寒い夜だった
外を見てみれば一面の雪景色
そんな白い世界を優しく照らす月や星の光り
「トラップなんてキライっ・・・アンタなんて・・・大嫌い・・・っ!」
「大嫌いで結構、オレだって別に好きじゃねえよ!」
「・・・っ・・・もういいっ!!」
あふれた涙を拭おうともせず、パステルは部屋を飛び出した。
「おいっ、ちょっと待てよ!」
慌てて後を追おうとしたトラップは・・・足を止めた。
いつもの事ではあるが、自分のちょっとした一言があの少女を泣かせてしまう。
そう、今回もちょっとした一言。
少女は一つのリボンを大切にしていた。
何の飾り気もない、白く細いリボン。
それを薄いブルーの小さな袋に大切に入れていたのは知っていた。
少女が可愛がっている小さなエルフの少女に、
「これはね、私の大切な人がくれたんだ。」
と語っていたのも知っていた。
疑問だったのは、少女の言った『大切な人』。
その答えが分からなかった。
別に対した事はないと思った。
知らなくたって関係ないと思った。
いや、そう思いたかっただけなのだろうか?
『大切な人』
その言葉が頭から離れなかった。
『大切な人』
どうしてこんなに気になるんだろう?
『大切な人』
アイツノ大切ナ人?
ふと浮かんだのは、白いリボンを愛しげに見つめていた少女の横顔。
・・・・・っ!
何度もリピートする言葉。
いつでも思い出す事のできる少女の笑顔。
『大切な人』
気がついてしまった自分の気持ち。
それは・・・できるなら、ずっと知りたくなかった思いなのかもしれない。
自覚したら、もう元には戻れなかった。
いつものように振る舞う事すら忘れてしまう。
少女が言った。
『トラップにはいないの?大切にしたい人とか大事な人とか・・・』
白いリボンを指に絡めながら。
『別に、いてもいなくてもお前にはカンケーないだろ?』
なぜか心が痛かった。
『そ、そりゃぁ関係ないけどさ・・・。そんな風に言わなくたっていいじゃない。』
少しすねたような表情。
『ほんとにカンケーないから言ってんじゃねぇか。』
頼むから、これ以上追いつめるな。
『むっかぁ・・・。可愛くな〜いっ。』
無意識の拷問。
『でもさぁ、そういう人がいるのっていいよね♪なんか、心の支えになるじゃない?』
きっと、本当に無意識。
『その人のためにがんばろうって気持ちになるんだよね。』
止めろ。
『私もコレ見るたびに〔がんばらなくちゃっ〕て気持ちになるんだ。』
止めろよ。
『そういうさ、誰かを思う気持ちっていいよね。』
やめろって言ってんだろ!
『そういえば、トラップには話したことなかったよね?このリボンってね・・・』
『どうせ、どっかの男にでも貰ったんだろ?』
「・・・え?」
どうしてこんな言葉が出てしまったんだろうか?
でも、出てきた言葉はとまらない。
溢れ出した感情もとまらない・・・っ!
「お前、男からのプレゼントなんてあんまないんだろ?だから大切にしてんだろ?」
「ちょ・・ちょっと、ト・・・」
「クレイかギアか・・・それとも他の誰かか?」
自分の言葉が彼女を傷つけている。
オレは自分の感情を押し付けている。
言葉のナイフが彼女を酷く傷つけている。
今まではこんな事言ったことがなかった。
こんなにも・・・自分勝手な言葉を言ったことはなかった。
自分でもわかっている。
最低だ。
「付け上がるのもよ、程々に・・・」
高く音を立てる頬。
「・・・ってぇ・・・っ」
正面を見ると、手を振り上げたまま・・・。
容赦なく溢れ出している涙。
それを見たとき、叩かれた頬より違うどこかが痛かった。
まあ、あまり関係はないのかもしれないが。
パステルが出ていった扉を見つめ、トラップはため息を吐いた。
「・・・オレも案外ガキだよな・・・」
額に手を当て軽く笑う。
そのままベッドに倒れ込む。
「・・・・・・・」
そして頭に浮かぶのは彼女の顔。
ただ、笑顔じゃなくて・・・先程の涙。
怒りを通り越した悲しみ。
胸が痛い。
ふと、窓の外を見る。
つい昨日まで雪が降っていた。
そのため、夜ともなればかなり冷え込んでいる。
それにもかかわらず、あいつは外に出していった。
コートも着ずに?
「・・・・・・・・」
起き上がり、パステルのコートを取る。
「・・・ぁンのバカ・・・っ!」
知らない間に足は走り出して、部屋を勢いよく飛び出した。
自分のコートを取りに行く暇なんてない。
一人の少女を探し、街を走りまわる不器用な少年。
寒さに震えながらも懸命に走った。
早く・・・早く見つけて、自分の気持ちを・・・。
この腕で彼女を・・・っ!
寒い夜だった
外を見てみれば一面の雪景色
そんな白い世界を優しく照らす月や星の明かり
今夜も・・・星がキレイだった
...FIN
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