目覚めと共に夢は傷跡へと帰る。後に残ったのは苦い痛みだけだった。 マリーナは起きたばかりの頭を軽く振って、膝にかけられた膝掛けに目を止めた。……誰がかけてくれたんだろう? 懐かしくて、痛い夢を見ていた気がする。心の傷跡をたどるようにしながら、彼女はゆっくりと記憶をたどっていった。そして、痛みに突き当たる。 (……なんで、あんな夢見たんだろ…………?) マリーナはそっと自分の顔を片手で包んだ。とっくの昔にふっきったはずだった思い。今更思い出したのは、パステルに自分の気持ちをさらけ出したせいなのだろうか? マリーナは軽く目を閉じた。 再会した二人の間には一人の見知らぬ少女がいて、それがたまらなく哀しかったこともあった。 けれど、彼らを取り巻く風は限りなくやさしくて、そしてその風はマリーナの傷までもやさしく包んでくれたから。だから、マリーナは傷を思い出さずにすんだのかもしれない。 (わたしは、二人を包む風になれなかったけれど) マリーナの顔にやすらぎが浮かぶ。 (それでも、ここに風の吹く場所がある。その場所を与えてあげられる) マリーナの、誇れる仲間達に。 やわらかな空気を吸い込むと、ふわりと時が動いた。 「ああ、マリーナ起きたのか」 風の道筋たどれば。 〜FIN〜 |
この話、原型はもう少し違った形でした。 メインテーマは「4」に出てくる「風はどこへ行くのだろう」「風はどこから来るのだろう」という問いだったのです。 新5巻でマリーナと踊っていたクレイがパステルと話しに中庭に出てくるところがありますよね。そのときの残されたマリーナが昔を回想する……という話になる予定でした。 ふわりと風が吹く。その先をマリーナがふと見るとクレイとパステルがいて、風はこの二人から来ているのかもしれない……って感じる。 そういうイメージでした。 いろいろいじくっているうちにこの形に落ち着いたのですが。 「風」が意味するものは、読んだ方がそれぞれ感じてくださればうれしいです。 ものすごく綺麗な春の雨を見たことがあります。一粒の雨、という感じが全くしないのです。一筋の、雨。 ときどき、忘れかけていた傷がうずくことがあります。そのたびに「あれ? まだあのときのことが引っかかってたのかな」なんて思ったりします。 「あなたたちといればいるほど孤独になってしまう」…… この話、マリーナの強さや弱さを考えるのにすごく気を遣いました。マリーナって書くのがすごく難しいです。 |