空も飛べるはず。<8>〜alone in my room〜

 

 自分の鼓動しか聞こえない。息をすることもわずらわしいくらいだった。
 ただひたすらに足が動く。もつれそうになるのを必死でこらえながら、ただひたすらに大地をける。
 左腕には熱い痛み。熱を持って体を駆ける。それすらも振り払うように足は動きつづける。

 逃げなくては……。

 何が体を動かしているのかも分からない中で、それだけははっきりと分かった。だが何から逃げればいいのだろう? どうして逃げなくてはならないのだろう?
 目の前には、ただ闇。どこへつながっているのか分からない道。
 何も分からない。何も……!!

「!」
 目を開けたリゼイラは、一瞬目の前の暗闇が夢の続きであるように錯覚した。
 息を整えて体を起こす。左腕が熱を持ってうずいていた。

「……夢……か」
 リゼイラは無表情に左腕に右手をもっていった。傷口から伸びた赤い筋をなぞり、そっと傷口に触れる。ひとつ、息を吐き出した。
 左腕の熱い痛みは、すでに彼女にとっては痛みとして感じられなくなっていた。あまりに慣れすぎた感覚になったためか、それは空気のように当たり前にあるものとして感じられるものだった。この痛みは傷のせいなのか、それとも……

 ゆっくりと首を動かし、側に置かれた荷物に目をやった。そこからかすかに光がもれている。夜の深い闇の中でなければ分からないだろうというほどに、かすかで頼りない光。
 もっと強い光のはずだった。いつの間に消えた……いや、『行ってしまった』のだろう?

「何を……『縛り付けた』……? どこに行ったんだろう、あの『光』は……」
 布団をぐっと握り締め、唇をかんだ。
「あいつなら……あたしにはどこに行ったのか分からないけど、あいつになら」
 頼りたくない相手を思い、無力な自分に腹が立った。
 どこに行ったのかが分からなければ何もならない。巻き込まれたことにすら気づかない誰かがいるというのに! 何も知らない者を巻き込んでいるはずなのに!

 唇に血がにじむ。ほのかな光はただただ、闇に溶け込むように静かにそこに在り続ける。

 

 ほのかな(?)お気に入り回です。実はかなり重要な回なんですよね。
 短いだけに、謎密度濃度は普段の倍以上。描写不足だと言わないで。。。(滅)
 サブタイトルは鈴木あみさんの曲からです。ずっと使いたくて仕方なかったものです(笑爆)

 

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