夢天幻想譚 シリーズ

角川スニーカー文庫 全5巻

 

おおまかなお話

 輝炎国の《星見役》を務める男・タオは《星見台》から現れた腰から下は鳥、上半身は人間という姿の迦陵頻伽より赤ん坊と琵琶を託される。
 月日は流れ、その赤ん坊・ハルギは18歳に成長し、輝炎国一の楽士とうたわれていた。しかし彼は両性具有という自分の体に悩んでいたのである。
 そんなある日、《星見台》から無数の化生が飛び出しタオが倒れてしまった。女帝に命じられて化生退治に行くことになるハルギだが……

りあるの超個人的感想文

 脳天直撃、頭ぐらぐらの脳みそシェイキング、というのが読み終わったときの感覚でした。
 とにかく、どんでん返しの繰り返しです。最後の最後まで気が抜けません。「騙された……」と思わず呟いてしまったほどです。
 内容について語ってしまうと面白さが半減してしまうし、ネタばれしないと作品について語れないし……う〜む、難しいですね。
 なんというか、世界の広がり方がすごいです。とにかくぐいぐいと広がって行きます。途中で置いて行かれないようにするのが大変でした。

 人の儚さや醜さ。そして強さやあたたかさ。
 相反するこれらのものを深く描いた作品だと思います。
 特に「儚さ」。世界のスケールがどんどん大きくなって行くごとに、それを強く感じずにはいられませんでした。この世の絶対的なものが何なのかは分かりませんけれど、そういった力の前ではあまりに無力な感じがして、そして愚かで。
 何があろうとも、そういった儚さや醜さを目の当たりにしても、人間でありたいと望むハルギが良かったです。絶望するだけではなく、同時に希望も感じている。それは育ててくれた人間がタオだったからなのかもしれません。強く、あたたかな人。彼の人柄はすごくほっとしました。

 タオだけでなく、イエリも強い心を持った人だと思います。タオの妻であるイエリ。彼らがいなければハルギは人間に絶望していたかもしれません。そして、ハルギを支えつづけたエンホァン。彼の人間くささというか、そういったものに強く惹かれました。
 ハルギの妹のリーライには泣かされましたし。
 何もかもを悟り、自分の信念を貫き続けたジンもすごかったです。彼の最期のセリフは……すごく深いところを感じさせてくれました。
 この世が儚いものであったとしても、その中で精一杯生き抜こうとする者たち。自分の胸の中にある、たったひとつの大切にしたいものに従って。哀しくて、それでいて眩しかったです。

 ラストのシェンリーのセリフは個人的に一番の名セリフではないかと思っています。
 このセリフが全てを表している気がして……。
 このセリフに出会うためにこの話はあるのかもしれない、なんて思いましたし。
 大きなスケールの作品だからこそ、一番近くにあるものを感じられる作品だと思います。

 

「混迷」へ / TOPページへ