青梅アートフェスティバル2001「妖怪達の青梅宿」
   
かつて、青梅街道の宿場町として栄えた青梅市のJR青梅駅前から広がる商店街は、西多摩地域の経済、行政の中心地として公共機関や商店が建ち並び活気にあふれていた。しかしながら、近年(1980年代中頃と思われる)、市の東側の開発が進み大型店の出店や市役所を始めとする公共機関の移転が相次ぎ、人の流れが変わったため商店街を形成する店舗数が減り、このままでは衰退してしまうとの危機感を感じていた。そこで、伝統ある商店街を活性化させるため、平成元年に東京都のモデル商店街事業の指定を受けて歩道の整備を実施するとともに、この事業を契機にして商店街が地元の高校、国際交流団体と共に「青梅アートフェスティバル」を開催することとなった。
以降、毎年特定のテーマ(猫、映画看板、昭和レトロ商品など)を取り上げ、関連するユニークなアイデアで盛り上がる様々なイベントを行ってきており、昨年は全国地域づくり推進協議会会長賞を受賞している。今年のテーマは「妖怪」、中でも小泉八雲の「怪談」に書かれた「雪女」の出展の地がここ青梅市であることが最近になって確認され、小泉八雲の子孫にあたる小泉凡氏がお墨付きを与えたことから、地元はこれに注目することとし、今年のメインテーマとなっている。
青梅駅周辺は、予想に違わぬ古い商店が立ち並び商店街の所々の軒上には映画看板が飾られていた。古い空店舗を改装した「昭和レトロ博物館」やその隣にある喫茶店「隣のレトロ」もとってもおしゃれである。街道沿いのポケットパークと商店街の駐車場はイベント広場となっており、ミニコンサートや子供向けのアトラクションが開催されるらしい。歩道には露天商の屋台に混じって、商店街や地元の方達の出店と思われるいかにも素人臭い手づくり品を扱うお店が並ぶ。妖怪広場と呼ばれるメイン会場には「雪おんなシャーベット」や「雪おんなまんじゅう」も販売していた。しばらく歩いて、妖怪研究仲間で出店している「物怪びっくり館」に到着する。ここも空店舗を利用しており、青梅ゆかりの妖怪達が潜むお化け屋敷「物怪体験館」と物怪グッズや妖怪関連書籍を販売するお店である。
妖怪研究家の間敏幸氏の案内で、旧青梅街道から坂道路地を入った宗建寺へ向う。このお寺もフェスティバルに全面協力しており、境内地を地元の子供たちのバザー会場及びミニコンサート会場として、本堂を妖怪に関する展示室として提供している。住職自らも「坊主バー」と称するショットバーを出店している。
間氏に話をうかがうと、日本各地に伝わる妖怪伝説について、科学的な裏付けに基づく論証を行っているそうで、現地調査に赴き、地元の人達からの聴き取りや古文書の解読など地道で丹念な調査作業を続けていて、妖怪をテーマに地域おこしを進める大分県臼杵市、滋賀県八日市(ようかいち)市において、イベントやシンポジウムなどを開催しているとのことである。青梅市近郊は伝説の多い地域であり、今回のアートフェスティバルに先行して実施した調査では数多くの妖怪とそれに類するものの存在が明らかにされたそうである。半信半疑で話をうかがって初めてわかったが、妖怪とは、昔の逸話や人々の心に潜むものが、想像や故意などによって増幅されて、うわさになったもので、地域のお年寄りに話をうかがっていくことで、妖怪の出没地やその原因がかなり明らかになるそうで、推理小説や宝さがしにも共通したものがあるように感じた。
その後、妖怪研究家たちが主催する「妖怪めぐりバスツアー」に参加した。添乗員は、配布された青梅妖怪めぐりバスツアーマップ(妖怪カード付き)のイラストを作成した妖怪絵師の天野行雄氏である。ユニークでかわいらしく描かれた青梅の妖怪たちは、ツアーに参加した子供たちにも好評を博していた。ツアーは、青梅近郊にまつわる妖怪、ものすごいスピードで走る怪盗「裏宿七兵衛」や、夜中に小豆をとぐ「あずき婆」や、その他類似の擬妖怪を取り上げ、ゆかりの地を訪ねるものであったが、中には、若干強引な妖怪、擬妖怪もあった。
ツアー終了後、空店舗を利用して出店している「雪おんなバー」で特製カクテルを飲んだが、バーテンダーはワンショットバーのマスターで、昼間の空いている時間に参加していると言う。誘った方の常連客の方は雪おんなのコスプレでウエイトレスをしている。店の外で客引きをしていたバーテンダーの服装をした男性は雪おんなの友達で、実は青梅市の市議会議員だそうだ。皆さんすごくリラックスして、お祭りを楽しんでいる。
このフェスティバルの実施方式は、参加者がテーマに基づき、それぞれ自分がやりたい企画を申し出て、実行委員会が場所や時間等の調整役を果たしているようだ。ちょうど高校の文化祭に似ている。核となるイベントの実施については、妖怪研究家たちのように実行委員会から協力要請をしているのだろう。また、水木しげるの生誕地である鳥取県境港市からもゲゲゲの鬼太郎などの妖怪着ぐるみやグッズ販売などの応援に来ていた。もちろん、同じ商店街の中にはこのようなオープンなやり方に反対の声もあるだろう。全くフェスティバルにに関心を示していない店舗も見られるからだ。しかしながら、参加を強制しているわけでもないようなので、表立って不満が出ている様子は見られなかった。きっとこのような商店も多くの人出を見れば、協力的になり、いずれは「商店街ぐるみ」で行っていくイベントになるだろう。
このようなイベントで大切なことは、やはり来客だけでなく主催者も参加者になって、「遊び心」で、楽しんでやることであると感じた。苦役や義務では11年も長続きしないだけでなく、「遊び心」で企画すれば、妖怪研究家のようなその道の専門家、スペシャリストとうまく連携するなど、よそ者を排除しないで、希望があれば地域外の人であっても門戸を広げることで大きな発展にもつながると考えるのである。
   
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