第6章 各調査結果のまとめ及び提案

調査結果のまとめ

第3章から第5章までに、共通する話題は若者のエネルギーの活用である。第3章では団体の活性化と継続のために若者の参加が必要であるものの、どうすれば若者が入会するかわからないといった答えが目立った。第4章では、団体発足の元となった阪神・淡路大震災でボランティア活動をした者の6割近くが20代と30代の若者であったことは前述のとおりである。第5章のアンケート調査結果において、若者は、「余暇を有効に過ごすため」「よい仲間を得るため」に団体に加入するが、「適当な団体を知らない」「時間がない」「わずらわしい」「関心がない」ために、加入率は45%であることがわかった。また、ボランティア活動を「娯楽や趣味の一つにすぎない」と気楽に考える人がいるようなこともわかった。

以上のことから、どうすれば、若者のエネルギーを活用できるかが課題として浮かび上がった。

若者のエネルギーの活用方法についての提案テーマの設定

若者を求めている場として、地域づくり、選挙、職場の活性化が挙げられる。逆に、若者が求めている場として、イベントが挙げられる。ただし、最近のイベントには動員が多く、困っているという話をよく聞く。また、これらの活用には、若者が若者を動かすことも必要である。

以上のことから、提案テーマとして、

  1. 「若者をイベントに参加させる(若者が参加する)方法」
  2. 「若者を地域づくりに参加させる(若者が参加する)方法」
  3. 「若者を選挙に参加させる(若者が参加する)方法」
  4. 「若者により職場を活性化させる方法」
  5. 「若者が友人を増やす(若者が若者を動かす)方法」

を設定した。なお、提案内容については、第5章の若者の団体活動に関する調査と同時に回答者からも募集し、これまでの調査結果と併せて検討した。結果は次節以降のとおりである。

若者をイベントに参加させる(若者が参加する)方法

  1. 「見える力(パワー)を蓄積させよう」

過去に実施したイベントについて、その実施内容、効果、失敗したことや聞けばわかる担当者名をデータとして蓄積し、ノウハウを提供できるイベントデータバンクを作成する。また、動員として参加するつまらないイベントが多いことから、イベントを評価し、淘汰していくことも必要である。

  1. 「見てすぐわかるイベントを」

何を目的にしているのか、何がおもしろいのかがわからないイベントは、意味がない。 (3) 「参加した手応えが残るものを」

参加することで充実感が得られることが大切である。参加者がリピーターとなってイベントが継続する形が理想である。

若者を地域づくりに参加させる(若者が参加する)方法

  1. 「私人としての公務員が、コーディネーター役に」 〜新公務員像の確立

公私の立場を使い分け、お互いの立場に理解を求めることで、行政を有効に活用することが可能になる。単なる行政批判団体では、お互いにとってマイナスである。

  1. 「ビジョンなくして地域(まち)は変わらず」

まちづくりに貢献したい気持ちの強さに世代の差はない。目標(ビジョン)づくりに参加し、成果を実感して達成感を味わう一連の流れが不可欠である。

  1. 「主役は、やっぱり若者だ」

リーダーが若者の意見を受け入れるか、若者自身がリーダーとなり若い力を引っ張ることが重要。長老が決定し、若者の意見が通らない組織では若者はついてこない。

若者を選挙に参加させる(若者が参加する)方法

  1. 「身近な問題が政治につながる仕組みを」

選挙によって自分の生活が変わる実感がないことが、無関心になる大きな原因である。地域や仲間で解決できない問題を積み上げていって、みんなで相談する場が議会となり、逆に、議会で決定したことが、段階を経て地域や仲間に戻っていくGive&Takeの仕組みの再構築が必要である。

  1. 「時代は、Conveni-Votingを求めている」

個人の時間を有効に使うために、投票時間を夜9時頃まで延長したり、コンビニエンスストア等でパソコン通信による投票ができるようにしたりする。選挙違反はチェック機能を強化しても減らないので、チェック機能を減らして単純化させる。

