COUNT DOWN

 

「カウントダウンだぁ?」
 トラップは呆れたような口調で言って、それから抱えた枕の上に顎を載せた。
「なんでまた、んなことしなくちゃなんねーんだよ?」
 めんどくせー、とため息をつく。

「なんで、って。新しい年になるのをみんなでお祝いするからじゃない。ほら、みんな外で待ってるんだから」
 わたしはそう言って、トラップの腕をひいた。でもトラップはその手を振り払ってわたしの顔に人差し指を突きつけた。
「あのな、新しい年になるっつったって結局は明日が今日になるだけのことだろーが。そんなもん毎日体験してることだろ? それじゃ何か、おめーは毎日、日付が変わる瞬間にカウントダウンするってか?」
「うっ……しない、けど」
「だったら今日もする必要なし! おれは眠いの。行きたかったらおめーらだけで行きゃいいだろ」
 邪険に手を振って、トラップはまたベッドの中に潜り込んでしまった。う〜、なんか悔しい!
 でもこうなったら、トラップはてこでも動かない。どうやったって目を覚まさない。

 はぁ、結局無駄足なの〜?

 わたしは仕方なく部屋を出て、みんなが待っている旅館の外へと向かった。もう真夜中に近いし、みんなコートを着てるとはいえ絶対寒い思いをしてるだろうな。
 トラップのせいなんだからね!

 

 今日で今年は終わって、明日から新しい年になる。だから、その年が変わる瞬間をみんなでお祝いしよう! ってことでシルバーリーブの広場でカウントダウンをすることになったんだよね。それでわたしたちも行こうってことになったんだけど。結局、トラップ抜きのクレイ、ノル、キットン、ルーミィ、シロちゃん、そしてわたしで行くしかなくなってしまった。
 今日という日ももうすぐ終わるから、広場にたくさんの人が向かっている。トラップは全然特別なことじゃない、って言ってたけど。でもこれだけの人と新しい年を祝うってことは充分特別なことなんじゃない? あ、なんだかイライラしてきた。

「どうした?」
 わたしがちょっと怒りモードに入りかけてたのに気づいたのかな。ルーミィをだっこしたクレイが気遣うように顔を覗き込んだ。
「ぱぁーるぅ、元気出すんだお! もうすぐあたぁーしい年なんだかあ!」
 ルーミィもわたしの頭をぽんぽんっと叩いてそう言ってくれた。ふわっとイライラがどこかに行ってしまったのが分かる。なんだかまだ釈然としないけど、でもあんなやつのこと気にしなくったっていいよね。
 お昼寝したからか元気いっぱいの目でわたしを見上げるルーミィに、わたしはにっこり笑った。

「そだね! よし、元気良くカウントダウンしよう!」
「わんデシ!」
 足元でシロちゃんも元気良くほえた。ほえる、ってほどもなくってかわいらしい声だったけど。
「なんだか、もう少しみたいだ」
 ノルが広場の中央を指差してそう言った。そこにはちょっとした時計台があるんだよね。
 確かに、時計の針が新年まであと三分というところまで迫ってきていた。

「そうですねぇ。そろそろ、カウントし出すんじゃないんでしょうか?」
「それじゃルーミィ、大きな声でカウントしようね」
「わぁったお! じゅ〜う! きゅ〜う! は〜ちぃ……」
「わわっ! まだだってルーミィ!!」
 クレイが慌ててルーミィを止める。広場のあちこちからあたたかい笑い声が上がった。

「新年まで、あと一分です!」
 大きな声がそう告げた。確か三十秒からカウントが始まるから、ほんとにもう少しなんだ。
「なんだかわくわくしますねぇ」
 キットンが言った。わたしも思わず頷く。なんと言われたって楽しんだもの勝ちだもんね!

「三十、二十九、二十八……」
 カウントが始まった。わたしもルーミィもみんなも、大きな声でカウントダウンする。
「十! 九! 八! 七! 六! 五! 四! 三! 二! 一! ……」

「「ゼロ!!」」

 わたしの声と、後ろからの誰かの声がぴったりと重なった。と同時に、コツンと頭を誰かに叩かれる。
「あけまして、おめでとうってか?」
 振り向いたところにニッと笑ったのは、トラップだった。
「トラップ! どうして来たの?」
「そういう言い方はないんじゃねーの?」
 小さく苦笑してわたしの髪をぐしゃっとかきまわした。わたしはなんだかムッとして、そっぽを向いて言ってやった。

「カウントダウンなんか、する必要なかったんじゃないの?」
「ん〜? そうなんだけど、さ」
 トラップはちょっとだけ困ったように頬を人差し指でかいてから、
「特別なこと、なんだろ? おめーにとっては。あーいう風に言っちまって悪かったかな、なーんて思ってよ」
 またパシっとわたしの頭を叩きながら、照れたようにそう言った。

 およ? なんだか珍しいんじゃない? 新年の初驚きだわ。
 でもわたしは何だか嬉しくなってしまって。だから今年もいい年になりそうだな、なんて思ったりしたんだよね。

 

 カウントダウンは何かが始まる前のちょっとした合図。せーの、で一緒に走り出すための、心の準備みたいなもの。
 カウントダウンが終わると同時に、新しい何かが始まる。……でも。
 なんでなんだろう? また、新しいカウントが聞こえるのは。何が始まるんだろう? そのカウントが終わったら……。

 

 ――ゼロまで、もうすぐ――

〜END〜

 

 新年モノ、というより、大晦日モノ。おまけに何がしたいのかさっぱりわからない内容。
 つまりは妄想用に使用して頂きたい創作なのですが、これはもう、どんどんどんどん深読みしなくてはそれにも使えないという、どうしたらいいのかサッパリなシロモノのような気がいたします……;;

要は自分としてはラストの文章が書きたいためのものだったのですけれど(笑爆)、でもカウントダウンシーンも楽しんで書きました。これを書いた時点ではこういう感じのカウントダウンはしたことがなかったのですけれど、パステルのうきうき感はそのまま自分のうきうき感です(笑) こーいうイベント、好き。もう少しパーティの皆をしっかり登場させてあげても良かったかな。 

 

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