〜 PASS EACH OTHER OF HEART <3>〜

 森に着くと、トラップが手を離した。

「い、一体何しようって言うのよ!」
「わりぃ、オレが悪かった」
「へ?」
 ずいぶんと間の抜けた声を出してしまったのは、トラップが突然謝ったからだ。
「オレ、勘違いしてたみてーだな。あいつ……女だったんだろ」
 あいつ……?
「ここに来るとき、本人と話した。あいつ良いやつじゃねーか」
「……何のこと……?」
「はぁ? おめぇ、わかってないのか?……ほら、あいつ――アレックス」

「な、なにぃ? もしかしてトラップ、彼女のこと男だと思っていたわけぇ?」
 思わず笑ってしまった。
 そっかぁ……そうだったんだ。それで――。
 トラップも苦虫を噛みつぶすように笑っていた。
 わたしたちのわだかまり、溶けたのかな? そうだといいな。

「ねぇ、トラップ」
 ついでに聞いてしまえ、と言うわけで。
「猿芝居って誰のこと? お節介ってどういうこと?」
「…………」
 笑顔が凍り、トラップは黙ってしまった。
「ねぇってばっ!」
「クレイ」
「クレイ?」
 オウム返しに聞いた。確かにクレイは変だったけど……?
「ああ。あいつら、余計なことしようとしやがったんだぜ」
「余計なことって?」
「……おめぇ、わかってねーのかよ?
 ――あいつら、おめぇとオレを仲直りさせようと企んだんだぜ」
「えっ?」
 なるほどね。道理でふたりとも変だったわけだ。わたしはともかく、トラップを騙そうって言うのはちょっと無理だったんでは?……ああ、言っていて悲しい……。

「無駄骨おったわけだな」
 トラップがにやりと笑った。
「――ううん。わたしは有り難かった。でも……トラップ。責任とってよね!……わたしを悲しませた責任!」
「…………」
「トラップ?」
 トラップを見つめると、彼は風のように動いた。

「……おめぇさえよければ――」

 顔を寄せ、耳元で囁く。

「え……?」

 トラップが走り出した。わたしはそれを追いかけた。
 一陣の風が木々をあおっていく――。

 

 ――いつもおめぇのそばにいる。……おめぇさえよければな――

 

 その言葉と、振り返ったトラップの、ゆでタコのような真っ赤な顔は、一生忘れない。
 忘れるもんですか!   

END

 

YURI’S トーク

 クルミさまと知り合ったのは、かつての深沢先生の公式ホームページの小説掲示板でした。そこでクルミさまの書かれていた「1日だけ、16歳」のあらすじ書き職人募集に図々しくも名乗り出た際、そのお礼として頂いてしまったのがこの小説です。
「リクエストはありますか?」
の問いに、
「それじゃあ……切なくって甘々なトラパスを……。それで、『切ない』っていうのは『気持ちが伝わらないもどかしさ』にしてください」
 ……更に図々しさ大爆発のリクエストをしてしまったわたし(爆)
 こんなわがままなお願いをこんなに素敵な創作にしてくださって、ありがとうクルミちゃん!!!
 感激です〜(ToT)

 さてさて。勘違いしてやきもち焼いてるトラップがかわい〜〜(はぁと)
 夜遅くまでパステルは帰ってこなかったんですよね。ってことはトラップは何を想像してたんだろう?(殴)
 クルミさまのお話は感情の表現がとっても豊かで。
 今回もパステルの揺れ動く感情がとってもよく伝わってきてこっちまで切なくなってしまいました。
 トラップの「悲しませた責任」のとり方には……おもわずにんまりしてしまいましたし(笑)
 これって遠まわしなプロポーズなんですかね?v

 

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