「う〜ん……」 わたしは鉛筆を口元にやりながら考えこんでいた。 机の上には原稿用紙。半分ほど埋まったところで、文は途切れている。 今、わたしは、まだレベルが1とか2とかのときの冒険談をまとめていた。もうほとんど書きあがっていて、あとはラストシーンだけだ。それなのに、どうしてもその部分だけが書けなくて、筆(というか鉛筆)が止まっているのだった。 なのになのに、どうしても文に出来ない。特に、その微妙な色。 「う〜ん……」
外に出ると、やわらかな香りがわたしを包んだ。 「あれ? パステル、どうしたんだ?」 「クレイ。なんでもないよ、単なる気分転換」 「ふう……」 「パステルはさ。どうして文章を書くんだ?」 「それに、わたしが見た、感じたいろんなものを誰かに伝えたいから。わたしも、いろんなものを本とかに伝えてもらったから」 「たとえばさ。ものすごくきれいな景色を見たとするだろ。 クレイはゆっくりとそう言った。 「伝えたいものは同じでも、表現の仕方はいろいろあるだろ。それと一緒で、伝えたい想いもみんな違う。パステルは何を伝えたい? クレイはもう一度わたしの顔をのぞきこんだ。 その瞬間、不思議なほど鮮明に、あのときの気持ちが心によみがえってきた。そうだ、わたしはどう表現するかにこだわりすぎていたんだ。あの夕焼けはしっかりと心に焼き付いていたけれど、そのときの気持ちを忘れかけていた。 あのとき、あの道の途中で。 「ありがとう、クレイ。なんだか書けそうな気がしてきた」
目を閉じて、ひとつ深呼吸。 『まったくトラップは乱暴なんですからねえ』 ……みんなのあのとき言った言葉が、ひとつひとつ浮かんできた。 わたしは鉛筆を手に取ると、原稿用紙を一マス一マス埋めはじめた。 〜END〜 |
これを書こうと思ったきっかけは、友人が撮っていた空の写真でした。彼女の感性がそのまま閉じ込められたようなきれいな写真で。 それを見たとき、「わたしならどうやってこの空を表現しようとするだろう?」と考えたのをそのまま話にしました。 モノ書きとして忘れたくないこと。クレイならこう言ってくれるのではないかな、と思って……。 でもわたしの表現の方法はやっぱりこうやって文章を書くことなのだろうな、って思います。わたしは絵が描けなくて、何かの表現は全て自分の書く文章に頼ってしまいますから。未熟さが先にたって、どれだけ伝えられるかはいつだって不安で、それでも、やめたくない。 やっぱり。絵であれ文章であれ、自分をしっかりと表現できる人はすごく尊敬します。 |