食堂に入るとクレイが手を振って呼んだ。パステルも手を振り返し、同じテーブルについた。 「また、食欲がないって?」
クレイの問いにパステルは困ったように頷いた。
「怪我のせいなのかなって思ってたけど、そうじゃないみたい。痛みもひいてきたって言ってたし」
「ま、いいじゃねぇの? 本人が食いたくないって言ってんだったら。食欲がない、っていうより食べる気がない、っていうのが近い気がするしさ」
トラップは気にする様子もなくパンを口に放り込んだ。だから心配なのに、とパステルは小さくため息をついた。
「パステルが持っていったらちょっとは食べるんだろ? だったら大丈夫だよ。ちゃんと回復してきてるみたいだしさ」
ぽんと肩を叩いて、クレイ。パステルはちょっと笑った。
「うん、そうだね」
パンに手を伸ばしかけて、ふと思い出しポケットを探った。さっきの光る羽根を取り出す。
「ねえ、これって何の羽根だと思う? さっきリゼイラにもらっちゃったんだけど」
全員がパステルの手のひらに注目した。トラップが口笛を吹く。
「へえ。なんか珍しいもんだよな。何、これがお礼の品? 換金するとそこそこの金になるんじゃねぇの?」
「トラップ! もう、お金にすることしか考えてないんだから。もらったばかりのものを品定めするなんてダメよ!」
パステルがたしなめると、トラップは舌を出して肩をすくめた。
「でも……確かに見たことはないよな。何の羽根なんだろう? 発光してるなんて聞いたことがない。でも加工したものでもないみたいだし」
クレイはしきりに首をひねって考え込んだ。そう、羽根自体はごく普通に見えるのだ。ただひとつ、自ら光り輝いているところだけが違う。強くはあるが、まぶしくはない光。それが辺りをやさしく照らし出している。
ルーミィがぐいぐいと袖を引っ張った。
「ぱぁーるぅ。ルーミィ、見えないおう!」
「あ、ごめんね、ルーミィ。ほら、綺麗でしょ?」
手のひらにのせてあげると、ルーミィは目をまんまるくした。
「うわー、きえいだお!」
一目で気に入ってしまったらしく、羽根を握り締めて振りまわし始めた。
「こ、こらルーミィ! ダメでしょ、食事中なんだから」
「ごめんなちゃーい」
ルーミィは、ぽよぽよの眉毛をしかめながらあやまった。手のひらの羽根をおとなしくパステルに返す。
「あの……」
キットンが遠慮がちに声をかけ、首を傾げながら訊ねた。
「羽根って、何のことです?」
「え? この羽根のことだけど。光ってるでしょ?」
パステルは、羽根をキットンの目の前に突き出した。しかしキットンはますます不思議そうにパステルを見つめた。
「何もないじゃないですか」
「「「「ええ〜〜?」」」」
四人……パステル、クレイ、トラップ、ルーミィは声をそろえて叫んだ。それからお互いの顔を見合う。
「だ、だってここにあるじゃない」
「らって、あうじゃーない」
「キットン、おめぇ目が悪くなったんじゃねぇの?」
「本当に見えないのか?」
口々に訊ねるがキットンは首を傾げたままだ。そしてノルも口を開いた。
「パステル、すまない。おれにも、見えないんだ」
「パステルおねぇしゃん、ぼくにも見えないデシ。なんだかぼんやりとした光ならなんとなく見えるんデシけど……」
ルーミィの膝に乗っかったシロもちょこんと首を傾げてすまなさそうに言った。
「でも……そうだ、持つことはできるんじゃない? だってちゃんとあるんだもの」
言いながらパステルはキットンの手のひらに羽根をのせた。いや、のせようとした。
羽根は、キットンの手のひらを何もなかったかのようにすり抜けて、テーブルの上に落ちてしまったのである。キットンは相変わらず首を傾げたまま、
「何かがあるような感触はないんですが……ちゃんと、のってるんですか?」
四人……ルーミィはよく分かっていなかったが……は黙って首を振った。
「どういうことなんだよ、一体!?」
トラップは落ちた羽根を拾い上げながらわめいた。キットンのときのようにすり抜けたりはしない。きちんと手のひらの中にその羽根はある。
「そう言えば……わたしがこの羽根をもらったとき、リゼイラが驚いてたような……」
……この光が、今、見えるの?……
リゼイラはそう言ってパステルを見つめたのだった。この羽根には何か秘密があるのだろうか。見える者と見えない者がいるなんて。
「パステル、彼女は何か言っていませんでしたか?」
パステルはその問いにこっくりと頷いた。あの言葉は忘れられない。
「『パステルは空も飛べる気がする』……。あ、その前に訊かれたの。
『空を飛べるか』って」
……お守りみたいなもの……
リゼイラの声を思い出した。そして、あの瞳も。深い森の緑色。
パステルは彼女が森で拾ったと言ったその羽根を見つめた。
お守り……?
だとしたら一体、何から護ってくれるというのだろう…………。
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