第4章 災害ボランティア団体ヒアリング調査

調査の目的と分析の軸の選定

平成7年1月17日の阪神・淡路大震災から3ヶ月で 117万人(兵庫県福祉部・長寿社会政策局すこやかな社会づくり推進室調べ)、すなわち1日あたり13,000人のボランティアが活動した。静岡県内からも多くの人がボランティアに参加したことであろう。そして、最近になって、その経験を生かしたいと地元静岡県内にて、3つの災害ボランティア団体が結成されたそうである。前例のほとんどない種類の団体であるので、試行錯誤しながらの団体運営が予想される。

そこで、3団体の結成の状況や活動内容を比較することによって、最適な団体活動を追究することを目的とし、また、各団体に対して情報交換を図ること等役に立つことを優先することにした。

また、事前に予備調査を「ボランティアなまずのヒゲ」に対して行い、以下の各方面から分析の軸となるヒアリング項目を選定した。

団体の状況及び活動状況の面から以下の項目を分析の軸として選定した。

1 代表者及び事務局

2 発足の時期及び経緯

3 活動目的

4 活動方針

5 これまでの主な活動実績

会合の開催や人数の面から以下の項目を分析の軸として選定した。

6 会合開催頻度

7 登録人数(会合平均出席人数)

予算の面から以下の項目を分析の軸として選定した。

8 入会、退会のルール

9 年会費

10 主な財源

登録者の属性の面から以下の項目を分析の軸として選定した。

11 登録者の住所(遠方)

12 登録者の年代

記録の面から以下の項目を分析の軸として選定した。

13 会報発行状況

今後の予定の面から以下の項目を分析の軸として選定した。

14 今後の活動予定

15 他の災害ボランティア団体とのネットワーク化の希望

調査の方法

前例のほとんどない種類の団体であり、団体結成等の詳しい内容を調べることから、直接面接によるヒアリング調査を実施することにした。また、ヒアリングを通じて、各団体に対して情報交換を行い、さらに必要性に応じてネットワーク化を図ることにした。

調査結果の比較分析

下の日程でヒアリング調査を実施した。

  1. 平成8年12月7日 ボランティアなまずのヒゲ(静岡市)
  2. 平成8年12月11日 震災ボランティアネットワークいとでんわ(浜松市)
  3. 平成8年12月18日 沼津災害救援ボランティアの会(沼津市)

調査結果は以下のとおりである。

1代表者及び事務局

団体名 ボランティアなまずのヒゲ 震災ボランティアネットワークいとでんわ 沼津災害救援ボランティアの会
代表者  西谷祐一  小林誠治郎  久保正太郎
事務局
(連絡
先)
〒420
静岡市駿府町1−70
静岡県総合社会福祉会館
4階 静岡県ボランティ
ア協会(清水)
054-255-7357
〒432
浜松市
(石原)
〒410−03
沼津市
(久保)
  1. 東部、中部、西部に各団体が分かれている。
  2. 「なまずのヒゲ」だけが、ボランティア協会が窓口になっていて連絡の便がよい。ただし、ボランティア協会との関係で、お互い負担にならないようバランスを保つ必要があるだろう。

2発足の時期及び経緯

団体名 ボランティアなまずのヒゲ 震災ボランティアネットワークいとでんわ 沼津災害救援ボランティアの会
発足の時期  平成7年6月  平成8年2月  平成7年11月
発足の
経緯
 阪神・淡路大震災にお
いてボランティア活動に
参加し、地元でも活動し
たいと考えた人たちとそ
れに賛同する人の協力に
よって設立した。
 阪神・淡路大震災にお
いてボランティア活動に
参加し、地元でも活動し
たいと考えた個人と団体
によって、そのネットワ
ークとして設立した。
阪神・淡路大震災を契
機に、ロサンゼルスをモ
デルとした事前登録制の
会員派遣システムとして
設立した。
  1. 3団体とも阪神・淡路大震災でのボランティア活動がきっかけとなっている。 (2) 「いとでんわ」だけが、既存の団体加盟者を含めたネットワークとして設立された。規模の必要な活動に有効に機能すれば効果は大きいだろう。

3活動目的

団体名 ボランティアなまずのヒゲ 震災ボランティアネットワークいとでんわ 沼津災害救援ボランティアの会
活動目
的(モ
ットー
体験を生かした啓発、及
び東海地震対策としての
活動をすること
「スマイル、続けル、で
きルことだけ」ボランテ
ィア
阪神・淡路地区に対する
支援活動及びそれを通じ
た啓発活動をすること
東海地震による被害を最
小限に抑えるための組織
活動をすること
「自分を守る、家族を守
る、まちを守る」

