今月の富士見ファンタジアは自分的に不作。てなわけではないけれども、少し前の徳間デュアル文庫から。
山本 弘著「時の果てのフェブラリー −赤方偏移世界ー」
世界の各地にある日突然生まれた重力異常地帯「スポット」
その重力異常が地球の環境に変化を及ぼし、遠からず地球は住めなくんばる、と判明
した時、人類で唯一の救世主として立ち上がったんぼが11歳の少女、フェブラリーであった。
落雷の頻発する地帯はばまれた「スポット」の中心に向け、少女は世界を救うべく出発する。
ううむ。ライトノベルの範疇でもこれだけの作品、さがせばあるもんだな、と。
しかもこれ、11年も昔の作品。なんで当時は読まなかったのだろうか。
SFなれしていないと、この話にはついていけないかもしれないし、主人公であるヒロイン
の思考があまりに一人よがりなので少し引いてしまう部分はあるのだけれども。
ひとりよがりっていうか、うん「君、何様のつもり?」と聞きたくなるような思考ではある。
とはいれ、それは重ねた年の少なさ故なのだし、それは数年後を描いたエピローグでしっかりとフォロー
はされていたのだけれども。
SFだけではなく、いくつかの要素も含まれている。ロマンスの面は薄かったが、家族愛については特に
クローズアップされていた。妙に冷めた眼で見てしまったが、世の中のお父さん、そんなものなのでしょうか。自分にはわかりませんな。
電撃文庫今月の新刊。多分、ラスト(苦笑)
今月は電撃文庫がかなりの数を占めている。大賞関連の作品が数多くでたせいだろうか。
佐藤 ケイ著「天使に涙はいらない」
少しの霊感があって占いを副業としている高校生が主人公。
学校の「呪い」をとくために、守護霊を召喚したところ、出てきたのはロリコンの天使だった。
てなかんじで始まるこの物語。激しいバトルがあるわけでなく、ほんわかムードで全編進む。
最後のほうもハッピーエンドコースに乗っていて、ちょっと意外なカップリングもおきたりして
ま、こんなもんだね。
などとおもっていたら。
いわれてみれば確かに。のどんでん返し付きだった。
やー。そーくるかね。と思ったもんだ。
文章も読みやすいし、かなりクリアな印象を受けた。
なぜ、これが「ゲーム大賞」なのかいまいちよくわからないけれども、 -- どっちかっていうとコバルトか? --
一応「金賞」受賞だそうで、先日の「ウィザーズブレイン」より評価は上。
確かに文章の読ませかたといい物語の構成といい、先の物語より出来はよさげ。
話そのものは自分的には「ウィザーズ・ブレイン」のほうが好みではあるのだけれども。
考えてみれば、出版社の主催するこの手の大賞ものって「大賞」受賞作ってそう多くはない。
大概がその下の「金賞」「銀賞」だとか「優秀賞」「佳作」なんて所。
ま、デビューのきっかけにはなるのでよいのだろうが。
その数少ない「大賞」受賞作が「ブギーポップは笑わない」なのだから、あの作品がいかに素人離れしていたか、ということか。
実際の所、読む側にしてみればどーでもいいことなんだろうけど。
いまだに収まらぬこのライトノベル(ヤングアダルト)ジャンルの作家過剰よ。
もちっと需要と供給のバランスはとれんもんかいな(苦笑)。
電撃文庫今月の新刊。その・・・いくつだ?(苦笑)
川上 稔著「機甲都市 伯林3 パンツァーポリス 1942」
特有の物理法則、かなり特殊な法則をもつ世界で、第二次世界大戦を模した歴史絵巻。
ヒトラーはいないし、実際にあったドイツの経済事情なんかは割愛されており、独逸が自国を守るために
色々とやることに他国が介入する、という形になっている。
ユダヤに対する差別はあって、でもある、という記述だけで実際の描写はなかったけれども。この辺は容量不足か。
第二部になってからは連作になっているが、それでも第一部との関連性はあり、43年がキーになっている。
「閉鎖都市 巴里」との関連が楽しみである。なにしろアレでごちゃごちゃになってしまったからねぇ。
そして、本日の読書。ま、このへんは一気読みできるからね。
電撃文庫刊行、中村 恵里加著「ダブル・ブリッドX」
京都でおきたアヤカシの殺しの捜査の為に派遣される主人公。
うだるような暑さの京都を歩き回る主人公を嘲笑うかのように事件は次々とおきてゆく。
愛が憎悪にた易く変わることを初めて知った主人公は彼女を「好きだ」と言った彼のことを思い出して、想像をしていた。
彼に殺される自分を。
それを受け入れてしまう自分を。
裏の陰謀が着々と進んでいるようで、なかなかによろしいのでは。
