「リゼイラ、包帯かえよっか」
ドアから顔だけを出したパステルにリゼイラは笑って答えようとして……
「ど、どうしたの? そんな大勢で……」
ぞろぞろと部屋に入ってきたメンバーを見て、目を丸くして笑顔をひきつらせた。 しかし笑顔がひきつっているのはパステルたちも同じ。メンバー……パステル・クレイ・トラップ・キットン……のうち特にパステルやクレイなどは頬がぴくぴくと不自然に動いていた。
「あ、あのね、パーティの紹介してなかったな、って思って! 包帯かえてる時間って暇になっちゃうじゃない? だからその時間を使ったらいいんじゃないかな、って!」
あはは、とごまかし笑いを浮かべながらパステルはその「うそくさい説明」をした。本人が動揺しているものだから余計に説得力に欠けてしまう。
もちろん、「うそ」なのであるが。
リゼイラから話を聞こうということになったものの、彼女に無理はさせられない。悩んだ結果、包帯をかえる時間を使おうということになった。
最初は「包帯かえ要員」としてのキットンと「緊張ほぐし要員」としてのパステルの二人が行く予定だったのだが、
「パステルじゃ表情や仕草から相手のうそ見抜けねーだろ」
そう言ってトラップも行くと言い出した。いわば、「うそ発見要員」というわけだ。しかしこの三人で行くのはどう見ても不自然になってしまう。そこで苦し紛れに出した言い訳が「パーティの自己紹介」だった。
パーティの自己紹介ならリーダーであるクレイが行かないのはおかしい。ルーミィやシロは行けば余計にややこしくなってしまうことからメンバーからはずれ、ノルは二人と遊んでいると申し出た。
そんなわけでこの四人が今、リゼイラの部屋にやってきているのである。
「え……あ、そっか。びっくりした。包帯かえるのにこんなに人いらないもんね」
微笑む仕草はぎこちない。それはこの無理のありすぎる説明のせいなのか、それとも何かを隠しているせいなのか。
(どっちも、ありだよな)
トラップは額を抑えてパステルをどつきたいのをぐっとこらえた。確かに無理のありすぎる言い訳だが……そこまで動揺したら「裏に何かありますよ〜」と宣伝しているようなものではないか。
左腕を差し出したリゼイラにキットンが近づき包帯をかえ始めた。そのタイミングを逃さないよう、パステルは三人を紹介し始めた。
「えっとね、彼がパーティのリーダーでファイターのクレイ。こっちが盗賊のトラップで、今包帯をかえてるのが農夫のキットン。一応農夫なんだけど薬草とかにくわしくってね。リゼイラの手当ても彼がやってくれたんだよ」
三人はそれぞれに軽く頭を下げた。リゼイラも微笑んで頭を下げる。
「あと二人と一匹いるの。巨人族のノルとエルフのルーミィにホワ……じゃなくて」
ホワイトドラゴン、と言ってしまいそうになりパステルは慌てて言いなおした。
「子犬のシロちゃん。この六人と一匹がメンバーなんだ」
パステルの説明が終わると、クレイがリゼイラに話し掛けた。この辺も打ち合わせ済みだったりする。
「リゼイラって言ったよね。君は冒険者じゃないみたいだけど、シルバーリーブに何か用があったわけじゃないんだろ? どこに行くところだったんだい?」
リゼイラは驚いたように少し瞬きしてそれからパステルを見た。
「パステル、さっきの話なんだけど……」
言いかけたのを手で制したのはトラップだった。
「とりあえず、話聞かせてくんねぇか。事情聞かなくちゃこっちもどうしたらいいんだか分からねーし。腕の傷、おめぇが思ってるほど浅くねーんだぜ?」
トラップの言葉にキットンは頷いた。手当てをしなおし、包帯を巻きつけながらリゼイラに言う。
「パステルの申し出を断ろうと思ってるのかもしれませんがね、どこに行くにしてもこの怪我だったら一人で充分に動き回ることなんてできませんよ」
リゼイラは少しの間下を向いて何か考え込んでいる様子だった。しばらくして、ゆっくりと顔を上げて口を開いた。
「あたしは、リーザリオンの商家の使用人なんだ。ついこの間、買いつけた品物がらみでちょっとしたトラブルになっちゃったんだけど、それの処理をまかされて。これからコーベニアまで急いで行かなくちゃならないの」
「んで? その腕の怪我はどうしたんだ?」
トラップが訊くとリゼイラは苦笑した。
「乗合馬車に乗ったんだけど、そこでもトラブルがあって。馬車が突然暴走しだして振り落とされちゃったんだ。どうしようもなくなって、とりあえず歩き続けてて、そのうち夜になっちゃって、見つけた洞窟に入ったんだけど、天然の洞窟じゃなかったみたいで罠にかかっちゃって、こんなことになったの」
言いながら左腕を指し示す。
「そうか……ここからコーベニアまでって結構かかるよな」
クレイが呟くとリゼイラは
「だから、一人で大丈夫。あんまり気にしないで」
そう言って笑った。
包帯を縛り、あまった部分を切り取ってキットンが立ち上がった。それを見たトラップが口の端を持ち上げてから口を開いた。
「結構かかるからこそ、怪我人一人を行かせるわけにはいかないよな。幸い、金はなんとかなるし、時間も売りてーくらいに余ってるし」
パステルをちらりと見る。……ちゃんと話を合わせてくれよ……意味ありげに片目をつぶってみせた。
「そ、そうね。大丈夫、まだお金に余裕はあるから」
戸惑いながらも、パステルはトラップのセリフの後半に答えた。トラップは何を考えているのだろう?
「そんな……やっぱり、迷惑かけるわけにいかないし」
「大丈夫だって。とりあえず、あんたは怪我を治すのに専念してな。さて、と。怪我人をあんまり疲れさせてもいけねーし、そろそろ行こうぜ」
なおも断ろうとするリゼイラに背を向けて、トラップは三人をうながした。パステルとクレイは困ったようにトラップとリゼイラを交互に見ていたが、仕方なくトラップの後を追って部屋を出た。
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