4活動方針

団体名 ボランティアなまずのヒゲ 震災ボランティアネットワークいとでんわ 沼津災害救援ボランティアの会
活動方
●定例会を情報交換の場
とする
●定例会で提案し、有志
で実行(専門)委員会を
つくって活動する
●窓口は静岡県ボランテ
ィア協会(清水)におく
●末永く続けられること
を重視する
●未定 ●防災に関する啓蒙活動
及び技術の習得(講演、
講習)
●災害時の行政の動きを
把握した情報展開
●災害発生時に必要な物
資の備蓄(外部ボランテ
ィア受け入れ分を含む)
●情報発信(会報)
●募金活動
  1. 活動方針について、「なまずのヒゲ」は平成7年12月にKJ法(新しい発想を得るために川喜田二郎氏が発案した発想整理法『発想法』中公新書他)にて作成、「沼津災害救援ボランティアの会」は、平成8年9月に理事会にて検討。「いとでんわ」は、今後両団体の方針を参考に作成が必要だろう。「なまずのヒゲ」も作成から1年が経過したので、方針の点検が必要だろう。

5これまでの主な活動実績

団体名 ボランティアなまずのヒゲ 震災ボランティアネットワークいとでんわ 沼津災害救援ボランティアの会
これま
での主
な活動
実績
●出前講演会(約20回
)、ハイゼックス等講習
会(4回)、パネル貸し
出し(3回)
●災害ボランティア体験
ゲーム、災害ボランティ
ア体験ウォークラリー
●仮設住宅のお年寄りへ
の折り鶴や手紙の贈呈、
街頭募金
●フリーマーケット&チ
ャリティコンサート
●災害ボランティア体験
学習
●県内の兵庫県外避難者
支援活動
●NGOフォーラムへの
参加、交流
●講演会(7回)
●救急救命法講習会(月
1回程度)
●街頭募金(神戸に餅を
贈る)

(活動にあたっては、会
員に配布されている腕章
の着用が義務づけられて
いる)
  1. 共通する活動が多い。
  2. 阪神・淡路地区に対する支援活動は「いとでんわ」が最も得意としている。
  3. 体験を生かした啓発活動は「なまずのヒゲ」が最も得意としている。
  4. 東海地震による被害を最小限に抑えるための組織活動は「沼津災害救援ボランティアの会」が最も得意としている。

6会合開催頻度

団体名 ボランティアなまずのヒゲ 震災ボランティアネットワークいとでんわ 沼津災害救援ボランティアの会
会合開
催頻度
月1回、原則第3土曜日
午後4時から
月1回程度、不定期
平日夜
月1回程度、不定期
平日夜
  1. 3団体ともに月1回開催している。
  2. 「なまずのヒゲ」は高校生が参加しやすい時間帯に開催している。

7登録人数(会合平均出席人数)

団体名 ボランティアなまずのヒゲ 震災ボランティアネットワークいとでんわ 沼津災害救援ボランティアの会
人数(
会合平
均出席
人数)
12人
    (8人)
 3団体+5人
   (8人)
理事8人
    (8人)

 登録会員は563人
  1. 人数は、団体とも発足当時から増減があったものの、ともに8人で会合を行っている。8人という人数は、お互いを認識でき、寂しくもないバランスであることから安定したのであろう。また、アイデアが出しやすく話し合いに適した人数でもあるそうである。(「なまずのヒゲ」)
  1. 「沼津災害救援ボランティアの会」は、理事と登録会員の2部構成を採用していて、幅広い活動が可能である。

8入会、退会のルール

団体名 ボランティアなまずのヒゲ 震災ボランティアネットワークいとでんわ 沼津災害救援ボランティアの会
入会、退会の
ルール
特になし 特になし 災害時にできること等を
記入した登録票を提出

9年会費

団体名 ボランティアなまずのヒゲ 震災ボランティアネットワークいとでんわ 沼津災害救援ボランティアの会
年会費 高校生以下 1,000円
他   2,000円
なし なし

10主な財源

団体名 ボランティアなまずのヒゲ 震災ボランティアネットワークいとでんわ 沼津災害救援ボランティアの会
主な財
新聞社助成金、防災グッ
ズ売り上げ差金他
フリーマーケット売り上
げ他
篤志家の寄付、財団助成
金、講演謝金他
  1. 「沼津災害救援ボランティアの会」は、自分にできる活動を登録票に記入して事務局に送付すると会員証と腕章が送られてくる。他2団体は会合に参加することが、実質入会となる。
  2. 「なまずのヒゲ」の年会費は、会報の印刷、発送費用として算定された。
  3. 3団体とも安定した財源はない。

11登録者の住所(遠方)

団体名 ボランティアなまずのヒゲ 震災ボランティアネットワークいとでんわ 沼津災害救援ボランティアの会
登録者
の住所
(遠方
県内中部中心
(浜松市、福田町)
県内西部
(袋井市、福田町)
県内東部中心
(小山町、富士宮市、岡
山県)

12登録者の年代

団体名 ボランティアなまずのヒゲ 震災ボランティアネットワークいとでんわ 沼津災害救援ボランティアの会
登録者
の年代
高校生から70歳まで 20代から50代まで 小学生から60歳以上ま
  1. 3団体とも事務局地区中心に登録されている。
  2. 3団体とも幅広い年代をカバーしている。

