1月にもなると、夜はかなり冷え込む。
息をするのも寒くていやになるくらいだし、顔とか足の、
直接外の空気にさらされている部分なんて、肌が切れるように痛い。
「おめーがもっと早く書き上げてりゃ、こんなサムイ思いしなくても済んだのによお…」
と、となりでトラップがブツブツ文句を言っていた。
彼も相当寒いらしくて、ポケットに両手をつっこみ、ブルゾンの襟を立てて、
首をすくめるようにして歩いていた。
いつもならこのセリフに反撃の一つもしたいところだけど、
うう、今日はその通りだから何も言い返せない。
そうなんだ、今日はいつもの連載の〆切日だった。…というか。
実際には〆切はもうとっくに過ぎていて、ギリギリ今日の夜中の12:00まで、
いつもの印刷屋さんのご好意で待ってもらっていたんだ。
ああ、こんなに苦労したのは今回が初めてだった…。書けたのがキセキのよう。
「おい。聞いてんのか?」
シルバーリーブは小さな町だから、夜中にもなるとかなり真っ暗。
『女の子1人じゃ危ないから』って、最初クレイが言ってくれてたんだよね。
でもその時もうクレイパジャマだったし。
今から着替えてもらったんじゃ間に合わないから急いで1人でいってくるね、ってドアを開けた時、
カジノ帰りのトラップがちょうど帰ってきたんだ。
で、そのトラップを引っ張って、印刷屋さんに行って原稿をわたして、今に至る…。
と、こういうわけなのだった。
「おい。お前…。俺をこんなさみー中連れ回しといて、何か思わないわけ?」
あ。びっくりした。
いつのまにか隣にいたはずのトラップが目の前に立っていて、
ポケットに手をつっこんんだまんま、わたしの顔を覗きこんでいた。
そうだよね。
わたし、お礼も言ってなかった。
「ごめんね、トラップ。今日はつきあってくれて、どうもありがとう」
って、素直に言ったのに、トラップは不服そうな顔をして、
「それだけ?」
って言った。
そ、それだけ?って…。
「じゃあ、どうすればいいのよお」
そしたら、その姿勢のまま、ニヤリと笑って、こう言った。
「キスして欲しい」
…ットラップ――――――ッ!!!???
何、何考えてんの!!!???
冷えきってた顔に、一気に血がのぼるのがわかる。
「だってよー、いつも俺からばっかでずりーじゃん。だから」
そ、そりゃそうだけど!!
でもだってそれはそういう雰囲気っていうか、なんていうか……。ねえ?
「なあに、うにゃうにゃ言ってんだよ。ほれ、来い」
トラップが、くちびるの前、人差し指で『こっちに来い』の合図をする。
ああ、逃げられない。
トラップの前髪が、わたしのおでこにかかる。
ふたりの呼吸が、ひとつになる。
いつもとおんなじで、いつもとちょっと違うキス。
ドキドキした。
ものすごくドキドキした。
トラップも、はじめてわたしにしてくれた時、
今のわたしとおんなじくらい、ドキドキしたのかな。
くちびるの先が、ほんのちょっと触れて、すぐに離れた。
あ。なんか、顔が見れない。
なんだか、ものすごく照れてしまった。
どうしよう。トラップ、なんか言ってよう。
次の瞬間。
トラップは言葉のかわりに、
『チュッ』って音がしそうな軽い軽いキスをわたしにした。
「なっ…ずるいふいうち――――ッ!!!!」
「別に俺からしねーとは言ってねーよっ」
トラップ、舌をべえって出して、すっごくいい顔で笑った。
でも、耳まで真っ赤なのは、見逃してないからね?
〜END〜
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