天高く、雲は流れ シリーズ

富士見ファンタジア文庫 全15巻

 

おおまかなお話

 17歳のとき兄によって政略結婚させられそうになり、それが嫌で家出したエンレッド神王家の次男・フェイロン。6年ぶりにイアルの都に帰郷した彼は兄がどんなに怒るかを想像して苦笑した。
 結婚し、子供であるユンファまで連れて帰ってきたのだから。
 しかしフェイロンにはどうしても帰らなくてはならない理由があった。イアルに大いなる災いが訪れると聞いたからだ。
 それを肯定するかのようにサティス大王家の《家宝》が盗まれてしまい、フェイロンは王女ロスメスタ、魔族のパジャ、そして《家宝》を盗んだ犯人であるユメと共に旅立つことになる……

りあるの超個人的感想文

 巷でよく言われるのが、「冴木忍作品初、主人公が不幸じゃない物語」(笑)。
 ですが、わたしとしては「不幸」というのは見方のベクトルの違いというだけなんじゃないかな、って思います。そしてフェイロンは、「不幸」を「不幸」というベクトルから見たりしない人なのです。決して。

 フェイロンはどことなく蔵人に通ずるところのあるできた人間です。(蔵人よりもお気楽度がパワーアップしていますが(笑))
 普段はひょうひょうとしていて何も考えていないようにも見えてしまうのですけれど、その実は先の先まで見とおしている人なのですよね。
 そして、やっぱり懐が深い人です。大人であっても子供であっても、本気でその相手にぶつかることができる。そしてその相手の心を開かせることができたり、教え諭すことができたりする。人間として、出来すぎているくらいに。

 けれどわたしは周りのキャラたちの、不器用で、思いが食い違ってしまう悲しみというかそういったものに惹かれてしまいました。
 特に、フェイロンの兄であるオルジェイ。物語中ではあんまりいい役回りではないのですけれど、どうしようもなく感情移入してしまうのです。
 彼も、その部下であるテンシャも。その周りにいる術者であっても。
 それぞれが皆、自分の正しいと信じた道を歩み、それゆえにかみ合わないもどかしさがある。
 人が何もかも分かり合うことはもちろんとても難しいことなのですけれど、ここまで食い違うと辛いとしか思えません。
 そしてオルジェイの、亡くなった婚約者アヤレーナに対する想い。これもまた悲しくて、「もしも」があったとしたら……と思ってしまいます。

 もちろん、旅を続ける仲間であるパジャやロスメスタの辛さもあります。
 魔族と、王家の人間。相容れることのできない二つの立場にたつ二人。
 お互いに意地を張るタイプですから余計に辛かったりして。
 彼らが互いの気持ちを認め合い、分かり合えたらそれ以上のことはないと思うのですけれど。なかなか難しいのも事実です。

 クライマックスに向けてのじわじわとした盛り上がりはなかなかのもの。最後の種明かし自体はやや弱く(物足りなく)感じられなくもないのですが、「明日」を感じさせる終わり方が非常に爽やかです。
 話の進むペースが緩やかなので、逆に一気に読むことをオススメします。

 

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