2000年08月の徒然草紙


「徒然草紙」2000年08月版です。
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2000/08/28

久しぶりの更新は久しぶりの本。 中央公論新社刊行、茅田 砂胡著「王女グリンダ
数奇な歴史を歩んだ本である。オビのあおりが「失われた環が甦る」だもんな。

そもそも、この本は大陸書房から書き下ろしとして発刊されていたもの。
2冊まで出た所で大陸書房が消滅、行き場を失った。

その後、業界で何があったかはしらないけれども、中央公論社に拾われ、
続きを書く事になった時、作者が一から書き直しをした。
編集の意向もあったのだろうけど。
結果、生まれたのが「デルフィニア戦記」である。

つまり、これはデルフィニア戦記の前身であり、失われた物語であり、
本来ならば再発行などという事態のおこりえないものだったわけだ。
なにしろ作者はデルフィニア戦記で本質では同じ物語を書いている。
文章は違うし、物語の流れも、登場人物にも違う部分があるけれども、本質が同じである。

故に作者も発行には二の足を踏み続けたらしい。
それが発行、しかも加筆・修正一切なく、当時のままの姿(2冊だったものが1冊にまとめられてはいるが)で復活した、
というのはどうも読者からのリクエストが大きい為らしい。
編集も、これは無視できない(=売れる)という判断をしたのだろう。

実の所、初めて読むわけだが、こうして読んでいくと・・・デルフィニアまで読みたくなっちまったぜい(苦笑)


2000/08/20

角川スニーカー文庫刊行、ひかわ玲子著「九大陸物語 3 知恵の柱
ある意味、意外な終りかたをした作品。
ずいぶん昔に出た作品の「三剣物語」の続編で「前作」とのつながりも結構あったりする。
タイトルからわかる通り、3分冊の3冊目である。
1冊目ではなく、前作から読むことをお勧めするが、入手できるかなぁ?

ライトノベルに間違いなく分類できるのだけれども、扱うテーマは重く、
「生まれも育ちも異なる人はわかりあえるか?」というもの。

結論は当然出してはいるけれども、ここでははっきりとは述べない。
読んでから、自分で考えてみて。という事。
理想論だけにおわってはいず、現実的な面に目を向けている、とだけ言っておこう。

ただし、これはライトノベルであり、読者層を意識しているはずである。
それも考慮にいれて、主人公たちのだした結論を考える必要あり。

人と人とが皆わかりあえるかどうか、なんてな、結論すらもそうそう簡単に出る もんじゃなかろうしな。
永遠の命題、ともいうか。

あ、某液体にどろどろにとけてひとつになったり、意識の奥の奥までひとつになれば「わかりあえる」とはおもうよ。
尤もそうなったときに「わかりあう」必要があるかどうかは疑わしい と思っているけど。
・・・なにしろひとつだし。

結構おすすめ。Bestにいれてもいいくらい。


2000/08/18

ブギーポップのシリーズを書いている上遠野 浩平による新作。
ついこのあいだ殺竜事件をかいたとおもってんだけれども。
電撃文庫刊行、「冥王と獣のダンス

はるか未来、謎の高度な生命体により宇宙に進出した人類はボロクソに負けて、資源の枯渇した地球におしもどされていた。
文明は後退し、かつての高度な機械技術もオーバーテクノロジーと化して 理論は不明なまま、ただ動くから使っている、
そんな状態となる。
(この自動兵器工場が「プルートゥ」と呼ばれる、タイトルでいうところの「冥王」)
この冥王から生み出された兵器を使って人民を支配する一派と、
「奇蹟」とよばれる、要は超能力を「人類の革新」としてみなして機械一派を駆逐し、
自分たちが支配者になろうとする一派との戦争が永く続いていた。
いつ止るかわからない自動工場に生産の全てを頼り、封建主義に陥った一派と
少数しか存在しない「奇蹟使い」を兵器として運用し、「奇蹟」が人類の革新だと 言いつつも
自分達の利益を第一義にする一派との戦争である。
膠着状態になって当然であろう。

そんな中で異常なまでの「感」をもつ主人公、
その主人公にひとめぼれをした上でそれによる自分の感情の変化を主人公にかけられた「呪い」と認識するうぶな少女、
そして主人公の力に気が付き、兵器としてしかみなされない自分たちを変える為に敵対勢力に亡命した「奇蹟使い」の話である。

「ブギーポップ」を読めばわかるのだが、実はこの著者には御都合主義的な部分が ある。
この物語にもそれがあったが・・・それをある意味逆手に取っている。
ご都合な部分を主人公のもつ力のせいだ、としているのである。
うまい、というべきかずるい、というべきか。

楽しめたのは確か。尤も、続編はあまり期待してない。というより、これで終ってくれた方がキレイだと思うのだが。
さてさて。


2000/08/15

「ロケットガール」のシリーズを紹介している野尻 抱介の新作。
朝日ソノラマ文庫初登場である「銀河博物誌 1 ピニェルの振り子
なんだかタイトルの付け方が氏の別作品である「クレギオン」のシリーズと 同じだな、という印象がまず、きた。

1900年代の人々が別の惑星に何者かの手によって転移させられ、 そこで磁力を当てる事によって推力を発生させる不思議な物体を 発見した。
その物体。「シャフト」を利用することで、彼らは相対性理論も量子論もなく、 19世紀の航海術をもとにして宇宙に進出した。

というのがバックボーン。19世紀の航海術を宇宙に当てはめるためと、 当時の博物学を取り込むための手法・・・らしい。
宇宙船の航海にレーダーを使わず、目視と感と計算尺を使う、というのは 初めて見るパターン。
そう、コンピューターなんてものはないので、宇宙空間や惑星上での座標 算出には目視による観測を計算に当てはめて算出するんである。
彗星の軌道計算はおろか、操船までそれでこなしてしまうのだからそらおそろしい。

内容はなかなかスケールの大きなもの。シリーズタイトルもついているので おそらくは続編もありうるのだろう。

ちょびっと楽しみだったりして(苦笑)

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