……本当のこと。言ってしまえば楽になれるのかもしれない……
部屋のドアを開けて、ぐるりと見渡す。トラップはそのどこにもいなかった。 「トラップー!」 わたしを地面に下ろすと、トラップはいつもの調子で口を開いた。 「やっぱりおかしくなっちまったのかよ? 近頃の風邪は頭にきちまうのか?」 「それより。ねえ、トラップ。もう一度訊く。本当に、わたしからチョコレートもらってないの?」 「うそ。それがほんとなら、ちゃんとわたしの目を見て言ってよね。だいたいトラップ、さっきからもらってない、知らない、って『ない』としか言ってないじゃない。だったらどういうことなのかちゃんと説明してよ! そうじゃなきゃ納得いかない」 そう言うと、トラップは明らかにさっきまでとは違う様子で目をみはった。 聞きたかった言葉のはずなのに、心臓がどきりと震えた。 「ずっとさ、おめーはクレイのことが好きなんだ、って思ってたから。そんでもって、クレイの気持ちにも気づいてた。だから俺は、ずっとおめーに対する……パステルに対する気持ち、抑えてきてた」 「だから、なかったことにしようって、これまで以上に気持ち抑えつけてた。うそついて、……わざと、おめーの気持ちがクレイに向くようにしたりして。でもあのとき、パステル泣いちまっただろ。そんとき気づいたんだ。俺のしてることは、自分の気持ちだけじゃなくてパステルの気持ちまで否定しちまうことなんだ、って。でも、そのころには引っ込みつかなくなってた」 「とーぜんだよ。わたし、たくさん泣いたんだよ。いっぱいいっぱい悩んで、苦しかったんだよ。……でも、それでも……」 「いいのかよ? 俺、自分に自信持てないぜ。いっぱい泣かせちまうかもしれない。怒らせるかもしれない。後悔しないか?」 ホワイトデー。 一番大切な人に気持ちを返してもらえたから。だから、もう少しだけ側にいたい。 ……側にいてほしい、それがたったひとつの望みだから…… 〜END〜 |
この話を書いたのは高校受験直後で更に他創作と同時期でした。 だからかなりきついスケジュールだったのですけれど、もっと無謀なことにはこの話は高校受験当日の11日から始める予定だったのです。 一日時間が過ぎるごとに話の中でも一日ずつ時間が過ぎていく、というのは一度やってみたかったのですけれど、どれだけ大変なのか身をもって教えられました。これは書くスピードがよっぽど速くないと自分の首を締める結果にしかなりません;; あげたはずのチョコレートを相手がもらっていないと言う、といったネタは洗濯物を干しながら思いつきました(なぜかは謎)。 でも、パステルも悪いんですよね。誰にも突っ込まれませんでしたけれど(あからさま過ぎたのかな(爆))わたしなら突っ込むことがひとつありますから。 クレイは「鈍い、鈍い」って言われてますけど、自分に向けられる想いには鈍くても誰かに向けられた想いには結構鋭いんじゃないかな、な〜んていうドリームがありまして、それで今回クレイにはちょっと大人な(?)ところを見せてもらいました(笑) トラップがチョコレートをもらっていない、と言った理由。これに落ち着くまでに苦労しました。でも思ったよりも何とかなったので良かったなあ、と(爆) 「男の友情ですね」という感想を公式ページ小説掲示板(当時)にUPした際にいただきました。う〜ん、本人に自覚はなかったのですけれど確かにそうかも。でも男の方の視点から見たら、また違ったりするような気もいたします。むむむ。 |