気にかかるのが主人公(ヒロイン)がひどく後ろ向きに見えること。
これは作者が狙ってやっているらしく、作中でも登場人物のひとりが主人公にむけてそんな感じのことを言っていた。
そのせいか、雰囲気がやや暗め。巻を追うごとに暗く、どんよりとしていく感じがしてならない。
こー・・・確かに透明感はあるんだけれども、なんかこうじれったい、というか。
そこがよい、という人もいるんだろうけどね。
まとめ書きそのに。
電撃文庫刊行、三枝 零一著「ウィザーズ・ブレイン」
電撃ゲーム小説大賞銀賞受賞の新人作家さん。
たしかにアラのようなものも感じられるが、ストレートによめるし、ギミックや設定も凝っているし、
反面凝りすぎている感もあるけど、好意的に受け取ることができる。
いや、無論、それができない人もいるだろうけど。
天候制御装置の暴走により常冬の世界となったはるか未来の地球。
人類は「シティ」と呼ばれる閉鎖都市に閉じこもることでかろうじて生き延びてきた。
そして起こるシティ間の戦争。
この戦争で最も脅威となったのは核ミサイルでも攻撃衛星でもなく、「情報」に介入することで
物理法則すら書き換えてしまう「魔法士」と呼ばれる存在だった。
魔法の暴虐的なまでの力がアフリカ大陸を消滅させて大戦は終結し、そして10年。
シティの命運を握る「実験体」を巡って一人の魔法士と騎士 --- 身体能力に特化し、相対性理論を無視できる最強の魔法士と呼ばれる --
とが相対したのはそんな人類の滅亡を前にした時代だった。
主人公のひとりとなる魔法士にずっこい設定があるとはいえ、「最強」の名を冠する「騎士」にはちゃんと
勝てなくて、そこらのずっこさはなかったな、という思いと、
かなりヘビーなテーマを抱えてるな、という思いがある。
抱えるテーマはある意味単純。
「ひとりのために数百万人の人々を見殺しにするか、数百万の人々を助けるために一人を見殺しにするか。」
無情なテーマである。ちなみに犠牲となる一人ってのが魔法士が好意を抱いた存在だったりする。
騎士も悪いわけではなく、より多くの弱者を救うために悪行だと知ってあえての行動だし、
魔法士は結局好きな女の子を助けたいだけだったりする。
とんでもねーのが約1名いたりするんだけどな。
さて、この結末、どうつけるのか。
自分的には騎士が「正義」、魔法士が「悪」となるのだがね。
まとめ書きそのいち。
富士見ミステリ文庫刊行、藤咲 淳一著「闇を誘う血 BLOOD THE LAST VAMPIRE」
最近始まったシリーズ。ミステリ、と銘打っているので、推理系と思われるが、著者やカバーイラスト
を手がけるイラストレイターを見ると「富士見ファンタジア文庫」の延長線上にあることが明確。
で、この作品。ミステリーでもなんでもない。ホラーというほど恐怖感もない。
ビデオアニメの企画として始まったらしいのだけれども、劇場映画(おそらくアニメ)と
PlayStation2のアドヴェンチャーゲーム、押井 守著の小説(未読である)が先行していた。
それもあって購入してみたもの。
後書きを見るとコミックもあるらしい。これも知らないのだけれども。
そうでもなければ、知らない作家がミステリ文庫で刊行した本は、私は「絶対」買いはしない。
そもそもが「ミステリ」を読まないのだから。
とはいえ、昨今の事情を考えると、ミステリに属する作品の中にもSF属性のある作品があったりする
のであなどれなかったりする。
SFといっても広義だととてつもないタイプをふくむからねぇ。
電撃文庫刊行、三雲 岳斗著「コールド・ゲヘナA 」
FSSを彷彿とさせる設定を裏に抱えたロボットアクションものである。
煉獄(ゲヘナ)と呼ばれる遥か未来の地球。竜を頂点とした生態系と成り代わった地球で、
主人公は「デッドリードライブ」と呼ばれる巨大ロボットを操り、竜狩り(ドラゴンスレイヤー)として生きていた。
新たな自動運行型陸上空母を入手した主人公は、なくなってしまった生活費のために、とある商隊の護衛任務を請け負う。
ところが、その商隊の運んでいた「荷物」ってのがトンでもない代物で、そのせいで主人公は
国家間の陰謀に巻き込まれることとなる。
目覚めた「荷物」を前にヒロインは「今、自分に出来る事」をやろうと走りだした。
相変わらず竜は強敵で、でもそれを倒せる主人公も、もっと人間離れしてるな、とはおもいつつ。
巨大ロボットの振る剣の切っ先が亜光速に達するのと、レーザーを叩き切るのとどっちが無茶かな。などと考えてみたり。
なんだかんだで気に入ったシリーズではある。