「彼女の様子、どうなんだ?」
部屋に入るなり、パステルはクレイにそう訊かれた。全員が集まっている。よっぽどリゼイラのことが気になるようだ。
「うん、今さっき気がついたよ。話せるし、体も起こせるし。リゼイラ、っていうんだって」
「もう起きたんですか!」
キットンが馬鹿でかい声で驚いた。部屋中に響き渡った声にみんなが顔をしかめた。「『もう』ってどういうこと?」
「どーゆーことぉ?」
耳を抑えながらパステルが訊ねた。ルーミィも真似して訊ねる。
「いや、あれだけの怪我ですからね。二、三日は眠りつづけてもおかしくないと思ったんです。それにあのぼろぼろのマントを見たら、どこからかは知りませんが歩きつづけてきたことは確かでしょう。体力的にも限界にきているはずです。それなのにもう気がついて起きあがれるなんて……」
「キットンの薬草がよく効いたんじゃないか?」
「それでも疲労までは回復できないはずです。……まあ、回復が早いにこしたことはないんですがね」
「それが『回復』ならな」
ベッドの上に寝転んで頬杖をついていたトラップがそんなことを言った。
「あいつ、見かけによらずタフだぜ。あんだけの怪我して何でもないような顔できるようなやつだ。体の方が限界に近くったってそれを隠しとおすことくらいやりそうじゃねーか」
「そういえば……あのとき、彼女が怪我してるらしいって気づいたのトラップだけだったもんね」
トラップはちょっと馬鹿にしたようにパステルを見た。
「あのな、どれだけ平然とした顔してたって、左手使えなかったらいろいろと不自然な動きになんの。邪魔になるはずのマントをそのままにしてガラス拾おうとしたり、そのガラス拾うのに右手しか使わなかったり。両手が使えるんなら両方使ったほうがどう考えたって効率がいいだろーが」
「あ、そっかぁ」
しかし、そのときの彼女は遠目には全く不自然なように見えなかったのだ。表情だけでなく足取りも普通だった。ぱっと見ただけなら気づかなくて当たり前だ。
「でも、あのときでもう怪我してから一日くらい経ってたんだろ? どの辺りでやられたんだろう。ここから女の人の足で一日くらいだと……」
考え始めたクレイを、ノルが止めた。
「クレイ、彼女は怪我してた。普通の人とは歩くスピードが違う」
トラップとキットンもそれぞれ頷いた。
「それに普通の怪我人が歩くスピードとも違うだろーしな。無理して速めのスピードで歩いてきたかもしれねぇ」
つまり、どこから来て何のためにどこへ行くのかは訊いてみなければ分からない、ということだ。ここで考えても答えは出ない、と。
「リゼイラ、って言ったか? そいつも言いたくなったらそのうち言うだろ。むやみに干渉することじゃねーしな」
聞けば厄介なことになりそうだ、と言わんばかりのセリフに、パステルは「あっ」と声をあげた。
「あのね、彼女が『迷惑かけちゃうからもう出発する、早く行かなくちゃダメなんだ』って言うもんだから、もう少し治ったら一緒に行けばいいって言っちゃったの。まだ目的地は聞いてないんだけど」
みんなの意見もきかないで決めてしまったことをすまなく思いながらそう言った。
「『早く行かなくちゃいけない』? また面倒なことになりそうじゃねぇか」
半分あきらめたように息をついて、トラップは口を曲げた。しかしパステルには彼の言おうとしていることがよく分からない。首を傾げると案の定呆れたような視線が返ってきた。
「どんな意味にしろ、期限があるってことだろうが。タイムリミット考えなきゃならないってのはそれだけで厄介だぜ。ましてや平気で無理をやらかすような怪我人つれてなんてのはな。まあ、その怪我人だけを行かせるわけにも行かねぇし仕方ないけどさ」
最後の言葉にほっとした。なんだかんだ言って結局賛成してくれるということだから。
「でも、とりあえず話は聞かなくちゃな。どこから来て、どこに行くのか。どうして怪我をしたのか、何が目的なのか」
クレイが確認するようにひとつひとつの疑問をあげていく。今の時点では、彼女の名前しか分かっていないのだ。
「でも質問ぜめにするのも悪いよね。あんまりいろいろは話したくないみたいだったし、まだ気がついてちょっとしか経ってないから疲れもあるだろうし」
そんな理由もあって、さっきはいろいろ訊きたいと思いながらもリゼイラの名前しか訊けなかったのだ。あれこれと考えていると、ノルが口を開いた。
「ひょっとしたら、彼女は無理をしなくちゃならない状況なのかもしれない」
「え?」
全員が注目すると、ノルはちょっと照れたように頬を掻いた。
「よく分からないけど、なんとなく。トラップの言ったような『タイムリミット』がせまってるような感じがする」
みんな……状況の分かっていないルーミィさえも……その言葉に顔を見合せた。
|