  1. 「制度改革は大胆かつユニークに」

地方自治体ごとに、ユニークな制度改革として、プラス・マイナス投票制、年齢別議員枠の設置、有権者枠の限定、特定事業に対しての賛成反対投票の同時実施等を実施してより民意を反映しやすくする。

若者により職場を活性化させる方法

  1. 「能力重視で、職場を変えよう」

年功序列では「やる気」を損なう。

  1. 「スタッフ制が責任を育てる」

意見が通らない環境は「やる気」を損なう。

  1. 「上司評価制で、意欲増加」

対等な立場であるためには、相互評価制度が不可欠である。

若者が友人を増やす(若者が若者を動かす)方法

  1. 「正しいかまちがっているかでなく、好きか嫌いかを考える」

ある問題に対して、「正しいかまちがっているか」で争っていては、人を動かすことはできない。「好きか嫌いか」で考えると相手を尊重することができ、こんな意見の人がいるのかと広く考えることができる。

  1. 「ポリシーなければ、ただの人」

今の若者は、他者や社会に対して無関心になったといわれるが、社会の組織化の進行により無力感が広がったからではないだろうか。信念をもち、自分の考えを身につけることで自分に自信をつけることが必要である。

  1. 「『外』の世界は刺激的だ」

1日の大半を学校や職場という限られた環境で過ごすため、そのつながりに縛られがちである。異業種間交流や地域等で普段と違う環境に接することで、個人の感性に刺激を与えることができる。

第7章 結論と今後の課題

結論

最近になって増えてきた「目的型コミュニティ」側にとっては、第5章で述べたような若者の意識を理解した上で、私人としての公務員がコーディネーター役になって、全員がビジョンづくりに参加し、成果を実感して達成感を味わう一連の流れが理想であろう。公務員が私人として地域へ出ていくことは、行政の透明化を図るだけでなく、最近の官官接待やカラ出張等の公務員批判に対して、信頼できる新しい公務員像が確立できるのではないかと考える。さらに、この場合、地域づくりに参加することとボランティアに参加することと同等であると考えるので、ボランティア休暇制度の幅広い運用を可能にすることを提案する。

また、直接会って聞くヒアリング調査では明確にはでてこなかったが、「目的型コミュニティ」においては、仲間割れが多いようである。目的で集まった団体で、しがらみがないことから、ビジョンにズレが生じやすいのである。わかりやすく言うと、団体に2人のトップが生まれるとすぐにバランスを崩し、派閥の弱い方が追いやられてやめていくという傾向があるということである。これらは、ヒアリング調査を通じて少しずつ気付いたことであるが、ほとんどの団体である傾向のようである。そこで、若者が若者を動かす方法として提案した「正しいかまちがっているかでなく、好きか嫌いかを考える」ことを、若者だけでなく目的型コミュニティに参加する一人一人に提案する。

今後の課題

これまでにおいて多くの提案をしているが、そのまま自分自身に返ってくるものや、私人としてコーディネーター役になることによって、実現に近づけることができるものが多い。

また、従来からあった「地域型コミュニティ」、「企業型コミュニティ」の中にも束縛の少ない「目的型コミュニテイ」に近いものに変化しているものもあり、今後さらに重視されるべき活動であると考える。

よって、前節で述べた提案を実施してくこと自体が、今後の課題である。

また、ボランティアと行政のコーディネート役としての事業として既に始めたものもあるので、最後に紹介する。「ボランティアなまずのヒゲ」において、「災害時、ボランティア団体は何ができるかアンケート」を提案した。これは、ボランティア団体がお互いを知るだけでなく、行政側にボランティア団体のできることとできないことを具体的に示して協力しやすい形に近づけるという意図である。今回、静岡市について実施し、平成9年3月に結果が発表される予定である。