13会報発行状況

団体名 ボランティアなまずのヒゲ 震災ボランティアネットワークいとでんわ 沼津災害救援ボランティアの会
会報発
行状況
おおむね月1回、定例会
の報告中心、これまでに
16号発行
未発行(平成9年1月発
行予定)
おおむね3ヶ月に1回、
行政等関連機関からの情
報や各事業報告等、これ
までに4号発行
  1. 「なまずのヒゲ」は、会合に出席できなかった人が次回参加しやすいように会    合の報告をしている。これは末永い活動にするという方針の一環である。
  2. 他団体との交流やマスコミの利用等のためにも会報の発行は有効である。(     「なまずのヒゲ」、「沼津災害救援ボランティアの会」)

14今後の活動予定

団体名 ボランティアなまずのヒゲ 震災ボランティアネットワークいとでんわ 沼津災害救援ボランティアの会
今後の
活動予
●静岡市内ボランティア
団体対象「災害時何がで
きるか?」アンケートの
実施
●フリーマーケット(い
とでんわ)出店
●フリーマーケット&チ
ャリティコンサート(平
成9年1月15日)
●県内の兵庫県外避難者
支援活動の拡大
●県東部地域の防災とパ
レットの役割、無線等に
ついての講演会及びパノ
ラマ地震BOOK作品展(平
成9年1月19日)
  1. 3団体とも、阪神・淡路大震災の1月17日前後にイベントを企画している。
  2. 「なまずのヒゲ」のアンケートは、各ボランティア団体間の平常時の連携と災害時の情報収集に役立てることを目的としているが、行政にボランティア団体が何ができるかを示すことで、行政とボランティアとのコーディネートが可能である。平成9年3月に集計結果が出るので、成功すれば他の地区で実施されることが望ましいと考える。このように団体間のネットワーク化により、さらに質の高い活動ができるのではないかと考える。

15他の災害ボランティア団体とのネットワーク化の希望

団体名 ボランティアなまずのヒゲ 震災ボランティアネットワークいとでんわ 沼津災害救援ボランティアの会
他の災
害ボラ
ンティ
ア団体
とのネ
ットワ
ーク化
の希望
 希望あり、年1 回程度
情報交換会、共通パンフ
レットやイベントの合同
実施ができればいいと考
えている。
 希望あり、県内の兵庫
県外避難者支援活動の拡
大等協力をお願いしたい
と考えている。
希望あり、全国に同様
な団体ができればいいと
考えている。
  1. 3団体とも他の災害ボランティア団体とのネットワーク化を希望している。
  2. 平成9年1月15日に「いとでんわ」のフリーマーケットに「なまずのヒゲ」が初参加する。
  3. 団体間のネットワーク化については、全国的な動きもあるが、団体間のエゴや覇権争いのようなものあり、大変困難な状況にある(大阪ボランティア協会事務局長 早瀬 昇氏)とのことである。よって県内3団体のネットワーク化も簡単にはいかないだろう。実際、どの団体の中にも、自分のところと同様な組織が全国に広がればいいと考えている人がいるようである。しかし、懇親会を含めた情報交換会や「なまずのヒゲ」のように「いとでんわ」のイベントへの相乗り参加や会報の交換がネットワーク化への近道であろう。

考察

県内の災害ボランティア団体について、共通した調査を実施したのは初めてのことであり、3団体とも他の団体の状況や活動をほとんど知っていなかった。そのため、この調査結果はお互いを知る意味でも貴重な情報源といえるであろう。さらに、調査を通じてわかった情報を元に「なまずのヒゲ」が「いとでんわ」のイベントへの相乗り参加するなどネットワーク化が一歩進んだこと、また当研究グループの名で、共通パンフレット(下)を作成し、静岡県ボランティア協会主催の「災害時におけるボランティアコーディネーター養成講座」(平成8年12月5日他)において受講者に配布したり会報の交換をする等、研究目的の1つである「調査団体に役立つこと」が達成されたと思われる。

 静岡県内の災害ボランティア団体の紹介

  1 「ボランティア なまずのヒゲ」       代表 西谷祐一
   (1) 連絡先 〒420 静岡市駿府町1−70
               静岡県総合社会福祉会館4階
               静岡県ボランティア協会内
           054−255−7357 (連絡担当 清水)        
   (2) 設 立  阪神・淡路大震災でボランティア活動に参加し、地元で
         も継続して活動したいと考えた人達とそれに賛同する人の
         協力によって、平成7年6月に設立。
   (3) 主な活動内容
      ●出前講演会 ●パネル展 ●ハイゼックス講習会
      ●震災ボランティア体験ゲームやウォークラリーの実施
      ●震災時にボランティア団体は何ができるかアンケートの実施他

  2 「震災ボランティアネットワーク いとでんわ」 代表 小林誠治郎
   (1) 連絡先 〒432 浜松市(石原)
         
   (2) 設 立  阪神・淡路大震災でボランティア活動に参加した個人と
         団体によって、平成8年2月にネットワークとして設立。
   (3) 主な活動内容
      ●静岡県内の兵庫県外避難者への支援
      ●ボランティア体験学習の実施
      ●フリーマーケット他

3 「沼津災害救援ボランティアの会」      代表 久保正太郎

4 「JRB(ジャパン・レスキューサポート・バイクネットワーク)」
平成9年2月設立記念シンポジウム開催予定(浜松市)

        作成 自主研究グループ「Modern-chick」