利用できる切符にすることが望ましい。

第4節 商業活性化計画

  (メリーGOラウンド構想)

 静岡駅前の商業を活性化させるにあたって、活気ある商店街が狭くなっていること、自動車によるアクセス性が悪いことの2つの大きな問題があり、これらの解決が必要不可欠である。

 前者は、公園等都市施設の配置が場当たり的に行われていて、大型店を中心とした部分のみが混雑している。このため既存の商業集積は有効に利用されておらず、その結果活気ある商店街が狭くなっている。

 後者は、静岡市及びその周辺における個人の交通手段の現状を考えると、自動車による買い物客は商店にとって重要である。しかし現状の静岡駅前商業地域は、慢性的に渋滞していて、駐車場が少なくかつ位置がわかりにくいため車客に対する魅力を低下させている。

 商業活性化計画はこれらの問題点を踏まえ、静岡駅前に面的広がりをもった回遊性のある商業地域を創出することで、楽しく歩いて息抜きできるまちをつくるものとする。また、この計画を女性(メリーさん)が歩き回ることと遊園地の楽しさを合成して「メリーGOラウンド構想」と名付けアピールし、「人を集める計画」、「人の集まる場をつくる計画」、「アクセスを向上させる計画」の3方向から以下のプロジェクトを実施する。

 まず、「人を集める計画」として、静岡中央郵便局の移転跡地及びその西地区(静岡商工会議所周辺)に、ライブハウスや小ホールを備えた専門店の集合体のビルを建て商業核にする。これは新静岡駅や伊勢丹とは別方向へ商業核を設定することで、回遊性のある商店街として、また常盤公園へ向かう新たな商店街ルートをつくり、面的活性化を図るものである。具体的には、対象客の年齢層を10代から30代に絞り、扱う商品は服飾と趣味の雑貨に重点を置いたものにして若者の集う場をつくる。回遊を意識し、周辺商店街についても品揃えや店の造りをこれにならう。ここで10代から30代の若者に焦点を当てた理由は、一般に、多種多様な集い方をし、流行の変化に敏感に反応し、また時間的拘束が少なく自分のためだけに自由に使えるお金を持っているため、より多くの人数をより多くの回数呼び集めやすいと考えたからである。

 次に、「人の集まる場をつくる計画」として、街をひとつのステージと設定し、その街にいること自体に意味があり、通りを歩くことが快感となるということを意識した回遊路を整備する。この回遊路整備計画は次の4つのプロジェクトから成る。浅間通り及び新静岡センターから水落町間の北街道の歴史的町並みへの修景、呉服町通りのコミュニティ道路部分の延長、常盤公園から新商業核ビル間の商店街の整備、静岡駅周辺のペデストリアンデッキ化である。

 浅間通り及び新静岡センターから水落町間の北街道の歴史的町並みへの修景については、現在計画されている、駿府公園の施設復元や内堀の掘りおこし等歴史を彷彿させる庭園と接続させ、昔の情緒を醸し出した造りのモールとし、駿府公園と併せた歴史をテーマとした回遊路の設定を図る。さらに富士山の望める位置にポケットパークを設置する。

 呉服町通りのコミュニティ道路部分の延長については、西武百貨店前のフォールトを本通りまで延長し、車のスピードを落とさせるだけでなく、きれいなフォールトのある通りとして、現在整備が進んでいる七間町通りと対比させ、個性化を図る。

 常盤公園から新商業核ビル間の商店街の整備については、常盤公園へ行くルートとして、現在、静岡駅から市役所前を抜け青葉通りを通っていく方法が主体であるが、これ以外に静岡駅から最短距離で常盤公園へ行くルートをつくり、新たな回遊路の設定を図る。なお、この回遊路は若者の服飾と趣味の雑貨に重点を置いたものにして若者の集う場とし、面的活性化を図ることも目的としている。

 静岡駅周辺のペデストリアンデッキ化については、南北動線の確保と現状の狭い駅前広場の有効活用を目的としている。現在、静岡駅を降りた客の多くは一度地下を通って呉服町や御幸町等へ歩いていて、その街の顔となるべき駅前広場を見ていない。そこで、駅舎2階の高さのペデストリアンデッキを設置し、シンボリックな彫刻のある公園にして静岡の顔としてふさわしい駅前広場とする。なお、デッキは、国道1号線をまたぐ長さとし、新商業核ビルに直接入ることができるようにし、またバスターミナル、タクシーのりばは1階部分に設置して歩車分離を図る。

 最後に「アクセスを向上させる計画」として、各交通機関利用者に手段の選択の幅を広げることを目的に、マルチトランスファーシステムを構築をする。「サークルレール&バイパス」の交通結接点に、駐車場をドッキングさせることで、駐車場へのアクセス及び新交通システムへの乗換えを容易にさせる。またこのプロジェクトは、バイパス混雑時や目的の駐車場が満車であるとき等において、自動車利用者に乗換えという選択枝を与え、全体としての混雑を緩和させる柔軟剤的役割も果たすと考えられる。

第4章 まとめ及び提言

 第3章で挙げた各プロジェクトは、実現可能性を考えてのものであって、決して夢を描いたものではない。この程度のプロジェクトを実行しないかぎり、これからの都市間競争を勝ち抜くことはできないだろう。

 さて、これらのプロジェクトの実施主体についてであるが、民間企業の自由な発想に期待したい。言うまでもなく、行政の役割は民間企業が各プロジェクトを実行しやすいようなシステムの構築である。また実行には、多くの人が静岡を変えていこうとする浜松市民的「やらまいか精神」が最も重要である。

今、静岡が「人が集まるまちづくり」として、まず実行すべきことは、第7次静岡市総合計画を具体化した案を示し、機運を盛り上げることである。