恋愛にキクくすり    by ぬ〜ぴ〜さま

 

「じゃ、トラップ行ってくるからね」
「いってくうおう!」
「なんかみやげ買ってきてやるからさ!」
「トラップあんちゃん、早く治るといいデシね……」
「ぐふぐふ。ベッドのそばに薬を置いときましたからね。飲めばすぐに治るでしょう。
 まあ効けばの話ですがね。ぎゃははははっは」
「トラップ、お大事にな」
 あーもう、うるせー!!!
「いいから……早く……いけよ……!」
 しゃべんのもつれーぐらい頭がガンガンする。

 きょうはシルバーリーブで年に一度開かれる祭りの日だ。
 けど、おれは昨日から風邪をひいちまった。
 ったくざまねーよな。おれが病気になるなんて。
 あいつらを見送ったあと、おれはみすず旅館のベッドに寝っ転がった。
 関節がアチコチいてー。
 そうだ。キットンのくれた薬でも飲むか。
 しっかし、この色なんとかなんねーのかよ。
 緑と紫を混ぜたようなグロテスクな色。どう見ても飲み物にはみえねーよな。
 まあ、しょーがねーか。これ飲まねーとなかなか治りそうもねーし。
 おれはその怪しげな液体を一気に口にいれた。
 うっ!!げろまじー……。
 吐きそうになるのをなんとかこらえてやっと全部飲み込めた瞬間、ものすごい眠気がおれを襲った。

******************

 コトコトコト。なべの中身が沸騰して、ふたが動いてるような音がした。
 おれはまだ半開きになった目をこすって起きあがった。

「あ、よかったあ!!起きたんだね。これ、おかゆつくったから」
 そういえば、おれキットンの薬飲んでなんだか急に眠くなっちまって……。
 ってなんでパステルがいるんだよ?
 パステルはおれの疑問がわかったのか
「クレイたちはまだルーミィたちをお祭りに連れてってあげてるのよ。
 わたしはトラップのこと心配だったから帰ってきたけど」
といっておれにおかゆを差し出した。
 腹減ったな。そういえば。
「べつにおめーに心配されるほどのもんじゃねーよ。ったく人が気持ち良く寝てたのによー」
 おれは、おかゆを食いながら、パステルにそう言った。
 口ではこういったけど、ほんとは感謝してる。けど、おれはそれを表面にだすのが苦手だから、ついこういっちまう。
「なによー、かわいくないわね!」
 案の定パステルは頬をプーっとふくらましてこっちを見た。
「けっ!そうだ、おい!みやげねーのかよ?」
 おれは食い終わったおかゆのうつわをおいて、パステルに手をだした。
「あるわよ。ちょっと待って」
 パステルはそういってごそごそと何かを取り出した。

「はい!かわいいでしょ!?」
 パステルが差し出したそれはブタのぬいぐるみ。
「……あんだよ。これ」
 おれはそのブタをつまんでジトーっと見た。
「これね!わたしがクジでとったの!!かわいいでしょー?」
 これがかわいいかあ?まぬけな顔にしかみえね−けど。
「おめーみてー。このアホ顔」
 そういうとパステルは顔を真っ赤にして
「な、なによ!そのアホ顔って!!風邪ひいてるくせに口だけは達者なんだから!」
といっておれを叩こうとした。もちろんそんなのヒョイっとよける。
「パステルちゃん、ぶったらブタによく似てる♪」
「なんですってぇ!!!」
 パステルがおれに食って掛かろうとしたとき、窓の外で花火を打ち上げる音がした。

「うわ……きれい……」
 パステルはおれの服をつかんだまま花火を見つめていた。
 今日は外が曇ってたから、月や星もよくみえねー。
 そんな漆黒の空に光でできた一輪の花。
 そっか。だから花火っていうんだよな。
 光は曲線をかいて消えていく。
 一瞬の美しさ。それを閉じ込めることは不可能だからこそ、余計におしくなっちまうのかな。
 って、なに詩人みたいにひたってんだ?おれ。
 なんか変だぞ。いつものおれらしくねー。
 ふと気づくとパステルの顔がおれのすぐ近くにあった
 思わず心臓が早くなる。と同時に顔に熱が帯びてくるのがわかった。
 ……なんでおれがパステルなんかにどきどきしなくちゃなんねーんだよ!

「トラップどうしたの?顔赤いよ?」
 パステルが不思議そうにこっちを見た。
「な、なんでもねーよ!風邪ひいてんだから顔赤くてあたりまえだろ」
 おれはぶっきらぼうにそう言い放った。
「そう?そういえば少しは楽になったの?」
 …そういや体は全然だるくねーし、関節も痛くなくなってる。
 キットンの薬効いたみてーだな。ま、あれ飲んで効かなかったらサギもいいとこだけどよ。
 けど、いま「治った」なんて言ったら「じゃあなんで赤くなってるの?」とか言いそーだしな。

「……まだ完全には治ってね−みてー」
 おれがそう言うとパステルはちょっと考えてこんな恐怖の一言を言った。
「じゃあ、キットンの薬また飲もうか……」
 ちょっと待てよ!!あれだけはもう一生飲みたくねー!!
「パ、パステル。おれもう治った……!」
 けど、パステルはキットンの薬をおれの前にだして無情にもこう言った。
「うそいってもだーめ!はい、飲んで!」
 うそはさっきの方だっつーの!この鈍感女!
 えーい!もうこうなったら飲んでやるよ!
 おれは一気に飲み干すと同時にまた眠気に襲われた。
「ちょっと、トラップ!こんなとこで寝ないでよ!」
 なんだか遠くから聞こえてくるパステルの声がみょ−に心地よかった。

 〜FIN〜

 

YURI’S トーク

ぬ〜ぴ〜さまがとある企画の際に書いてくださった原稿の、もう一つのネタだそうです。おねだりしていただいてしまいました♪
これを一人占めするのはかなりもったいないですよね!! 掲載許可をいただいたので載せちゃいます♪
ありがとう、ぬ〜ぴ〜ちゃん★

書かれた本人は恥ずかしいとおっしゃってましたが、そんなことないですよ!
ほんのりな風味がとっても良いです♪
素直になれないトラップが、ちょっとだけ感じた不思議な気持ち(笑)
いくらキットンの薬でも、この気持ちには効かないに違いないでしょう(笑)
素敵な創作をありがとう♪

ちなみに裏設定では
「トラップはきのうカジノで大負けして、猪鹿亭でせんざん飲んだあと、そのへんの道端で寝てしまったので風邪をひいてしまった」
んだそうです(笑)

 

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