星の大地 シリーズ

角川スニーカー文庫 全3巻

 

おおまかなお話

 砂漠を隔てて対峙する大国レーンドラとユハリシュ。大陸制覇を求める二国の争いは長く続いていた。
 レーンドラの王女、サウラに仕える侍女・アゼルは突然のサウラ自殺の報に驚く。しかし更に驚いたことにはサウラはレーンドラの秘術で生き返らせられるというのだ。生き返ったサウラは別人のように変貌し、「聖女」と呼ばれる所以であった予見の力もなくしていた。
 死ぬ直前のことを全く覚えていないサウラの、最後の記憶に残る美貌の男。唯一の手掛かりである彼を探してアゼルとサウラは旅立つ。
 ちょうどその頃、大陸の各地では美しき予言者が「災厄」――この世の終わりを説いていた……。

りあるの超個人的感想文

 個人的に、世紀末に出会ってよかった、と思えた本です。ひとつひとつの言葉が、わたしたちの甘い「世紀末思想」に疑問を投げかけてきます。
 そして、胸に突き刺さり疼きます。

 この話に出てくる人たちは皆、精一杯の今を生きぬこうとしています。
 主人公のアゼルはもちろん、サウラ、マリク、ロペス、シャザル。そしてザヴィア。
 歩む道もとる方法も違えど、彼らの胸にあったのは今を生きることでした。そして、より多くの人の明日でした。
 何ができるのか、なんて考えるより先に、今できることを精一杯やりぬこうとすること。
 彼らには絶望している暇なんてありませんでした。ただひたすら、明日を見つめていました。それが眩しくて、ちょっと痛かったです。

 ちょっとだけ余談ですが。
 以前、ギリシャの科学者たちが大地震を予想したことがありました。マスメディアが大きくその予知を取り上げ、国民の避難をうながしたのにもかかわらず、政府はそれを無視し、国民に「この予知を信じてはならない」と言ったのだそうです。予想通りに地震は起きたのですが、多くの人はすでに安全な場所へ逃げていたため、死者は最小限に抑えられたのだということです。
 この話だけを聞くと、「政府は何を考えているんだ」と思うかもしれません。わたしも多分、「星の大地」を読んでいなかったらそう思っていたでしょう。
 けれど。この話がユハリシュの女王・イドリスのセリフに重なったわたしにはギリシャ政府に怒りを感じることができませんでした。
「女王として災厄を認めるわけにはいかなかった」……彼女とセベリナの会話でのセリフです。アゼルたちとは別の立場に立つがゆえに、別の位置から人々の幸せを思うがゆえに。あえて憎まれるしかなかった彼女。
 また、ザヴィアも。人々を救うためにアゼルたちとは正反対の方法を選んだために、強すぎる意思を貫こうとしたために。
 彼の最期には泣きました。そして、予言者との会話も。

 全てを知る予言者のセリフはあまりに痛いものばかりです。穏やかだからこそ、余計に突き刺さります。
 自分の弱さを、愚かさを、強く強く感じずにはいられません。
 そして自分なりに、今を生きることの大切さを噛み締めずにはいられないのです。

 「新世紀」です。1999年の7の月はもうすでに終わってしまいました。
 今、できることはなんでしょう? 甘っちょろい思想にすがって、どんな形であれ「今」が変わることを望み続けることでしょうか?
 愚かさに呆れて、明日を望むことを放棄する前に。この世の終わりを認める前に。
 一度立ち止まって、必死になれるものをすくい上げたい。そんな気持ちにさせてくれます。

 

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